三話
階段の方を見ると転がり落ちたと見られるクラスメイトのサッカー部横山がうつ伏せになっていた。
桜木「横山!!」
桜木が横山のもとに駆けつける。
安田区「横山君…!やっぱり、さっきのあいつが…あいつがやったんだ!」
安田区は顔を真っ青にしてガタガタ震えている。
桜木が横山の呼吸を確認し脈を測る。
桜木「息がない…クソッ」
俺も駆けつけて横山の全身をくまなくチェックする。
俺「打撲痕がある、これはバッド…?」
桜木「バッドで殴られて階段から落ちたか…」
俺「どういうことだ?犯人が殺して回ってるのか?」
首に爆弾が付いてるのにわざわざ?
桜木「ちがう」
桜木が見開いたままだった横山の目を伏せる。
桜木「犯人は俺たちに一時間で人数を二十人に減らすように命令したんだ。
そうすれば二十人はとりあえず助けてやると。
時間以内にできなければ全員死亡、だそうだ」
桜木が悔しそうに目を瞑る。
桜木「その話をしたら、田崎が俺に飛びかかってきた。他の何人かも誰かを殺そうとしたらしい。教室は阿鼻叫喚だ。そこで校内放送があって…」
俺「そこから先は動画で観た」
茨が説明し田崎が首輪の爆発で血だらけで倒れたのを思い出す。
桜木「そうか、なら話は早い。
あの後も二十人に減らすよう指示があって、また数人が他者を殺そうと躍起になった。その時にみんな教室から逃げ出してバラバラになったんだ。そして安田区と俺が一階で鉢合わせたところに面を被ってバッドを持った誰かが来た」
俺「面?」
桜木「剣道の面だ。誰かは分からないが、制服は男子だった。それで安田区が悲鳴をあげたんだが、俺たちのことは素通りしていった」
安田区「………」
俺「そして横山を見つけて殺したんだな」
桜木「あぁ」
桜木が暗い顔で横山を見る。
桜木「お前は助けに来てくれたんだろうがこうなってはもう…」
俺「え?」
俺「違うよ?」
桜木「え?」
俺「俺だけハブられてて嫌だったから抗議に来たんだよ」
沈黙。
桜木「えぇ…」
安田区「怖い…」
桜木と安田区が困惑した顔を浮かべる。
俺「犯人になんで俺だけ呼んでないのか。残り31人とかいってたけど30だよ。横山も引くから29人だ。捕まえて、問い詰める」
俺はまかせろと胸を叩く。
だが二人の表情は変わらなかった。
桜木「お前は変なやつだと思っていたが…」
安田区「怖い怖い怖い怖いっていうかキモい気持ち悪い!」
俺「なんだぁ…テメェ…」
安田区「ひっ」
桜木「人が死んでるんだぞ」
俺「うん。田崎や横山のこと、俺は悲しいよ」
桜木「そうか…」
桜木がため息をつく。
桜木「とりあえず、お前は首輪がないから比較的有利だ。殺されないように隠れるか逃げていろ」
俺「いや俺は犯人を探して校内から出られない仕組みや俺だけハブられた理由を聞き出さなくちゃいけないんだ」
桜木は頭を抱えた。
桜木「………」
安田区「桜木君!こいつは放っといてどこかに隠れよう!」
桜木「いや、俺は…」
袖を引っ張る安田区に桜木は諦めたようにこちらを見る。
桜木「クラスメイトを殺して回っている数人には気をつけろ。全員はわからないが影山、轟は襲いかかってるのを教室で見た」
俺「影山と轟…」
影山俊樹は地味な男子生徒で轟万優架はクラス一のギャルだ。
安田区「万優架はわかんないけど影山は女を狙ってた…」
安田区が桜木の陰でボソリとつぶやく。
俺「そうか、二人ともありがとな。俺はとりあえず放送室に行ってみるよ」
桜木「あぁ、気をつけろよ」
俺「お前らもな」
桜木達とは反対方向、横山が転がり落ちてきた階段を俺は登っていく。