表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/585

劇的修繕(リフォーム)ビホーアフター

加藤みどり様の(ナレーション)でお読み下さい。

 私が謎の人②(大海人皇子)の舎人になれ、と人事発令があり辞令書と共にやってくるであろう監視員? 上司? 同僚? 部下? を待っていますが一向に来ません。


 もしかして「あの内定の話、流れちゃった。てへっ(by鎌足)」となったのか?

 もしかして「どうしてあんなど田舎へ行かなきゃならねーんだよっ!」って異動を拒否しているとか?

 もしかして「讃岐って四国じゃなかったの?」って道に迷っているとか?


 ……あり得ます。

 しかし考えても仕方がないので気長に待ちます。

 待つついでに前に住んでいた家の修繕(リフォーム)に取り掛かりました。

 要点(ポイント)は以下の通りです。

  冬が近いので断熱に力を入れました。

  建具は全て新品なのに取り替えました。

  紙が貴重なので贅沢になりますが、障子を取り付けて採光と断熱を両立しました。

  偉いお方ならお付きの人が居るはずですから、使用人部屋を用意しました。

  この時代の建物は現代の感覚では収納が少ないので広めにとって、床下収納も完備です。

  ついでに私の部屋にある移動式の本棚と同じものを取り付けました。

  屋根も葺き替えて、痛んでいる箇所も全て取り替えました。

  一応、施錠管理できる様、警備(セキュリティ)にも気を遣いました。


 これで満足してくれる人だといいなぁ。


 修繕工事が終わり劇的ではありませんが住み心地が向上した家を見て、この家に長年住んでいたお婆さんも何故か感動してくれました。

 何という事でしょう。

 匠になった気分です。

 実際にあの番組の裏で、あの値段で工事をする匠や工務店さんは泣いているという噂は本当かしら?


 そんなある日、妙な一団がやって来ました。

 家人さんから一団の到着の知らせを受けて、お爺さんと私が迎えに行ってみますと……、

 すごい数の人足さんを引き連れて、まるで二宮金次郎が団体様で押し寄せている様な感じです。

 手に本もスマホも持っていませんが。

 よく見ると二宮金次郎が背負っているのは殆どが木箱みたいです。

 たぶんこの方が私の監視に来た人だろうと思い、挨拶へ行きました。


「ようこそおいで来なさった、じゃ。

 私がこの地域の国造、讃岐造麻呂じゃ」


「私は国造の娘、かぐやです」


「ほう、君がかぐやだね。

 私は多治比(たじひ)

 氏姓の通り丹比(たじひ)の地の者だ。

 皇子からはこの地に赴き書を読みゆっくりせよ、と言われてやって来た。

 君の事については中臣様から仰せつかった仕事をしていると聞いているよ。

 よろしくな」


 年齢は20代半ばで、容姿は整っていますが何となく衣が派手です。

 もしかして傾奇者(かぶきもの)? チャラ男?

 完全に私を子供扱いしている様です。

 こちらに来てから、私を子供扱いする人が居なくなってて久しいので新鮮な感じがします。


「宜しくお願いします。

 どの様な御方が参られるか分かりませんでしたので、屋敷を用意しましたがお気に召されますか分かりません。

 先ずはご覧になられて、宜しければお荷物を卸しては如何でしょう?」


「それは助かるね。

 一年分の書を持って来たから運ぶのも大変でね」


「それではこちらになります。

 ご案内します」


 私とお爺さんは修繕したばかりの家へと一緒に行きました。


「粗末な屋敷で申し訳ありません。

 もしお気に召さなければ新築のご準備に取り掛かりますが……」


「いや、流石にこの様な場所で贅沢は言わないよ。

 気に入らなかったら新しく建てるし。

 この屋敷は私が買い取ればいいのかい?」


「いえ、特に考えておりません。

 この地に住まう方から屋敷の贈与で報酬を求めるつもりは御座いませんので」


「そうなのかい?

