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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-6.未来視

 カプセルトイのカプセルの中にパラドックスが収納される数分前のことである。ヒマリとジッパに迫られ、シトは自身の力を説明するために、自身の目を指差した。


「私の力はこの目なんだ」

「目?」

「視力が良いとか、そういうことですか?」


 目という単語から想像できる特殊な能力を思い浮かべたのだろう。そのように聞いてくるジッパにかぶりを振って、シトは自身の力を端的な言葉にした。


「私は相手が何をするか分かるんだよ。言い方を変えたら、相手のする行動が予知できるんだ」

「予知能力? そんな力が可能なのか?」


 ヒマリはシトの言葉を訝しんでいた。力を伝えるとは言っているが、力の実態を正確に把握できない以上、そこに嘘が含まれていても判断できない。シトがどこまで協力的か分からないので、ヒマリは全てを手放しで信じるわけにはいかない。


 ヒマリの怪訝そうな表情と、思わず口にした質問を聞いて、シトは抑え切れなかったように笑みを浮かべていた。怪しまれている事実よりも、ヒマリの口にした発言が面白かったようだ。


「君がそれを言うの?」


 そう言われ、ヒマリは自身の手を見やる。確かにカプセルを若干形の違う、性能の異なるカプセルに変化させる力は、予知能力よりも良く分からない。


「予知能力ってことは、相手が何をするか全部分かるってことですか?」


 もしもそれが本当なら、さっきの二人が何をしてきたとしても、ヒマリ達は逃げるどころか、真正面から相手できる可能性すらある。そうジッパは考えたはずで、ヒマリもその可能性を思い描いたのだが、シトの力はそこまで万能であるわけではないらしい。


「そこが難しいんだけどね。相手の取る行動自体は分かるんだけれど、相手が絶対に取る行動までは分からないんだよ」

「ん?」

「謎々ですか?」


 相手の行動は分かるのだが、相手の行動は分からない。シトが急に難問を投げつけてきたと、ヒマリとジッパが眉を顰める前で、シトは小さく微笑み、かぶりを振る。


「違うよ。相手が取る行動の選択肢自体は分かるんだけど、相手の選ぶ選択肢は分からないってこと。イメージとしてはジャンケンに似てるかな? 相手の取る手は三つ見えても、どれを選んでくるかは分からないよね? 私はグー、チョキ、パーの手がどんな状況でも見えるだけ」

「純粋に向き合えば、無限の可能性が存在する中から、相手の選ぶ選択肢を絞れるってことか?」

「そういう考えに近いかな? ただ、相手がどれを選ぶか全く分からないわけじゃなくて、選ばれる可能性が高い順に確率では分かるんだよ。パーセンテージで表示されているイメージ」

「どういうことですか?」


 ヒマリはシトの力の全貌がだんだんと見えてきたが、ジッパは完全に置いていかれているようで、何故かヒマリに救いを求める目で見てきた。ヒマリではなく、説明している張本人を見るべきだろうと思うが、それを口に出すより先にシトが説明を始める。


「競馬みたいな感じで、選択肢に確率がつくんだよ。三つあれば、一は何パーセント、二は何パーセント、三は何パーセントみたいな感じで。その比率で、相手がどれを選ぶか分かるって感じ」

「パーセンテージが大きい手段を絶対に選ぶわけではないのか?」

「違うね。少ない確率でも選ばれる可能性はある。ただ相手の行動パターン的に選ばれづらいってだけ」

「それ以外の選択肢を選ぶこともあるんじゃ?」

「いや、それが今のところ、それは一度もないんだよね。だから、選択肢は全部分かるんだよ」


 相手の取る可能性のある行動が全て分かり、相手は絶対のその分かった行動の中の一つを選ぶ。その行動は可能性の高い順に数字で表され、絶対ではないが相手の取りやすい行動がそこから分かる。


