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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-18.復讐の歯車

 風呂場の方から物音が聞こえ、ヒマリはテレビを消した。さっき見た不鮮明な映像は、鮮明に頭の中に残っている。そこに映る顔を、ヒマリは何度も思い返す。


 風呂場の方からシトが歩いてきた。スーツ姿から一転、ジャージ姿に変わり、濡れた髪をタオルで拭きながら、どこか不満そうな目でヒマリを見てくる。


「ちょっと? ああは言ったけど、本当に一切、覗く気配も見せないのはどういうこと? トライくらいは普通しない?」

「ああ、そうだな……」


 シトの不満そうな言葉を半分聞き流し、ヒマリはただ反射的に言葉を返していた。今の状況からの返答としても、ヒマリの返答としても、明らかにおかしいと思ったのか、シトがやや眉を顰めて、ヒマリの方に近づいてくる。


「うん? 聞いてる?」

「ああ、そうだな……」


 ヒマリが聞こえてきた言葉を脳で処理することなく、ただプログラムされたように返答する。二度も同じ言葉が続けば、流石におかしいと気づいたのだろう。シトがヒマリの近くに座り込み、ヒマリの顔を覗き込んできた。


「どうした? 何かあった?」

「ああ、そうだな……」


 ヒマリが三度目の言葉を返し、シトがヒマリの意識を引き戻すように両手で顔を掴んだ。何の前触れもなく、急に頭を一気に動かされ、ヒマリの首は危うく逝きそうになる。


「うごっ!? 何しやがるんだ!? 首が死ぬだろうが!?」

「明らかに意識がここにない感じだったから、一回、首くらいはやっておいた方がいいかと」

「どういう理論だよ!?」


 シトの両手から解放され、ヒマリは危うく逝きかけた自身の首を摩りながら、シトに冷めた目を向ける。その目に満足そうにしてから、シトが再び聞いてきた。


「それで、何があった?」

「何がって?」

「そんなに考えるくらいなんだから、何かあったんだよね? それは何?」


 シトからの問いかけに、ヒマリの頭の中ではさっきの映像が蘇った。そこに映るオダの姿を思い出し、ヒマリの喉元まで言葉が上がってくる。

 それを必死に飲み込んで、ヒマリは小さくかぶりを振る。


「何もない。ただ考えていただけだ。この後、どうやって酒鬼組に復讐しようかってな」

「それなら、いい案があるよ」

「却下」

「まだ言ってないけれど!?」

「言わなくても分かる。どうせ、怪人組合とやらに入れって言うんだろう?」

「ご名答」


 シトが満面の笑みでピースサインを作り、ヒマリは大きく溜め息をついた。それは何度も断っていると思いながら、ふとさっきのニュースで言っていたことを思い出す。


 ヴァイスベーゼ。誘拐事件を起こした犯人の要求から、ヴァイスベーゼが関わっていることは間違いない。

 だが、その誘拐事件には酒鬼組も関与していた。その二つがヒマリの中では繋がらない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう考えたら納得はいくが、そういう話は聞いたことがない。


 もしも、向こうが怪人の力を借りて、何かをしようと動いているなら、それに対抗するためにヒマリも怪人組合に協力を求めるべきなのかもしれない。

 そうは思うのだが、ヒマリの中にはどうしても拭い切れない疑念がある。それが酒鬼組とヴァイスベーゼの関わりから膨らんでしまった部分もある。

 入ることも、協力を求めることも難しいかと考え、ヒマリは少し目を瞑る。


 その時、ふと奥の部屋で眠っているパラドックスの姿が思い浮かんだ。ヒマリはゆっくりと目を開けて、緊張感のない顔で眠っているジッパを見てから、シトに目を向ける。


「あの子のことだが、一人見ておいた方がいいんじゃないか?」

「見ておく? 熱はもう下がってきてたし、大分落ちついたみたいだけれど?」

「だからだ。目を覚ましたら、暴れ出すということはないか?」

「ああー……」


 ヒマリの提示した可能性をシトも考えたらしく、しばらく固まってから、ゆっくりと頷いた。


「あり得るね。君もいるしね」

「あの糸男が殺されたこともある。復讐とか、敵愾心とか、そういうものが爆発されたら対処できない」

「見ておくとして、どうするつもり?」

「万が一の時は俺がカプセルを投げるという案がある。流石に起きた直後なら、カプセルを食らうくらいの油断は見せるだろう。どう思う?」

「まあ、いいのでは? 成功するかどうかは別としても、この中だとそれ以外に手段はないだろうし」

「なら、見ておく必要があるか……」


 そう呟きながら、ヒマリはパラドックスの眠る寝室の方を見た。できれば眠って休みたいところだが、その間に目を覚まされるかもしれないことを考えたら、それも難しい。


「もしかして、夜通し見張る気?」

「そうなるな」

「大丈夫? 死なない?」

「死ぬことはない。が、すぐには動けないかもしれない。明日は休む必要があるな」

「まあ、今日一日、いろいろあったしね。いいんじゃない? 休んでも」


 シトに邪魔だったらジッパを起こすように言ってから、ヒマリはパラドックスの眠る寝室に移動した。ベッドの上で眠るパラドックスを確認してから、ヒマリはベッドの脇に座り込む。


