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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-25.復讐の鬼

 アザラシの登場をきっかけとして、一瞬で部屋の中の空気が一変する中、当のアザラシはやや不思議そうに部屋を見回し、ヒマリとパラドックスを見てきた。


「しかし、ここにお前らがいるとはなぁ。こっちが考えていた顔とは違うが、まあ、悪くはないか」


 何やら気になることをアザラシが呟いたかと思えば、パラドックスの方を見ながら、ニヤリと笑みを浮かべている。その言葉や表情にパラドックスは怒りを見せながら、わなわなと震える唇を動かし、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。


「お前は……自分が何をしたのか……覚えてないのか……?」

「どうした? どれを言っているのか知らないが、それほど怒ることか? 俺は怪人で、お前は超人だ。何があっても、当然だろう?」

「ふざけるな!」


 パラドックスが一瞬で腕を異形のものに変え、その変化にナツメの表情が明確に怯えたものに変わった。そのことに気づかないまま、パラドックスはアザラシに飛びかかり、アザラシは咄嗟に袖口へ手を伸ばし、そこから刀を抜いている。


 パラドックスの攻撃がアザラシの刀にぶつかり、刀が粉々に砕けた。その光景と聞こえる音にナツメの怯えが加速し、ナツメは女性の胸に縋りつくように逃げている。

 その様子に加え、パラドックスが正面から戦い始めたことを見て、ヒマリは慌ててパラドックスに声をかける。


「待て! 落ちつけ!」


 そう声をかけても、パラドックスは止まる様子がなく、刀身が砕け、手の中には柄しか握っていないアザラシに攻め立てようと、更に腕を突き出した。


 その攻撃を確認したアザラシが握った柄を動かし、パラドックスの腕の軌道を僅かに変える。柄自体は細かく削れ、アザラシの腕を削ぎそうな角度で、パラドックスの腕は進行しているが、微妙な軌道の変化が最終的なコースを大きく変え、直接的にアザラシの身体を傷つけることがないまま、パラドックスの腹にアザラシの蹴りが入った。


「うぐっ……!?」


 パラドックスが呻き声を上げ、部屋の中を転がった。ナツメ達のいる近くに吹き飛び、倒れ込むパラドックスにナツメが涙を流し始めている。

 そのことに気づかない様子でパラドックスは起き上がり、痛みに顔を歪めながらも、鋭く刺し殺すような視線をアザラシに向けていた。


 その様子を目にしたヒマリが、今のパラドックスを止めることは難しい、と確信する。せめて、怯えた様子のナツメを避難させないと、一生消えないトラウマを植えつけかねないと判断し、ヒマリはこの場からナツメと女性の二人を逃走させる方法を考え始める。


 そんな中、パラドックスが再び動き出した。力強く踏み込んで、袖口から刀を取り出していたアザラシに攻撃を仕掛ける。アザラシは握っていた刀をパラドックスの腕に合わせ、綺麗に往なすように動かしながら、パラドックスの隙を狙っている。


 前回の戦闘があったことで、既にパラドックスの動きは見切られている。アザラシに真正面から攻撃を当てることは難しいと、傍から見ているヒマリには明確に分かるが、それを今のパラドックスに伝えることは難しい。頭に血が上り、感情だけで動いている状態のパラドックスを止められるには、もっと親しい人、それこそミレニアムくらいの言葉がないと無理だ。


「まっすぐなのは良いことだが、嬢ちゃん。相手を殺したいなら、殺意くらいは隠さないとな」


 そうアドバイスしながら、アザラシが僅かに足を動かし、姿勢を少し変えた。パラドックスの攻撃に対応するだけではなく、次の攻撃を考えていると、その動きだけでヒマリは察し、咄嗟にカプセルを一つ取り出す。


 それをアザラシの足を狙うように、ヒマリは投げつけた。視界の端でヒマリの様子まで確認していたのか、アザラシは飛んでくるカプセルに気づき、変えた姿勢を再び変え、パラドックスの攻撃を屈むことで躱しながら、部屋の中に入ってくる。


