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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-4.無理怪人

 逃げ込んだ路地をひた走りながら、ヒマリは背後を振り返った。ヒマリのすぐ後ろを走るジッパとシト以外の姿はなく、ミレニアムとパラドックスの姿はまだ見えない。


「逃げ切りましたかね」


 同じようにその様子を確認したジッパが呟く。が、ヒマリはすぐにかぶりを振る。


「あの場で塞がってなかった道はここだけだ。あいつらが馬鹿じゃなければ、ここに逃げ込んだことはすぐに分かる。入ったタイミングと身体能力的に今は引き剥がせているだけだろう」


 パラドックスの腕は異形の形をしていたが、それ以外の部分は一般的な中学生少女と変わらない見た目をしていた。ミレニアムの方もド派手な出で立ち以外に、大きな身体的特徴は見て取れなかった。走る速さに異様さが存在しないなら、先に逃げ込んだヒマリ達に追いつくことは難しいはずだ。


 とはいえ、この道に入ったことがバレ、道が一本道だったと来れば、やがては追いつかれるだろう。その前にここからどうするか決めないと、とヒマリが考えていると、動揺したように眉を顰めるジッパが抱えた困惑を吐き出すように呟いた。


「ていうか、あいつらは結局、何者なんだよ……?」

「言ってたでしょう? 超人だって。あいつらは怪人である君を捕まえに来た超人なの」


 ジッパの呟きに答えるように、シトがヒマリを指差しながら呟いた。その言葉にヒマリとジッパは揃って眉を顰める。困惑ではなく、嫌悪感からの反応だ。


「何度言えば分かる。俺は怪人じゃない」

「なら、あのカプセルは何? あれはどうしているの?」


 シトの指摘通り、ヒマリの所持するカプセルの一部は目に見えて形が変化していた。通常はプラスチック製で、両手で開けるような物のはずだが、ヒマリが手に持っていると形が変化し、中を開けようにも開けられないほどの強度になっていた。それだけではなく、中には様々な物体を入れることが可能で、さっきパラドックスに投げつけたカプセルは移動用に事務所の車を入れていた物だ。


「知ってる? 怪人は皆、普通の人が持っていない特殊な力を使えるんだよ? 君のカプセルは正に怪人のそれだよね?」


 シトからの指摘にヒマリは口を噤む。確かにカプセルに起きた変化のことは、ヒマリの中に疑問の芽を生やしていた。怪人以外の言葉を用いて、そこに理由をつける理論はヒマリの中に出来上がっていない。


「いやいや! ヒマリさんが怪人とかあり得ませんから! 確かに顔は怪人みたいに怖いかもしれませんけど、こんなにまっすぐで、誰に対しても優しく接せられる人はいませんよ! そんな人が怪人の訳がないでしょう!」


 口を噤んだヒマリに代わって、ジッパがシトの指摘に反論する。ジッパの言葉に一部引っかかるポイントはあったが、ジッパの反論自体は嬉しいものだった。

 何より、ヒマリは自分が怪人であるなどと思ったことは一度もない。自分はただの人間だ。怪人として生まれた記憶など、これっぽっちもない。


「誰に対しても優しい? 私は優しくされた記憶がないけれど?」

「それはそうでしょう! 誰だって自分のことを怪人って呼ぶ人に優しくしませんよ! 怪人がどんな風に思われているか知ってるんですか? ヒマリさんを見て、その怪人と同じって思いますか?」


 ジッパはシトの誤った考えを訂正しようと、順番にシトの言葉を切り返そうとしているように見えた。今のヒマリは確かに世間一般的に語られる怪人とは違うはずだ。これまでにやってきたことの全てが綺麗とは言わないが、少なくとも、怪人のイメージにある悪徳さはないと言える自信がある。


 その部分を突けば、少しはシトの態度も変わるだろうとジッパは思っていたようだが、意外にもシトはあっさりと返答した。


「思わないし、思わなくても当然。だって、そのイメージが間違っているからね」


 思っていたよりもシトがあっさりと引いたことに加え、思ってもみなかった新事実が口から飛び出したことに、ヒマリとジッパは揃って驚いた。一瞬、息が詰まって言葉が出なかったのは走っているからではない。


「そもそも、超人も怪人もイメージが先行しているだけで、誰も詳しく知らないでしょう? だって、誰も正解を教えてもらってないから。最初に言ったでしょう? 私は怪人組合のスカウト担当だって。つまり、私だって怪人だよ?」


 ヒマリとジッパの目が見開いて、シトをじっくりと見始める。中性的で整った容姿は綺麗という意味で違和感はあるかもしれないが、人ではないという違和感はそこに存在しない。これまでの振る舞いもしつこい以外に、人間的ではないと感じた瞬間はない。


「さっきの超人だって、派手な見た目に化け物みたいな腕を持っていたけど、それ以外に変わったところはなかったよね? 逃げ続けている私達に追いつく気配もない」


 シトが少し振り返り、ミレニアムとパラドックスの姿が見えないことを確認する。さっきヒマリが思ったように、ミレニアムもパラドックスも変わった部分は存在したが、他の人間と同じ部分も多かった。身体能力はその一つだ。

