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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-31.分煙と換気

 充満した煙の一部が収束し、見て分かるほどに密度を高めていた。触れられるほどの硬度を持ち、煙が絡まるように移動してくる。


 捕まる。咄嗟に思ったらしく、パラドックスが両腕を鬼の手に変え、接近する煙を切り裂いた。固まっていた煙が霧散し、再び部屋の中を満たしていく。


「ダメ……!? 煙が消えない……!?」


 動揺したようにパラドックスが呟いた直後、ヒマリの足に何かが触れ、その場から動かせなくなった。視線を落とせば、足に絡まる煙が目に入る。コンクリート製の床が見えないほどの密度で集まった煙はヒマリを離すことなく掴んでいる。


「こいつ……!?」


 ヒマリが思わず漏らした一言によって、パラドックスは足元の煙の存在に気づいたらしかった。鬼の手のままだった腕を即座に振り下ろし、ヒマリの足に絡んだ煙を払っていく。

 だが、固まっていた煙は広がって、周囲を満たす煙に合流するだけだ。煙そのものを消さないと、この行動に意味はない。


 外。一瞬、ヒマリの頭の中に壁を破壊するという解答が思い浮かんだが、それを実行できるとは到底思えなかった。壁まで移動している間に、周囲の煙が集まって、ヒマリとパラドックスを捕らえるだろう。換気できれば、それが一番かもしれないが、この状況からは不可能だ。


 それなら、別の手段と考えるヒマリが順番に武器を確認しようとして、パラドックスの腕を見やった直後に思いついた。


「もう一つの手だ! それで煙自体を弾けないか?」


 ヒマリがパラドックスに思いついた手段を提案し、パラドックスの両腕が異形のものから、光り輝くものに変化する。その手を空間に翳し、何かを押しのけるように動かすと、二人の周囲の煙が風に吹かれたように動いた。


 それを数度繰り返し、ヒマリとパラドックスの周囲から完全に煙が消え、同じ部屋の中に何もない空白地帯が誕生する。これで四方八方を気にする必要はなくなったが、それを許してくれる相手では、当然なかった。


「何してるんですか!?」


 踏み込みながら拳を構え、グッドラックがそう聞いてきた。ヒマリやパラドックスとの距離を埋め、煙の存在しない空白地帯に踏み込んだ瞬間、構えていた拳を一気に振るってくる。


 受けられない。頭ではそう理解しているが、咄嗟に動き出すには反応が遅かった。ガードして受け止めるか、避け切れずに食らうかの二択が差し迫る。


「来るな!」


 そう思っていた中、不意に視界の端からパラドックスの光り輝く腕が割り込んできた。ヒマリの前方に腕が翳され、グッドラックの拳がそこに衝突する。


 直前、拳は勢い良く弾かれ、グッドラックの身体は大きく後退した。助かったとヒマリは安堵しながら、周囲の煙に目を向けようとする。


 その瞬間、大きく背後に倒れ込んだグッドラックが、大きく姿勢を下げた状態から足を突き出し、ヒマリの足に蹴りを入れてきた。衝撃に気づいたヒマリが視線を下げ、自身の足にぶつかるグッドラックの足を視認する。


 そこには、『()』と書かれていた。


「ぐっ……!?」


 足にまとわりつく鈍い痛みに襲われ、ヒマリは思わずその場に屈み込む。グッドラックの動きに気づいたパラドックスが手を伸ばし、グッドラックの身体を空白地帯の外側まで弾き飛ばしていたが、グッドラックの蹴りは確実にヒマリの足に入っていた。


 それも不安定な体勢から繰り出された、苦し紛れにも思える一撃とは思えないほどの威力で、ヒマリの足に確実なダメージを与えていた。これがグッドラックの力かと、今更ながらに実感し、ヒマリは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「大丈夫!?」


 パラドックスが慌てた様子で聞いてくるが、それにヒマリは笑顔で返答するだけの余裕がない。


「さあな……」


 精々強がって、そう答えるくらいが精一杯で、足は素早く走れるほどに動きそうにはなかった。


「その足だともう逃げられないだろう? 大人しく投降しな」


 シガレットが煙を動かしながら、ヒマリとパラドックスにそう言ってくる。そんな言葉は聞くつもりがないと言わんばかりに、パラドックスは仏の手を動かし、煙の接近を拒んでいる。