「おっと、危ない! 踏ん張っているところを狙ってくるとか、中々に性格が悪いねぇ」


 アザラシが不敵に笑みを浮かべ、ヒマリの方を見てくる中、ヒマリは入口が開いたことを確認し、ナツメと女性に呼びかけた。


「こっちに! 今なら逃げられる!」


 その声を聞いた女性が、すぐにナツメを抱えて走り出し、ヒマリの方にやってくる。その動きを察知したアザラシが止めようと思ったのか、女性の方に踏み出そうとするが、そこにパラドックスが再び飛びかかった。タイミングを合わせたわけではなく、その前から見せている怒りの攻撃のようだ。

 しかし、ここは助かったと思いながら、ヒマリは入口の方を指差した。


「今の内に向こうに!」


 ヒマリが声をかけ、ナツメを抱えた女性と一緒に駆け出す。入口の方まで走り、扉の前で一度立ち止まって、二階の様子を確認してみるが、そこには見張りの姿も、誰かが来る様子もない。


(アザラシ一人で何とかなると考えたのか?)


 やや不穏さを感じながらも、ヒマリは振り返って、扉付近で屈んで待っていた女性に目を向けた。


「ここから外まで案内する。焦らず、ゆっくりついてきてくれ」


 ヒマリがそう告げると、女性は頷いて、ナツメをぎゅっと抱き締めている。ナツメは女性の胸の中に顔を埋め、小さく嗚咽している。

 ヒマリは一瞬、部屋の中に目を向けてから、パラドックスが無事であることを祈りながら、二階を移動し始めた。階段の方に移動し、一階に人がいないことを慎重に確認してから、外まで二人を連れていく。


 やはり、二階がそうだったように一階も静かなもので、誰にも見つかることがないまま、ヒマリは二人を外まで連れ出すことに成功していた。

 まさか、このビルには既に誰もいないのか、とすら思わせる様子にヒマリは疑問を懐きながらも、さっきのパラドックスの様子が気になって、急いで戻ることにする。


「外にまで逃げたら、警察に駆け込むように。それから、できれば俺とあの子のことは話さないでいてくれると助かる」


 ヒマリが一応、お願い事として伝えると、女性は一応、首肯してくれた。後半部分も受け入れてくれたのか分からないが、それを確認している暇も、ビルに人が残っているのか確認する暇もない。


(いや、だが、一定の人数の出入りはあったはずだ。流石に誰もいないことはないと思うが、人質だって残っていたし)


 そう考えながら、ヒマリは人質の周囲に人が少なかった事実を思い出す。一階には二人、二階にはオダが一人いただけだ。後からアザラシは来たが、それ以外に酒鬼組の人間は見当たらなかった。


(というか、アザラシはどこから来た?)


 そう疑問が湧きながらも、ヒマリの考えは答えを出せないまま、ヒマリはパラドックスとアザラシがぶつかる部屋まで戻っていた。


 そこではパラドックスが少しずつアザラシに押し込まれ、身体に小さな刀傷を作り始めていた。パラドックスの行動は既に読まれ、アザラシは攻撃を往なすどころか、攻撃し返す余裕すらできている。


 このままだと、いずれパラドックスは斬られる。そう考えたヒマリがカプセルを確認する。さっき投げた一個がどこかに転がっているはずだが、少し見回しても、すぐには見つからない。利用できるものはポケットに残った二個だけだ。

 パラドックスの攻撃が届きづらい以上、アザラシの行動を止めるために、このカプセルを利用する必要がある。が、さっきの様子から、今のアザラシにカプセルを当てることは難しい。


 ヒマリはパラドックスの様子を確認する。明らかに冷静さを失ったパラドックスに正論を飲み込ませることは難しいだろう。アザラシにカプセルを当てるのと同じくらいの難易度だ。

 今の状態のパラドックスと連係することは不可能に近い。ヒマリが合わせられたらいいのかもしれないが、パラドックスの行動が読まれている以上、それに合わせるヒマリの行動も読まれる可能性が高い。


 どちらの行動も通らない。その結論が出た直後、アザラシがパラドックスの攻撃を往なし、開いた隙に刀を振るおうとしていた。それまでの攻撃と違い、しっかりと踏み込んだ一太刀だ。


 パラドックスが斬られる。そう感じたヒマリは咄嗟にカプセルの一つを握り、即座に放り投げていた。その動きに気づいたアザラシがやはり対応するように、その場から少し離れる。

 躱された、と本来なら思うところだが、ヒマリはそう思うことなく、即座に走り出し、パラドックスに接近する。


 その直後、ヒマリのカプセルが()()()()()()にぶつかった。

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