これまでの報告とちょっと相談
安定のお爺さんと残念姫。
秋田は最近かぐやに感化されて言葉使いが近代的になっています。
中臣様からの突拍子もない提案で、私は舎人となって皇子様に仕える事になりました。
よりによって大海人皇子にです。
はっきり言ってとんでもない偉人です。
中臣様にしても載っていない歴史の教科書がないくらいの偉人の中の偉人なのに、飛鳥時代は世間が狭すぎる様な気がします。
もしかして私、何処かで選択肢を間違えたのかしら?
【天の声】選択ミスは否定しないが、異世界の世間が狭いのだ。
『竹取物語』に中臣鎌足様が出てくるシーンは無いし……。
あ、でも通説では鎌足様の息子の藤原不比等が車持皇子として出てくるのでした。
真人クンも車持皇子の候補者だし。
皇子といえば、五人の求婚者の中にもう一人、石作皇子っていう人が出てくるのですね。
今度、秋田様に似た様な名前の皇子様が居ないか聞いておきましょう。
皇子というのは親王、内親王、王、を皆んなまとめて皇子様、皇女様と呼びます、と以秋田様が以前教えてくれました。
基本的に帝のお子様が親王で、親王のお子様が王と呼ばれて、王は4世代まで名乗れるので、皇子ってすごい数の人がいるのでは無いでしょうか?
真人クンも元を辿れば皇子様だったわけですからね。
こう考えますとセレブにモテまくったかぐや姫って、超ハイスペックお姫様のお話だったのだなぁと他人事の様に思ってしまいます。
現実のかぐやはジミ顔の喪女の残念女なのに。
【天の声】残念かぐや姫……(ボソッ)
何はともあれ、お爺さんお婆さんに報告です。
ビックリするだろうなぁ。
◇◇◇◇◇◇
「……というわけで私は大海人皇子様の舎人となりました」
私の報告を聞いてお爺さんとお婆さんが固まっています。
どうしましょう?
もしもーし。
「……はっ!
わしはかぐやが皇子の妻にならず、皇子の舎人になる夢を見たようじゃ」
「いえ、夢ではありません」
「では舎人は妻になれるんか?
なれるじゃろ?
なれるはずじゃ。
きっとなれるんじゃー!」
「いえ、なれるなれないではなくて、なるつもりがありません」
「何故じゃー!!」
「皇子様には既に美しくて才のある女性がおられます」
「たくさんおった方がいいじゃろに」
「それ母様の前で言いますか?」
「あ、いや、わしには甲斐性が無いから……」
「ならば私は甲斐性のない国造の娘として舎人になります」
「どうしてそんなに舎人になりたいのじゃ?」
「なりたい、なりたくないのではなく、中臣様のご命令だからです。
不服があれば中臣様に直訴してください」
「わし……鎌足様怖いんじゃ」
「同意しますが、父様残念すぎます」
「かぐやや、それでこの先どうなるんだい?」
駄々をこねるお爺さんを見かねてお婆さんが話を前に進めます。
「うん、それが今までと同じで良いって」
「おやまっ、それではずっとここに残るのかい?」
「ずっとか分からないけど、当面はそうなりそう。
だけど、監視の人が来るって」
「するとかぐやや。
その監視の人とやらが皇子様という事はあるのか?」
お爺さんが面倒な方向に回復しました。
「分かりません。
監視が付くとしか聞いてませんので。
この様な場所に来る皇子様が手放したく無いくらい有能な方であるのは考えられません。
むしろ追い出したいくらい面倒な方であると思った方がいいでしょう。
私としては身分は低くても有能で使える方に来て貰いたいと思っています」
そうなんですよね。
希望に燃えて左遷先へやってくる人はいませんものね。
燃えていたら燃えていたで面倒そうだし。
「中臣様のお話では、監視の方は皇子様の信頼の厚い方と聞いております。
詳しくはその方が今後どの様にするのかご存知かと思います」
「それじゃ、歓迎しなきゃね」
現実的に前向きなお婆さんと、現実逃避に前向きなお爺さん。
なんだかんだでいい夫婦です。
◇◇◇◇◇◇
次は秋田様です。
情報通なので何か知っているかも知れませんから
「……というわけで私は大海人皇子様の舎人となりました」
私の報告を聞いて、秋田様と萬田先生が固まっています。
既視感です。
「……はっ!