 それじゃ有り難く使わして貰うよ」


「それではどうぞごゆるりとお寛ぎ下さい。

 到着したばかりでご準備が整わないと思います。

 今宵はお付きの方を含めまして我が屋敷へおいで下さい。

 ささやかな歓迎を致したいと思います」


「助かるよ。

 今後とも頼むよ」


 軽い感じの人ですね。

 麻呂クンのお父さんの物部宇麻乃(もののべうまの)様も軽いけど、あの人の場合はワザとやっている感があって、高い事務用品のセールスに来る営業の人という感じでした。

 多治比様は単に総務部の若い子と休日一緒に出かける若い子という感じです。

 今の幼い容貌の私が20代に人に若いと言うのもアレなんですけど。


 その夜、多治比様の歓迎の宴を催しました。


 ◇◇◇◇◇


「多治比様、ようこそおいで下さいました」


 多治比様と数人の家人の人達がやって来ました。

 二宮金次郎していた人足さん達は帰ったみたいです。

 私達だけでは淋しいので秋田様夫妻、与志古様と真人クンの親子、そして麻呂クンとお母様もご招待しました。

 突然ではありましたが、娯楽の少ないこの地ではこうして余興(イベント)は喜ばれます。


 秋田様夫妻が滞在する忌部の宮にいるお付きの人が楽器ができますので、ここぞとばかりに張り切って演奏してくれました。

 萬田先生はだいぶ回復はしましたが舞を舞うのは控えています。

 仕方がありませんので私が代理(ピンチヒッター)で舞います。


 …………(クルクル)…………

 …………(クルクル)…………

 …………(クルクル)…………


 錆び付いてはいませんが、進歩もしていません。

 その間、多治比様はずっと秋田様とお話ししていました。

 何となく職場の飲み会を思い出す光景です。


 舞い終わって主賓の多治比様にご挨拶します。


「お粗末に御座いました」


「いやー、さすが帝の前で舞を披露しただけのことはあるねー。

 すごく良かったよ」


「身に余るお言葉ありがとう御座います」


「いや、いーよ堅苦しい言葉は。

 普段は秋田殿にズケズケと言っているんでしょ?」


「え?

 秋田様とはお知り合いなのですか?」


「いえ、姫様。

 お互いに名前だけしか知らず、本日初めて(まみ)えました」


「申し訳御座いません。

 世間に疎い私には多治比様がご有名な方とは存じなくて」


「いえ、違うんです。

 多治比殿は蔵書家の中では有名な御仁なのです」


「そうなんですか?」


「かぐやさん、そうなんだよ。

 書なんて中々手に入らない物だし、珍しい書は取り合いになる事が多くてね。

 蔵書家の中でもその名を恐れられている秋田殿にはことごとく先に行かれて、私は悔しい思いをしてばかりなのさ」


「とんでもない!

 それは逆です。

 むしろ多治比殿の資金力に敵わなくて何度涙を飲んだことか……」


 つまり……お互いオタクの世界での有名人同士で、名前を知れども会ったことはなく、今日、我が屋敷(イベント会場)で初めてお会いしたという事?

 そう言えばすごい数の書を持ち運んでいましたもんね。


「それにしても国造殿が用意してくれた屋敷。

 あれ、気に入ったよ。

 広くはないけど居心地いいしい。

 それに持って来た書物をどうしようかと思ってたけど、まさか全部収納できる書棚があるとは思ってなかった。

 棚が動くなんて凄いよね。

 紙で出来た建具を見た時には驚いけどあれなら閉め切った部屋の中でも書が読める。

 紙にあんな使い方があるなんて思ってもいなかったよ。

 初めて見た」


「お気に召されましたら幸いです。

 本当はもう少し薄くて白い紙があれば良かったのですが、すぐにご用意できなくて……」


 (ビホー)(アフタ)は劇的に成功したみたいです。

 この時代に障子はないみたいです。

 飛鳥京へ行った時も無かったし、ウチで使うにも紙が貴重なので躊躇ってましたし。


「へぇー、姫様はその様なことをやってらしたんですね。

 機会があれば是非見に行きたいものです」


 あ、少し秋田様が不機嫌。


「秋田様はお子様がお生まれになったばかりですので暫くの間、趣味は封印ですね。

 ほほほほ」


「おや、そうなのかい?

 やはり趣味に生きるのって独身でなければ出来ないからね」


「……くっ」


 現代も飛鳥時代もあまり変わらないみたいです。


「ところで、かぐやさん。

 今後についてだけどいいかな?」


「はい」


「先ほども言った通り、君はこれまでやってきた仕事を続けてもらうよ。

 それについて私は皇子様と君を紹介した中臣様へ報告をする。

 それと新年は難波京へ行って、新年の儀で皇子様へ挨拶に行ってもらうからそのつもりで。

 流石に御目通り無しに舎人を語るわけにはいかないでしょ?」


「はい、承りました」


 私の頭の中には3年前に残念な女子だなと言っている皇子様の姿が思い浮かびます。

 たぶん同じ事を言われるのだろうなぁ。


「多治比様はこちらでどの様にお過ごしされますか?」


「一応、君の指導役として必要があれば智恵を貸そう。

 あと中臣様のご嫡男に学を教えて欲しいとも頼まれているので、それが私の一番の仕事になるかな?

 秋田殿の話では君も書が好きだという事だし、一緒に来るといい」


 何だかんだで中臣様は真人クンの事を気にかけているのですね。

 少しだけ安心しました。

障子は平安時代から使われる様になったそうです。

襖はそれ以前にあった模様です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