 確かにうまく活用できれば、予知能力と言えるかもしれないが、相対的な印象はギャンブルに近い。頼るには不十分だと思いながら、ヒマリはさっきパラドックスと正面からぶつかろうとした瞬間のことを思い出した。


「さっき助けたのは、その目で相手の行動が見えていたからか?」

「まあね。相手の動きが四つ見えてたよ。ただ、相手の情報が少な過ぎて、全部確率が同じだったんだよ。二十五%。どれを選ぶか分からなかったから、取り敢えず、君を引っ張った」

「相手の情報に影響されるのか?」

「みたい。多分、肉体の動きの予兆とか、そういうところで判断してるんだと思うけど、細かい性格とか知った方が予想は正しくなるみたい」


 初対面の相手は選ぶ確率すら曖昧。その事実が判明したことで、ヒマリは更にシトの力がギャンブル的だと思った。この力を頼ることは難しいと考える隣で、ジッパが目を輝かせ始める。


「その力を使えば、さっきの二人組からも逃げられるんじゃないですか? どうやったら、逃げられるとか分かりますよね?」


 ジッパは前のめりになってシトに聞いているが、その可能性はヒマリも既に考え、難しいと切り捨てたことだった。


「確かに相手の行動は分かるけど、それが絶対に逃げることに繋がるとは限らないからね」

「見える可能性全てが捕まる結果しかないってこともあるんだろう?」


 ヒマリの問いにシトが首肯し、ジッパは表情を暗くした。僅かに生まれた光が潰え、身体は見るからに縮こまっている。


「もしも可能性に賭けるなら、やはり逃走よりも捕獲だ。その方が次の可能性を考えずに済む」


 ヒマリは自身のカプセルに手をやって、パラドックスかミレニアムを捕まえる方法を考えてみる。カプセルに人を入れられることは分かっている。二人にぶつけられれば、十分に捕まえられるはずだ。


 しかし、そこには一つの大きな壁が存在する。


「でも、あの女の子の方は簡単にカプセルを壊しますよ?」


 ジッパがその壁を指摘するように呟いて、ヒマリは頷いた。パラドックスの腕はカプセルを簡単に破壊し、中に取り込むことを許さないだろう。あの腕がある限り、パラドックスにカプセルは届かない。ミレニアムもパラドックスに守られている限り、同じことのように思える。


「狙うなら、派手な男の方?」

「いや、あっちは動き的にサポートのようだった。もし捕まえるなら、少女の方だ。その方が次の抵抗を考えずに済む」

「でも、ぶつける手段がないですよね? ヒマリさんには何か考えが?」


 ジッパの問いにヒマリは迷ってから、かぶりを振った。考えの一つも思い浮かばないのに提案している愚かしさはあるが、この状況を打破する方法が他にないことも事実だ。少なくとも、ヒマリは捕まえる以上の解答を見出だせない。


「あの少女の動きについて、何か分かることはないか? あの後、もしも俺とぶつかっていたら、あの少女は何をしていた?」


 藁にも縋る思いでヒマリがシトに訊ねると、シトはその時のことを思い出すように俯き始めた。そこで何かを拾ったのか、「そういえば」と口を開く。


「見えた選択肢に一つ疑問があって」

「疑問?」

「見えた四つの選択肢なんだけれど……一つ目が地面を攻撃して砕く。二つ目は対応しようとした君の腕を吹き飛ばす。三つ目が君を地面に組み伏せて拘束。四つ目が君の動きに反応して退避……だったんだよね」

「それって……()()()()()()()()()?」

「そう。君が対応したことで、腕が吹き飛ぶ未来はあったけど、それも本体を攻撃していたら、もっと大きな怪我を作っていると思うんだよ。多分、狙ってなかったから、腕だけで済んでいるパターンだと思う」


 ヒマリはさっき対面した少女の様子やミレニアムの身体から飛び出す糸のことを思い出す。冷静に考えてみたら、攻撃する意思があるのなら、あの状況を作る理由もない。声をかける必要もなく、先に糸の壁で道を塞ぎ、ヒマリ達を攻撃すればいい。

