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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-14.敵の敵は味方

 パラドックスが異形の腕を振るう。右、左、と振るわれた腕に対応し、アザラシは僅かに後退する。その最中、片手を袖口に移動させ、アザラシはパラドックスの放つ攻撃の隙間を狙って、そこから取り出した刀を一気に振るおうとした。


 その動きが見えた直後、ヒマリはパラドックスとアザラシの戦いに割って入るように踏み込んでいた。アザラシの右側について、側面から身体を押しつけるように突き進む。


 アザラシの利き腕が右手であることは、ここまでの行動から分かっていた。刀を取り出す際は右手を左手の袖口に近づけ、そこから取り出す。

 それなら、右手の動きを阻害する位置に移動すれば、それだけで刀による攻撃はなくなる。


「ああ、もう、邪魔だな!」


 アザラシが叫びながら身体を捻って、パラドックスに蹴りを噛ました。急な攻撃だったことから、急所には入っていないが、パラドックスの軽い身体は吹き飛ぶ。

 同時に、身体を捻ったことによる回転はヒマリへの攻撃も生んでいた。アザラシが蹴りを噛ました体勢から、即座に右手を引き抜いて、ヒマリに刀を振るってくる。


「危っ……!?」


 その動きに反応し、ヒマリは持っていたナイフを掲げた。刀がナイフにぶつかって、強い衝撃が腕に伝わってくる。咄嗟に両手でナイフを持ち上げたこともあって、衝撃による痺れは両腕に残っていた。

 そのまま、二歩、三歩と後退し、ヒマリは正面に立つアザラシを見据える。刀を構えたアザラシはヒマリとパラドックスを見比べ、その様子や距離を見定めているようだ。


「まあ、そっちは生かしたいし、まずはお前からだ」


 アザラシが刀を構え、ヒマリとの間に生まれた距離を詰めるように、一気に踏み込んできた。咄嗟にヒマリはナイフを持ち上げて、アザラシの振るう刀に合わせていく。

 右、左、上、下、斜め。あらゆる方向から迫る刃に刃を重ねる。アザラシの一太刀は重く、その度にヒマリの両腕は強い痺れを負っていく。


 後退するヒマリの足が僅かに絡まった。必然的に速度は落ち、体勢は崩れ、それが目の前で刀を振るうアザラシにも伝わる。


「どうした? 足腰が弱いのか?」


 そう呟きながら、不意にアザラシの足が進み、ヒマリの足に絡まった。体勢を崩しかけていたヒマリは大きく倒れ込み、アザラシの前で完全な隙を晒していく。


「しまっ……!?」


 ヒマリが顔を歪める前で、アザラシは手に持った刀を掲げ、ヒマリに振り下ろそうとした。その表情には笑みが浮かび、視線は僅かにヒマリを見下すようだ。


「終わりだ」


 アザラシが刀を振り下ろす、その瞬間、アザラシの背後に影が浮かんだ。それをヒマリが認識した直後、アザラシは背後に存在する気配に気づいたのか、刀を振り下ろす直前で固まり、背後に目を移す。

 その目を貫くように、背後からパラドックスの腕が伸びてきた。咄嗟にアザラシは回避するが、パラドックスの腕はアザラシの刀を貫通し、粉砕していた。


「よけ、るな!」


 パラドックスが僅かに苦しそうな声を出す。さっきの蹴りは想像以上にパラドックスの身体を痛めつけているらしい。


「いやいや、いくら年寄りでも死にたいとは思わないからね」


 パラドックスの言葉に返答しながら、アザラシは崩れた体勢に従うまま、ヒマリとパラドックスの前から離れた。移動した先で体勢を整え、新たに袖口から刀を取り出している。


「いや、しかし、この年齢になって、子供二人の相手は疲れるな」

「子供二人か……」


 アザラシの挑発染みた発言を聞いて、ヒマリは思わず笑みを零す。アザラシのここまでの動きを考えたら、確かに今のヒマリは子供でしかない。その部分は飲み込むしかなかった。


「子供扱いするな……!」


 そのヒマリに対して、パラドックスはヒマリの前で、怒りに満ちた目をアザラシに向けていた。アザラシでなくとも、パラドックスのことは子供と言うだろうが、恐らく、これは子供扱いされたことに怒っているのではなく、アザラシに何か言われること自体が気に食わないのだろう。