姫様、どうしてこの様な事になったのですか?」
「元を辿れば、秋田様が紙飛行機を氏上様に送ったせいです」
(※第74話『【幕間】これまでのあらすじととある場所での会話』参照)
そーなの。
あれさえ無ければ、謎の人②に御目通りする事はなかったのよ。
「よく分かりませんが、申し訳御座いません」
そーだよ、詫びは現物で示しなさい。
「では姫様は難波宮へ参られるのですか?」
「いいえ、これまでと同じで良いのだそうです。
舎人が皆皇子の宮に居なければならない決まりは無いとの事です」
「それはそうですが、そこまで野放図なのも珍しいですね」
「いえ、監視の方が来られると言っておりました」
「監視ですか……。
その方のお屋敷の準備は?」
「屋敷に寝泊まりするか、前に住んでいた屋敷を修繕するか、でしょうか?
どの様なお立場の方か分からないので、ご当人と相談しながら決めようと思います」
「姫様、監視とは名ばかりの間諜であるかも知れませんのでお気をつけ下さい」
「気をつけるつもりですが、もう中臣様にはだいぶバレているのでは無いでしょうか?」
「確かにそうですが、皇子様と中臣様がどこまで通じているか分かりません」
「そうですね。父様と相談してみます」
「舎人にしてまで姫様が後宮へ行くのを阻止したいとは、中臣様は余程姫様をお気に入れられてるのですね。
それを承諾した皇子様もですけど」
「私が出産の手助けをしたらどうなるか知っていますから、もっと産みたいのでしょうか?」
「そんな理由でしたら、皇子様は監視までつけて姫様を舎人にしませんよ」
「他に心当たりは無いのですが……」
「姫様はすっかりお忘れですが、忌部は姫様を天女様として崇めているのですよ」
「その設定、まだ生きてるの?!」
「そう簡単に忘れ去られても困ります。
それに大海人皇子はお若いのにとても優れた方として知られております。
その大海人皇子としても優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいと思いますから」
喉から手って、その表現、飛鳥時代でも使うんだ?
「そうなんですか?」
「はい。
第一級の歌人として名を馳せております額田様を妃に迎えているのも、皇子様の名声に一役買っております。
額田様が皇子を言動を讃えて一首歌えば、その影響は計り知れません。
他にも優秀な方が大海人皇子の元に集まっているらしく、姫様もその一人として勧誘されたのかも知れません」
うーん、
皇子様が話をする時にピカピカと照明係やるとか?
政敵にピッカリの光の玉をぶつけるとか?
……無さそう。
「後の事は監視の方が来てから考えます。
せめて気が変わらないくらいにはお役に立つところを見せた方が良いでしょうから」
「私としましては姫様がその様な事を考えると、ろくな結果をもたらさない様な気がするのですが……」
「大丈夫です。
私も過去の経験から学びましたから」
「それならいいのですが……」
秋田様と萬田先生が顔を見合わせて何か言いたげです。
そんなに心配しなくてもいいのに。
「ところで一つ聞きたいことがありました」
「何ですか?」
「皇子様ってたくさんいらっしゃるのですよね?」
「王と呼ばれる方を含めましたらかなりの数になります」
「その中に石作皇子様って知っていますか?」
「石作……ですか?
申し訳ありません。
私の知る限りは聞いたことがありません。
石作氏ならば知っていますが」
「石作氏?」
「ええ、石の細工に掛けて秀でた氏です。
陵墓を作る際には石作氏の協力は欠かせません。
その系譜の方に皇子様がいるか調べてみますか?」
「ええ、急ぎではありませんので、お手隙の時にお願いします」
「分かりました。
ところで今回の件は氏上様に報告して良いのですよね?」
「ええ、構わないと思いますが、くれぐれも余計なことは書かないで下さいね」
「はい、姫様もくれぐれも余計なことを仕出かさないで下さいね」
ひどっ!!
【天の声】安定の残念姫……。
足を怪我してちょうど3ヶ月。
日常生活には支障はありませんが、筋肉が硬化してしまい足の可動域が狭いままです。
先ほどまで鍼を打ってましたがすごく痛いです。(泣)




