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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-5.カプセルボール

 逃走したヒマリを追跡するために、路地を激走するミレニアムとパラドックスの前方に、二人の進行を妨げるように立ち塞がる人影があった。ミレニアムとパラドックスは揃って足を止め、そこに立つ人物を怪訝げに見つめる。


 それは二人の記憶が間違いでなければ、ヒマリと一緒にいたスーツ姿の中性的な女性だ。女性とは言ったが、声や体型、仕草や言葉遣いなどから、ミレニアムとパラドックスの受けた印象が女性に近いだけで、性別のところは分からない。

 ただヒマリと一緒にいたことから、ヒマリの関係者であるはずだが、女性の周囲にはヒマリの姿が見えなかった。ヒマリと一緒にいた若い男の姿もない。


 ミレニアムは路地の中を見回してみる。まだ開店していない居酒屋や、既に閉店した旨を伝える張り紙の見える本屋などが並んでいるが、それらは全て開いていないので、そこに逃げ込むこともできない。

 女性を置き去りにして、二人だけで逃走したかとミレニアムは考え、哀れむような視線を立ち塞がる女性に向ける。


「ここに一人でどうした? 紅丸日鞠は? もう逃げたのか? 君は置いていかれたのかな? 可哀相に」


 ミレニアムが大仰に涙を拭う仕草を見せると、女性はやや不機嫌そうに眉を顰めた。苛立った様子を見るに、ミレニアムの指摘は大きく違っていないのだろう。そう想像し、微笑むミレニアムの前で、パラドックスが歩み出す。


「そこを退いて。追いかけるから」


 パラドックスが女性に道を譲るように伝え、ミレニアムとパラドックスは揃って歩き出そうとした。道はここまで一本道で、この先も分かれているようには見えない。まだ追いかけたら、追いつく可能性が高い。


 そう考える二人の前で、女性がじっと不機嫌そうな顔をしたまま、立ち止まっている。パラドックスが退くように言ったはずだが、移動する気配がない。


「どうした? 聞こえなかったか? そこを退くんだ」


 ミレニアムが諭すように伝えると、女性は表情を変えることなく、小さくかぶりを振った。


「退かない」

「どうして? なぜ?」

「それが私の仕事だから」

「仕事?」


 女性の口にした言葉をミレニアムは信じられなかった。馬鹿にするように声が漏れ、ミレニアムの表情には嘲笑が浮かぶ。


「何が仕事だ? 俺達は超人だ。怪人である紅丸日鞠を追いかけることに正当性がある。その俺達を止めることのどこが仕事だ? ただ社会の悪を野放しにする手伝いを仕事とは呼ばない!」

「なら、私の役目と言ってもいい」

「いいから、そこを退け。気づくんだ。君は怪人に利用されているだけだ。何を言われたか知らないが、君のためにも、そこを退いた方がいい。これ以上は言わない。ただパラドックスが動くことになる」


 ミレニアムはそう告げると、パラドックスが僅かに腕を持ち上げ、女性に見せつけるように掲げた。パラドックスの腕はさっき見せた。その威力は十分に把握しているだろう。手荒い真似はしたくないと告げながら、ミレニアムとパラドックスは踏み込んでいく。


 しかし、女性は移動しようとしない。


「まだ退く気がないのか?」

「まあ、そういうこと」

「そうか。なら、仕方がない」


 ミレニアムの諦めの籠った一言を合図に、パラドックスが一気に走り出した。腕を少女の腕から異形の腕へと変え、女性との距離を詰めていく。

 その姿に女性は驚いたように大きく目を見開いてから、何かに気づいたようにハッとすると、大きく口を開いた。


「青!」

「青?」


 不意に叫んだ一言にミレニアムが疑問を持った直後、近くにある居酒屋の看板の奥から、何かが勢い良く飛び出した。


 それはヒマリだった。


「パラドックス!」


 ミレニアムが叫んだ声に反応し、パラドックスがこちらを振り返ろうとして、飛び出したヒマリの存在に気づいた。すぐに標的を女性からヒマリに変え、パラドックスは走り出そうとする。


 その姿を見た瞬間、ヒマリが何かをパラドックスに投げつけた。

 それは路地に入る前と同じく、カプセルトイのカプセルのようだった。


 接近するカプセルを目視し、パラドックスはやや警戒した態度を取る。足を止めて、背後に逃げる体勢を作りながら、パラドックスはカプセルを狙って異形の腕を振るう。カプセルは異形の腕と正面からぶつかって、簡単に破壊される。


 直後、何かが膨らむ音と共に、カプセルの中から()が飛び出した。それも良く見てみれば、さっきまで()()()()()()()()()()()()だ。


 さっきと同じく車が飛び出してくる絵を想像していたパラドックスは、異形の腕を振るおうとしていた。が、そこから飛び出してきたものが人間であると理解した瞬間、腕を止めて、そこから離れるように背後に跳んでいる。


 若い男は意識が朦朧とした様子だった。何かがあったのか、カプセルの中に入っていたからそうなったのかは分からない。ただぼうっと虚空を見つめながら、緩やかに倒れ込んでいく。


「ジッパ!」


 そこにヒマリの声が投げ込まれ、若い男の目が少しずつ見開かれた。失いかけていた生気に満たされ、ジッパと呼ばれた若い男の目が離れようとするパラドックスに向く。


「い、今だ!」


 そこでそう叫び声を上げながら、若い男が手に持っていた何かを投げた。パラドックスを狙って、まっすぐに投げられた物は、さっきヒマリが投げた物と同じカプセルトイの()()()()のようだった。

 それを目にしたパラドックスが接近するカプセルを迎撃しようと、背後に跳ぶ体勢のまま、異形の腕を構える。


 だが、ミレニアムはそこに存在するもう一つの可能性に気づいていた。


「待て、パラドックス! そのカプセルに触れるな!」


 カプセルの中から若い男が飛び出した。それは即ち、カプセルの中に()()()()()()()()という証拠だ。ここでパラドックスがカプセルを破壊しようと、あのカプセルに触れたら、パラドックスはその中に取り込まれるかもしれない。


 それだけは避けなければいけない、と考えるミレニアムの思考を理解したのか、パラドックスは振るいかけた異形の腕を引っ込めて、カプセルからも逃れるように、更に背後へと跳躍した。


 瞬間、パラドックスの近くに移動する影が見えた。それが何かと目で追えば、いつの間にか、ヒマリがパラドックスの近くに踏み込んでいた。


「残念。警戒したのは正解だが、改造したカプセルの中に、()()()()()()()()()()()()()()()んだ」


 そう告げるヒマリの隣に若い男の放ったカプセルが落下する。それは本当にただのカプセルだったようで、そこに落ちても何も変化しない。ただ軽い音を立て、反射するだけだ。


「逃げろ! パラドックス!」


 咄嗟にミレニアムは叫ぶが、パラドックスは若い男の放ったカプセルから逃げるために跳躍した直後だ。そこから素早く体勢を変える余裕はなく、そこにヒマリが手を振るった。

 その手からカプセルが飛び出し、無防備なパラドックスの身体に触れた。


 瞬間、パラドックスの身体が消え、開いたカプセルの中に吸い込まれていく。カプセルはその場に落下し、パラドックスの抵抗を示すように、左右に大きく震えてから、ゆっくりと停止した。


 その光景に唖然とするミレニアムの前で、ヒマリがカプセルを拾い上げて、その中を覗き込んでいる。そこにいると思われるパラドックスの姿を確認すると、ヒマリは満足げに頷いて、小さく口を開いた。


「よし、無事に超人ゲットだ」


 パラドックスが捕獲された。

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