 その体勢から、再びヒマリの思考はテレビで見た映像に移っていた。酒鬼組とヴァイスベーゼが関係している可能性を考え、アザラシの力量を思い出し、ヒマリは考えていた復讐が簡単ではない事実を理解する。

 確かに、この事態なら怪人組合の力を借りた方が確実なのかもしれない。それは正にその通りだろう。今日一日のこともあって、シトにはある程度の信頼が生まれてきた。シトの協力を得られるなら、それも悪くないことのように思える。


 だが、気になるのはシト以外の怪人だ。酒鬼組がヴァイスベーゼと繋がっていたとしたら、怪人組合という組織も、他の何と繋がっているか分からない。場合によっては、酒鬼組自体がヴァイスベーゼだけではなく、怪人組合とも繋がっている可能性だってある。

 確実な白が証明できない以上、そこから力は借りられない。


 だが、どこかから力を借りないと、復讐の実行も難しい。

 あのアザラシのような怪人がいるヴァイスベーゼを、ヒマリとジッパ、協力してくれるならシトも含めた三人の力で何とかできるとは思えない。


 もう少し、他に頼る力がないと、と考え込むヒマリが、ただぼうっと眺めていただけの視界をゆっくりと鮮明にし、そこにある景色に意識を向けた。

 酒鬼組とヴァイスベーゼが手を組んでいるかもしれない。その関係性を思い返し、ヒマリの中に一つの考えが膨らむ。

 それでいいのか、そもそも可能なのか、ヒマリの中に疑問は残るが、代替案は浮かばない。


「賭けるか……」


 ヒマリは緊張を解すように、ゆっくりと息を吐き出した。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 ゆっくりと目が開いて、重い頭や身体を認識した。ぼんやりとした意識のまま、目の前に広がる天井を確認し、ゆっくりと目が見開かれていく。

 知らない光景。身を起こせば、見たことのないベッドで眠っていた。ここはどこなのかと警戒心を持ち、周りに目を向けようとする。


 そこでベッドの脇から声が聞こえてきた。


「目を覚ましたのか?」


 その声に反射的に身を起こし、ベッドの上に座り込む体勢のまま、パラドックスは腕を構えた。その腕を異形のものに変えようとした瞬間、ベッドの脇に立っていた人物が手を伸ばし、口元に指を当てた。

 良く見れば、それがヒマリであるとパラドックスは気づいた。


「一旦、静かにしてくれ……!」

「紅丸日鞠……? どういうこと……?」

「説明するから、その腕を下ろしてくれ。もしくは、ベッドの脇にある薬の箱でも見てくれ」


 ヒマリに言われ、パラドックスは臨戦態勢を整えたまま、ベッドの脇に目を向けた。そこには市販されている解熱剤が置かれている。


「お前は熱を出して倒れたんだ。だから、ここに連れてきて休ませていた。その様子だと、体調は大分戻ったみたいだな。なら、良かった」


 ヒマリがそう言いながら、パラドックスの動きに合わせて起こしかけた身体を戻し、ベッドの脇に座り込んだ。


「看病してくれたの?」

「まあ、結果的に言えば、そういうことになるな」

「それは……ありがとう」


 パラドックスが意外と素直にお礼を言ったことに、ヒマリは驚いている様子だった。その表情を確認し、パラドックスはようやく腕を元の少女のものに戻していく。

 そこでパラドックスの混乱していた思考がまとまり始めて、気を失う前にあったことを一気に思い出した。


「あ、あいつ……!? ミレニアムの仇は!?」


 咄嗟に立ち上がろうとしながら、思い出したことを確認するパラドックスに対して、ヒマリは落ちついた様子で制止するように手を伸ばしてきた。


「そのことで、お前に一つ聞きたいことがあるんだ」

「何……?」


 悠長に話している場合ではないと思い、パラドックスはヒマリを睨みつけるように見るが、ヒマリはその視線も気にすることなく、淡々とした口調で聞いてくる。


「お前、あの刀のジジイに復讐する気か?」

「当然。ミレニアムの仇は絶対に私が取る」

「そうか。なら、一つ提案がある」


 そう言ってから、ヒマリは僅かに身を起こし、パラドックスに視線を合わせる形で、真剣な眼差しを向けてきた。


「その復讐に()()()()()()

「え? 何で?」

「その代わり、一つ要求がある」


 真剣な眼差しのまま、ヒマリが親指を立て、自分自身を示す。


()()()()()()()()()()()


 その唐突に始まった交渉にパラドックスは疑問しかなく、ゆっくりと小首を傾げた。

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