 それほどまでにパラドックスはミレニアムを慕っていたということ。ヒマリはあまりピンと来ないが、そういうことだろうと想像するしかない。


「おお、怖い怖い。だが、まあ、あまり時間をかけたくはないんだ。俺も若くはないからね。お前達ほどに長くは動けない」


 そう言いながら、アザラシが刀を構える様子を目にし、ヒマリはナイフを持ち上げた。両腕は完全とは言えない状況だが、だからこそ、アザラシは今、こちらに攻撃しようとしているのだろう。


 ヒマリは両腕が痺れ、パラドックスは蹴りのダメージを負っている。その状況の内に仕留めないと、ここからは自身の疲労が勝ってしまうと、アザラシは理解している。

 自分の弱さを理解している相手は厄介だ。弱点を突こうにも、肝心の弱点を隠されてしまう。自由にさせないことが一番だが、ヒマリとパラドックスが並び、アザラシから離れている状況では、絶対に最初の一撃に自由を与えてしまう。


 シトに聞いて確率に賭けるかと、一瞬ヒマリは考えてみたが、そこもパラドックスが絡んでくると考えたら、あまりに難しいと諦めることにした。況してや、確率が全て同じと言われたら、結局、状況は変わらないままだ。


 アザラシの足が僅かに動く。来るとヒマリが直感的に認識する。


 その瞬間、アザラシが目の前にいた。時間が飛んだのかと錯覚するほどの速さに、ヒマリは面食らいながらナイフを下ろす。

 ほとんど何も見えていなかったが、ナイフに何かがぶつかる感触だけはあった。同時に強い衝撃に襲われ、刀を受け止めたと理解する。


 ヒマリは咄嗟に背後へと跳び、アザラシの間合いの外に出ようとする。

 その動きとは対照的にパラドックスは接近してきたアザラシに突っ込んでいた。異形の腕を掲げ、刀を振るったアザラシの隙を狙う。


 パラドックスの動きに気づいたアザラシは僅かに身体を反転させながら、異形の腕に刀を向ける。右、左と振るわれる腕を弾きながら、アザラシはパラドックスの懐に入り込もうとする。


 その動きを阻止するためにヒマリは踏み込みながら、アザラシの脇腹に蹴りを噛まそうとした。それすらも見えていたのか、アザラシは僅かに腕を下げ、ヒマリの足を受け止めてくるが、蹴り自体は入った。

 アザラシの刀がパラドックスに届く前に、アザラシはパラドックスの前から吹き飛んでいた。ヒマリの蹴りに押されるまま、よろめくように移動し、その先で刀を構え直す。


「やはり、二人はやりづらい」


 そう呟くアザラシは僅かに微笑み、その微笑みにヒマリは危機感を覚えていた。パラドックスは未だ怒りに満ちた目でアザラシを見つめ、気づいていない様子だが、状況は確実に変わってきている。


 その証拠に、今のパラドックスの攻撃で()()()()()()()()()()()()()。それはアザラシがパラドックスの攻撃手段に対応し、刀自体にダメージが入らないように受け流していたからだ。


 このままだと、いずれは攻撃の隙に刀を振るわれ、パラドックスも斬られるだろう。それを阻止するためにヒマリは動きたいところだが、それにも限界がある。


 パラドックスの腕がアザラシの防御手段を消し、ヒマリというパラドックスを守る存在がいれば、どちらかの攻撃がアザラシに届く。ヒマリはそう考えていた。

 実際、その考え自体に間違いはないだろう。ちゃんとした連係が取れれば、もう少しマシな展開を作れているはずだ。


 問題はヒマリとパラドックスが味方ではなく、ただ今は敵としてお互いに認識していないだけである点だ。味方ではない以上、連係という概念はなく、こういう場面でお互いに息を合わせるということは難しい。

 ヒマリがパラドックスに合わせることはできても、逆ができない以上、攻撃に幅は生まれない。幅のない攻撃ではアザラシに届かない。今はこの負のループに入ってしまっている。


「なあ、お前、もう少し……」

「うるさい!」


 試しにパラドックスに話しかけてみるが、パラドックスはヒマリの言葉を聞く様子がなかった。いらないことを言っていたら、ヒマリの方まで敵として認識されそうだ。


「お喋りしている暇があるのかい?」


 刀を構え直したアザラシがヒマリとパラドックスに声をかけてきた。同時に足の動きが変わり、ヒマリはまた踏み込んでくるとナイフを構える。


 その時、三人の間を割って入るように声が飛び込んできた。


「ヒマリさん!? 避けてください!?」


 唐突に飛び込んできたジッパの声に引かれ、思わずヒマリの視線が声のした方に移動する。


 そこではジッパとシトの乗った()がこちらにまっすぐ走ってくるところだった。

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