 その様子を眺めながら、ヒマリは必死に状況を打開する方法を考えていた。何か手段があるはずだと思ってみるが、その手段は簡単には見つからない。


 空のカプセルは全て失った。どこかに転がっている一個があるはずだが、この状況で見つけられるはずがない。


 パラドックスの鬼の手は相手に効いていない。煙を払うことはできても、消すことができない以上、鬼の手による攻撃が届かない位置で拘束され、動けなくなってしまえば終わりだ。


 仏の手は煙を払い、拘束される危険性を消すことには成功しているが、それも一時的な効果だ。何より、鬼の手と違って、直接的なダメージが生み出せない以上、状況は共に動ける相手に分があると言える。


 せめて、相手の動きが制限できれば変わってくるのだが、制限するほどの攻撃を生み出すところから考えないといけない。何か、ヒマリ達にできることはないかと思い、部屋の中を見回してみるが、一階のこの部屋には崩れた天井の瓦礫以外に碌なものが置いていない。ここから攻撃に移ることは不可能だ。


 そう思った直後、ヒマリはある光景を思い出した。それから、自身やパラドックスに目を向け、それと比べるようにシガレットやグッドラックを見やる。


(これで行けるか……? いや、だが……)


 ヒマリは部屋一杯に充満した煙を眺めて、それらの煙がどのように動くか想像する。ヒマリの中のイメージはヒマリの考えた作戦を否定している。


(ダメか……要素が足りない……)


 そう考えながら、ヒマリは身を起こし、部屋の中を見回そうと思った。だが、足に残った痛みが動きを阻害し、ヒマリは顔を歪めながら、再びその場に屈み込む。


 その時、偶然、足に伸ばそうとしたヒマリの手がポケットに触れた。そこでヒマリの頭の中に別の考えが浮かび上がる。


「そうか……これを……」


 頭の中に浮かんだアイデアが猛スピードで集まって、一つの作戦をまとめ上げていく。その考えが結末まで至った直後、ヒマリは顔を上げて、パラドックスを見ていた。


「そこの()()だ! あれを()()()()()()!」


 急に叫んだヒマリの声を聞き、パラドックスが戸惑いの表情を向けてきた。それに力強い視線を返し、ヒマリは必死に瓦礫を指差す。

 その動きに気づいたのか、グッドラックが動き出そうとしていたが、パラドックスの決断の方が速かった。パラドックスは近くの瓦礫まで踏み出し、それらに触れるように光り輝く手を伸ばした。


 瞬間、瓦礫が一斉に弾き飛ばされ、シガレットとグッドラックに向かっていく。それを防ぐようにシガレットは煙を寄せ集め、自分達の前方に壁を作り上げていた。

 その動きを見たヒマリが瓦礫に向けていた指を動かし、再びパラドックスに声をかける。


「今度はそっちの壁だ! そいつを破壊しろ!」


 そう叫んだヒマリの言葉のまま、パラドックスが腕を変えながら、部屋の壁を破壊した。壁には穴が開いて、外の空気が流れ込んでくる。


「換気のつもりですか!? 残念ですが、シガレットさんの煙は自由に操れるんですよ!? その程度の風で流れるはずがない!」


 グッドラックは嘲るように笑みを交ぜながら、そのように告げていたが、ヒマリの狙いはそこではなかった。そのことにシガレットも気づいたのか、すぐに声色を変えている。


「いや、違う……!? そうじゃない!?」


 シガレットがそう叫んだ瞬間、壁の向こうに二つの人影が飛び出した。壁の破壊は換気ではなく、逃走が目的だ。そう気づいたのか、シガレットは前方に作った壁を分解し、そこから煙を伸ばして、壁の向こうに飛び出した人影に絡みつかせる。


 人影は壁の向こうに着地しようとしていたが、その前に煙は到達し、走り出す前に足を掴んでいた。


「危なかった……!」


 シガレットがそう口にする光景を、ヒマリとパラドックスは()()()()眺めていた。そのことに気づいたらしく、シガレットとグッドラックの視線が壁の向こうから、部屋の中に戻ってくる。


 そこには両手を仏の手に変え、瓦礫の前で構えるパラドックスと、()()()()()二個のカプセルを拾い上げるヒマリの姿があった。


「やれ」


 ヒマリがそう告げた瞬間、パラドックスが腕を動かし、積み重なった瓦礫を弾き始めた。

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