 それが超人であるとまだ信じていないが、仮に超人であるとすれば、少し名前負けしているようにも思える。


「じゃあ、怪人って、超人って、何なんですか? 貴女は知っていると?」


 混乱してきた様子のジッパが目をくるくると回転させながら、シトに質問した。質問を受けたシトは首肯し、ヒマリに視線を向けてくる。


「君さ。怪我を負わなかった? それも命に関わるほどの怪我」


 その一言がヒマリの背中に鈍い痛みを覚えさせた。そこにはない自動販売機がヒマリの視界を通過する。


「ああ、背中を刺された」

「その傷はどうした?」

「知らない。気づいたら、治っていた」

「命に関わるほどの怪我が知らない内に?」


 そう言われ、ヒマリは背中を摩る。傷は施設で目覚めた時にはなくなっており、ヒマリはそのことに疑問を覚えた。あれは夢だったのかとも思ったが、施設を飛び出した後に知った事実と照らし合わせれば、あれが夢ではなかったことは明白だ。


「最新医療の力かと。病院みたいなところで目覚めたし」

「そこまでの最新医療は存在しないよ。それに病院みたいなところって、変な施設だよね?」


 シトの問いにヒマリは首肯する。病院と表現したが、印象は刑務所にも近かった。ヒマリは刑務所に入ったことがないので、実際に似ているかは分からないが、印象としては囚われているという感覚の部屋でヒマリは目覚めた。


「その施設が正に怪人と超人の秘密だよ」

「どういうことだ?」

「その施設で、怪人と超人は作られているんだよ。君みたいに死にかけた人に改造手術を施してね」

「改造……手術……? 怪人や超人の次はサイボーグごっこか?」


 戸惑うヒマリに対して、ジッパは既に話に置いていかれたのか、焦点の合わない目を前方に向け、ぽかんと口を開けていた。魂が抜けてしまったのかもしれないが、抜けた魂が見えないので戻すこともできない。


「そう。言ってしまえば、サイボーグなんだよ。超人も怪人も全部。君の怪我が一瞬で治ったのも、改造されたからだよ。死にかけた人間なら、抵抗することができないから、好き勝手に改造されるんだ」

「本気で言ってるのか? 俺が改造されただと?」

「その証拠がカプセルだよ」


 ヒマリはジッパに遅れることしばらく、同じくらいの困惑に包まれることになったが、シトの説明がヒマリに起きた変化に理由を与えることも事実だった。どこまでを疑い、どこまでを信じればいいのか、ヒマリは判断材料の少なさに頭が痛くなる。


「超人も怪人も、改造を施され、特殊な力を使えるようになった、元は人間なんだよ。そこにつけられた名前が超人であり、私達怪人ということ」

「超人も怪人も、元は人間……? いや、待て。超人も怪人も同じというのか? さっきの奴らが超人だとして、俺が怪人だとして、どちらも同じだと?」

「そう。存在自体は一緒」

「なら、どうして呼び名が違う」

「簡単な違いだよ。改造した連中に味方している人達は超人。それ以外を怪人って呼んで、変な情報が出ないように、全てを始末して回っているんだよ。君は逃げて、ここにいるから怪人。そういうこと」


 シトの話の真偽のほどは不明のままだが、一通りの分かっていなかった部分について、怪人と超人という言葉を当てはめることで説明がつくことは確かだった。ミレニアムとパラドックスが超人だとした時に、自分を狙っている理由も納得がいく。


「要するに、味方にならないから殺すっていう偏った思想か」

「要約すると、そういうことになるね」

「どういうことですか? ヒマリさんが協力的ではないから殺すことにしたっていうことですか?」


 置いていかれていたジッパが何とかその部分の理解だけは間に合ったらしい。ヒマリとシトが首肯すると、ジッパは納得したように頷いている。きっと半分以上は理解していない。


「それなら、急いで逃げましょう!」

「そうしたいけど、どうだろうね? ここまで一本道だし、もうそろそろ追いつかれるかもしれない。追いつかれたら、さっきの糸を生む力で、逃げ道を塞がれるかも」

「そうなったら、あの化け物みたいな腕で終わりか。逃げるのは現実的ではないな」

「なら、戦うんですか!? 俺は地面に腕を突き刺す奴と戦えませんよ!?」


 ジッパが全うな泣き言を言っている前で、ヒマリは僅かに自身の持つカプセルを確認した。中に入っているもので、有効に活用できそうなものはさっきの車くらいしかない。後はこれから復讐に向けて、順番に詰め込む予定だった。


「なあ、お前。お前も怪人なら、何か力を使えるのか?」


 ヒマリがシトを見やって、シトは小さく笑みを浮かべる。


「もちろん」

「その力は何だ? 教えてくれ」

「いいけど、一つ条件を言ってもいい?」

「何だ?」

「怪人組合に入って」


 ニヤニヤと笑いながら、土壇場で条件を叩きつけてくるシトを前にし、ヒマリは眉を顰めた。シトの発言が真実だとして、怪人の実態自体は分かったが、怪人組合の方は何も分かっていない。

 そこに入って、本当に目的が達成できるか分からない以上、ヒマリの返答はノー以外にない。


「仕方ない。話さないなら、別の手段を取る」


 そう言いながら、ヒマリはカプセルを一つ、リュックサックから取り出す。


「それは何?」

「お前を捕まえる用のカプセルだ」

「はにゃ?」

「お前も怪人なんだろう? なら、お前を引き渡すことで、あいつらと交渉する」


 ヒマリの考えを聞き、ジッパが納得したように手を打つ。流石にそれは想定外だったのか、シトは冷や汗を掻きながら、顔には苦笑いを浮かべ、小さくかぶりを振る。


「分かった、分かった! 話すから落ちついて!」


 焦るシトの姿に、ヒマリは持っていたカプセルをリュックサックの中に戻す。それに安堵したらしいシトが溜め息をついてから、真剣な表情をヒマリ達に向けてくる。


「じゃあ、教えるけど、少しややこしいから、しっかりと聞いてね」


 そう前置きを言ってから、シトは自身の力を説明するために、自身の()を指差した。

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