 超人故の行動か、本人の性格から来る行動かは分からないが、もしもヒマリ達に攻撃を加える意思がないのなら、その行動を利用できるかもしれないとヒマリは思った。


「人を直接攻撃できない、とすれば、そこを突いてみる価値はあるかもしれない」

「でも、さっきはそうだっただけかもしれないよ? 次は違うかも」

「なら、もう一度、あの少女の動きを見れるか? その結果次第で行動を変える」

「まあ、そういうこともできなくはないね」

「なら、そうしよう。そのための合図を決めて、合図次第で動きを変える。合図は……」


 そう考えるヒマリの隣で、ジッパが何気なく口にする。


「相手に伝わらないことも考えたら、信号とかでいいんじゃないですか?」

「信号?」

「GOなら青。STOPなら赤。どうですか?」

「まあ、短いし、それでいいかもしれない」


 ジッパの提案から合図が決定し、これから取る行動の方向性は決定するが、肝心の中身の部分はまだ詰まっていない状態だった。

 何より、最初に問題となったカプセルをぶつける手段が確立されていない。


「それで、どうしますか? どうやって、カプセルをぶつけますか?」


 質問を投げかけてくるジッパの声を聞きながら、ヒマリは取れる手段について考えていた。人を攻撃できないという手段を最大限に生かすためには、人そのものが必要になってくるが、この状況から用意できるものではない。


 この三人で役目を持たせる、という観点から考え、ヒマリの中に一つの考えが浮かんでくる。


「なあ、ジッパ」

「はい? 何ですか?」

「お前、命を懸けれるか?」


 真剣な表情で聞くヒマリの言葉に、ジッパは少し驚いた顔をしていたが、すぐに覚悟を決めた眼差しで首肯した。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 結果、ジッパを囮として活用する手段を選び、見事にパラドックスを捕獲したカプセルを拾いながら、ヒマリは安堵の息をついた。


 ヒマリがカプセルを投げ、シトがパラドックスの動きを確認する関係上、この役目はジッパにしか頼めなかったが、万が一の時にはどうしようかと、ヒマリの中にずっと不安が渦巻いていた。その不安がようやく身体から抜け、油断したら倒れ込みそうなほどに身体から力が抜ける。


「お、お前ら……!? パ、パラドックスをどうした!?」


 動揺した様子を見せるミレニアムの前で、ヒマリはカプセルを掲げて、その中身を見せつける。そこでは信じられないほどに小さくなったパラドックスが身体を丸めて眠っている。


「捕まえた」

「つ、捕まえただと……!? 馬鹿か!? 超人が怪人を捕まえるんだよ!? 怪人が超人を捕まえるなよ!?」


 あまりに動揺が強過ぎるのか、ミレニアムは訳の分からないことを言い出していた。そういう話ではないと思うのだが、ヒマリに向けられた指が信じられないくらいに上下している状態を見ると、揶揄うのも申し訳なく思えてくる。


「と、とにかく! パラドックスを返せ!」


 ミレニアムはそう抗議してくるが、その要求に素直に頷くはずもなかった。ヒマリはミレニアムの発言を無視し、パラドックスの入ったカプセルをポケットに仕舞う。


「無理な要求だ。返して欲しければ、力尽くで奪うんだな。それが可能ならの話だが」


 ヒマリの挑発を受けて、ミレニアムはわなわなと震えていた。ヒマリの予想では、パラドックスという矛がいなくなり、ミレニアムは逃げ出すはずだ。漫画の悪党さながらの逃走を見せてくれるだろう。


 そう思っていたのだが、ミレニアムの返答は違った。


「分かった……」

「ん? 今、何と?」

「分かった……やってやる……このミレニアム様の力を見せてやろう!」


 そう叫んだと同時にミレニアムの身体から糸が吹き出し、狭い路地の中に広がった。

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