本場讃岐じゃない讃岐うどん
B級グルメ小説?
中央が本格的にゴタゴタし始めていますが、讃岐は至って平和です。
私が持っている知識ではこの頃ってあまり印象がなくて、次に知っている出来事は白村江の戦いです。
たしか……西暦660年頃でしょうか?
つまり10年以上後です。
この10年間の知識の空白期間にどのような事が起こるのか想像もつきません。
しかし先行きが想像つかないのは誰しも同じなので、考えるのは諦めました。
私が真に心配すべきなのは、私がこの世界へ来た理由、すなわち『(かぐや姫の)過ちを繰り返すな』という月詠命様(仮)の言葉を実行する事です。
その第一歩が、求婚者に無理難題を押し付けて彼らの破滅を喜ぶような悪役令姫にならない事です。
そうしないと仕送りが停止になるかも知れませんから。(ここ大事)
性格の良い悪役令姫になるためにもルーチンワークは欠かさずやっています。
与志古様の様子を見に行ったり、
萬田先生の様子を見に行ったり、
田んぼの様子を見に行ったり、
ため池工事の進捗を見に行ったり、
領民の出産を見届けたり、
麻呂クンと一緒に剣の稽古したり、
真人クンと一緒にお勉強したり、
お婆さんと新しい食事のレシピを考えたり、
お爺さんと竹林で金のなる竹を発掘したり、
秋田様から接収した書物を独りで調査したり、
……私って結構忙しい?
あ、そうそう。
先日約束しました避妊法の講義につきましては萬田先生の協力が得られなければ出来ませんのでしばらく間、先伸ばしです。
それまでにオギノ式と基礎体温法を思いださなければなりません。
道具も薬も無いし。
それにしましても満年齢で11歳の女児が10以上年上の大人の男女2人に、
「卵巣が云々で……、排卵が云々で……、精子が云々で……、受精卵が云々で……」
って、性教育をする姿ってどうよ?
◇◇◇◇◇
……という事で本日はうどん作りに挑戦です。
讃岐といえばうどん。
うどんと言えば讃岐。
例え讃岐違いでも、うどんは欠かせませんから。
【天の声】全然、『という事』じゃない!
本当は年越しの時にみんなにうどんを振る舞いたかったのですが、皇子様がいらしたときに小麦の貯蔵がスッカラカンになってしまい、今年の小麦が実るのを待っていました。
たしかうどんの原料は……小麦粉と水と塩、だったはず。
適当に塩水を作りまして、それを小麦粉に投入~!
ダバダバダバ……。
あ、入れすぎた。
小麦粉を追加します。
水加減が難しい。
コネコネコネコネコネ……。
まあ、こんなものかな?
たしかこの後、生地を休ませるのでしたね。
濡れ布巾を被せて1時間ほど待ちます。
ここで、生地を足で踏んで踊ったり、元格闘家が力いっぱいに捏ねたり、小袋に入れて子供達に生地をキャッチボールさせたりするのがグルメ漫画の常識です。
しかし私には、体力も体重も美味しいうどんに掛ける情熱もありませんので、スルーします。
そんなでは腰のないうどんになってしまうぞ!とうどん好きの皆さんに言われそうですが、所詮私は腰抜けなのです。
衛生状態の宜しくないこの時代で足踏みの麺はちょっと戴けません。
代わりに生地の熟成をイメージした光の玉を当ててみました。
♪ 美味しくなぁ〜れ、もちもちもち♪
さて、猪名部さんに作って貰った麺棒とまた板で麺を打ちます。
初めてなので中々勝手が分からず、潰れたお煎餅みたいになりました。
折りたたんでザクザクザクと包丁で短冊状に切って麺にしました。
太さが疎なのはご愛嬌です。
あとは茹でるだけですが、その前にお汁です。
汁は醤ベースで出汁はキノコ。
少し味噌っぽい感じです。
この時代はまだ椎茸の栽培技術が確立されてなくて、膨大な数の人体実験の末、食用であるかどうかが分かっている人が採ってくる天然物なのでキノコは高価です。
具は青菜と卵です。
生卵を落として月見にするのもいいのですが、光の玉で殺菌出来るのは私だけなので、卵の生食を真似されないためにあえてゆで卵を入れます。
次に機会があればアゲ玉やかき揚げにも挑戦してみたいですね。
さて、茹で釜に投入です。
ぐつぐつぐつぐつ……。
時間が分からないので時々つまみ食いしてみます。
……大体、いいかな?
それでは麺を掬い上げて、お椀にイン!
お汁を掛けて具をのせて、試食です。
ツルツルツル
うん、悪くない味です。
もう少し味が濃い方が私的には好みですが、皆さん薄味が好みなのでこれで良いでしょう。
それでは麺をどんどん投入します。
次はお婆さん、ずっと私のお手伝いをしてくれてました。
「母様、どうぞ」
「不思議な食べ物だねぇ。
おやおや、お箸で摘み難いよ」
「漆塗りのつるつるのお箸だと食べ難いから、普通のお箸の方がいいと思うよ。
はい、これを使って」
(つるつるつる)
お婆さんは一本一本ゆっくりと味わって口に入れていきます。
「おやまぁ、これはお餅みたいなのに柔らかくて、噛み易くて、香りも良いし、すごく美味しいよ」
どうやら気に入って貰えたみたいです。
もちもちの呪文が効いたのかも知れませんね。
「では父様に持っていきましょう。
きっとたくさん召し上がってくれると思うよ」
「きっとそうだねぇ」
うどんを食べたお爺さんの第一声はいつもの通りでした。
「かぐやよ……。
なんじゃこりゃぁ〜。
もの凄く旨いぞ。
口の中でもちもちの麺が踊る!のじゃ。
噛めば噛むほど小麦本来の持つ香りが口いっぱいに広がる、のじゃ。
醤と椎茸の香りが鼻を突き抜け、えも云わぬ余韻が漂っておる、じゃ。
青菜は青臭さを全く感じさせず、程よい調和をもたらしておる、じゃ。
全体に塩気に偏りがちな味を卵が中和して、口休めしてくれるのも絶妙、じゃ。
おかわり!じゃ」
お爺さん、時代を超えた食レポありがとう。
そんなに喜んでくれると、私も頑張った甲斐があります。
この時代の食事は質素ですが、耐えられない程ではありません。
私はこの時代にしては衣食住に恵まれていますし、現代の食文化に拘るつもりもありません。
ですが、出来るだけお爺さんお婆さんと一緒に過ごすため、家事手伝いを進んでやって、親孝行する様にしています。
私が原作通りのかぐや姫であるのなら、いつ高飛車な使者が迎えに来て元の世界に強制送還されるのか分からないのです。
だからここにいられる間、出来るだけたくさんお爺さんお婆さんを楽しませてあげたいと思っています。
この後、家人の皆さんや警護の人達にもうどんを振る舞い、好評のうちに釜の中のうどんは完売となりました。
小麦粉からうどんを作った事は一度だけありますが、何故か出来てしまった思い出があります。
全然腰のないうどんもどきでしたが、なんとかなるものなんですね。
分からない方のために元ネタを解説しておきますと、踊りとキャッチボールは『包丁人味平』、元格闘家は『美味しんぼ』です。
こうゆう人との触れ合い回を増やしたいですが、今ひとつ盛り上がりに欠けてしまうので、お爺さんにはかっ飛んで頂きました。
お見苦しくて申し訳ございません。