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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-15.刀の弱点

 ヒマリがアザラシの投げたナイフ片手に、パラドックスの援護をし始めた直後のこと。取り残されたシトとジッパは所在のなさにあたふたしていた。


「お、俺達にも何かできませんかね!?」


 ジッパが焦りから考えもなく、希望を求める言葉を口にする。


「た、例えば……?」


 それにシトが引くように聞いてみると、ジッパはあたふたとした表情のまま、口をぽかんと開けて固まった。何一つとして本人は思いついていないのだろう。それなら、他人も思いつくはずはない。


 ヒマリのように武器もなく、パラドックスのように戦える力もない。今のシトとジッパは役立たずも同然だ。

 それを認めたくないのか、必死に考え込んだ末にジッパがシトに希望を求める目を向けてきた。


「そうだ! あのスイミさんの力で、あいつの弱点とか分かったりしませんか!?」


 子供のように無邪気さすら感じさせる、キラキラとした期待に満ちた目で見られ、シトはできることなら希望を叶えてあげたい気持ちになるが、できないことをできると言える状況ではない。素直にかぶりを振って、シトは自分の力をしっかりと説明する。


「私の力は相手の動きを予測できるだけで、相手の情報が分かるわけじゃない。寧ろ、それは予測の精度を上げるために、自力で得ないといけないくらいだから、弱点とか、そういうものは何も分からない」

「そ、そうっすか……」


 分かりやすく、しょんぼりとしたジッパが項垂れるように視線を移した。弟がいたら、こういう感じなのかもしれないと、思わず関係のないことを考えるシトの前で、ジッパは不意に動きをピタリと止めて、項垂れるような姿勢のまま、一点を見つめ始める。


 そうかと思えば、シトの前でジッパは一瞬、倒れ込むのかと思うような動きで座り込んだ。急な動きに驚き、思わず手を伸ばしたシトの前で、ジッパはそこに転がる何かを手で掴む。

 シトが手を伸ばした姿勢のまま、ジッパを覗き込んでみたら、そこにはヒマリのリュックサックが落ちていた。ナイフの刺さっていた物で、それを証明するように穴が開いている。


「きゅ、急にどうした?」

「何か、他に使える物が入ってるかもしれないって思って」


 そう言いながら、ジッパはヒマリのリュックサックを開けて、中身をその場にぶちまける。ゴロゴロとカプセルトイのカプセルが一斉に転がり出し、ジッパは端からそれらを掴んでいる。


「そ、そういうことなら、私も……!」


 他に自分のできることがあるかもしれないなら、その可能性に縋らない理由はない。シトもジッパと同じように座り込み、ジッパがばら撒いたカプセルを手に取り、中身を確認してみることにした。


 しかし、ヒマリのカプセルはこれから準備する予定だったことを示すように、大半が中に何も入ってない物だった。


 それらを恐らくはシトやジッパが投げても、何かを取り込むことはできると思うが、今のアザラシに投げつけて、アザラシが捕まるとは思えない。あの刀で切り裂かれ、標的が二人に移って終わりだろう。


 もう少し、他に活用できそうな物はないかと思い、違うカプセルにシトが手を伸ばした前で、ジッパがカプセルを持ち上げ、その中をじっくりと覗き込んでいた。その入念な様子が気になり、シトも顔を上げてみたら、カプセルの中に入った車の姿が目に入る。


「それって、移動用って言ってた?」

「はい。事務所の車ですね。これともう一つありました」


 アザラシから逃走する際にヒマリが出そうとし、アザラシが接近している事実から途中でやめた物をジッパが持っていた。車自体は三台あったが、その内の一台はパラドックスから逃走する際に、ヒマリが投げつけていた。

 そのことを思い返していると、ジッパが車を覗いたまま、ぽつりと呟いた。


「これを投げつけるとか無理ですかね?」

「えっ? 車を?」

「はい」


 あっけらかんと言ってのけるジッパの提案から、シトは車をアザラシに投げつけた場合を想定してみる。カプセル自体は投げられるだろう。アザラシの近くにカプセルが行くことは確実だ。


 ただ、その仕組みを理解しているアザラシがカプセルを割るか、割れたカプセルから飛び出した車が有効的に機能するかは怪しい。パラドックスの前例を考えても、効果はあまり期待できない可能性が高い。


「相手次第だけど、あまり意味がないかも……?」


 シトが苦々しい顔で呟くと、ジッパは残念そうに表情を曇らせ、車の入ったカプセルを仕舞おうとした。


 その直前、ジッパがシトに何かを言おうとして、口を僅かに動かしたまま、不意に動きを止めた。その表情にシトが怪訝な目を向けていると、ジッパが何かに気づいた顔をして、アザラシの方を見る。


「あ、あの、スイミさん!」

「えっ? どうした?」

「さっき逃げる時に物を投げる提案しましたよね!?」

「ああ、うん、したね」

「それって、どういう動きが見えたんですか!?」

「どういう動きって、結果と同じだよ」


 そう言いながら、シトはさっき自分達がアザラシに投げた物を見やって、それに対応するアザラシの動きを順番に言っていく。


「ゴミ箱は斬られ、空き缶は弾かれ、自転車は避けられる。一番確率の高かった予測そのものだったね」

「そ、そうなんですね……!」


 興奮した様子で確認するジッパが何かを確信し、車の入ったカプセルを見下ろしていた。


「よし、決めた。スイミさん、お願いがあります」

「何? 何を決めたの?」

「俺は今から、この車に乗って、()()()()()()()()()()。スイミさんはできるだけ、あいつの動きを予測して、()()()()()()()()()()()してください」

「は、はあ?」


 急にアザラシを轢くと言い始めたジッパに、シトは呆然とした。


「えっ……!? ちょっ……ちょっと待って……!? あいつに車で? いくら私の力があっても、近づいたら斬られるかもしれないんだよ?」

「大丈夫です! ()()()()()()!」

「どういう自信?」


 ジッパの根拠の分からない自信にシトが首を傾げる前で、ジッパはヒマリ達のいる先を指差し、そこに転がる自分達の投げた物の末路を示した。


「あれを見てください! ゴミ箱は簡単に斬られました!」

「うん、斬られてるね。じゃあ、私達も斬られるね」

「そうはなりませんよ。その証拠に空き缶は弾かれただけだし、自転車は避けています」

「う、うん……? どういうこと?」

「つまり、()()()()()()()()()()()は斬れても、スチール缶とか自転車とか、そういう()()()()()()()()()()()んですよ」


 ジッパの指摘する事実にシトは納得した。確かにシトがアザラシの動きを予測している時、アザラシが投げつけた空き缶を斬りつける姿は見えなかった。

 それはアザラシが何でも斬れるわけではない事実を示している。


「多分、あの子の腕と違って、あいつの力は本物の刀を生むとか、そういう部分に特化してるんですよ。何かを斬る動き自体は刀を持ったあいつ自身の力量次第。だから、普通に金属とかは斬れないんですよ」

「た、確かに、それなら車でぶつかれば、普通に轢けるね……」

「そういうことです」


 ジッパの気づきから提案された作戦に乗るか考えることしばらく、シトはジッパがカプセルから出した車の助手席に座り、ヒマリ達を相手するアザラシをまっすぐ見つめた。アザラシが接近する車に対応する動きを予測して、自分達に危険がないか判断してから、シトはジッパに合図を出す。


 そして、現在、シトとジッパの乗った車は予定通り、アザラシを押し潰すような形で、アザラシの背後にあったフェンスに正面衝突した。

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