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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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3-1.カプセルトイ

 駅前の繁華街から少し離れたところに、六階建てのテナントビルが建っている。階層ごとに入っている店舗が違って、二階と三階に家電量販店が入っているのだが、その間を繋ぐ階段に四台のカプセルトイが設置されている。


 その四台のカプセルトイの前に一人の男が居座り、黙々と一台に百円玉を投入していた。一回二百円なので、一度に投入する百円玉は二枚だ。それを投入したら、目の前のレバーを回し、カプセルを取り出している。


 男の眼光は鋭かった。強張った表情は周囲に恐ろしい印象を与え、何もしていないのに通報されることも間々ある。ただ、そうされても仕方ないと思う自身の立場を理解しているので、男は警察が駆けつける姿を見ても、怒り出すことはなかった。寧ろ、下手なことをしない方が身のためだと理解し、作り込んだ平静さを見せることの方が多かった。


 取り出したカプセルを開けて、中に入っている物を確認する。今回は子供から大人気のアニメの小型フィギュアが入っている。男が今回引き当てた物は主人公のフィギュアだ。


 しかし、それは男の欲しい物ではなかった。というよりも、正確に言ってしまえば、既に引き当てた物だ。男がカプセルトイの前に居座り始めて、既に小一時間が経過し、男の消費した百円玉は数え切れないほどになっている。大半のフィギュアは当ててしまい、現在に至るまで当たっていないのは、何かも分かっていないシークレット一つだけだった。


 それを引き当てるために男は再度、二百円を投入する。レバーを回して、カプセルを取り出し、中身を確認する。主人公と一緒に行動するマスコット的な不思議生物のフィギュア。当然、シークレットではない。

 男は持っていたリュックサックを取り出し、その中にカプセルを放り投げ、当てたフィギュアはカプセルトイの台の上に並べた。既に一面が埋まるほどに並び、一部は足元に置かれている。


 財布を確認する。百円玉は減ってきているが、ここに来る前に両替したこともあって、まだなくなったわけではない。とはいえ、心許ないと思いながら、百円玉を二枚投入し、いざレバーを回そうとしたところだった。


「まだ終わってないんですか!?」


 階段下から若い男の声が聞こえ、ゆっくりとそちらを振り返った。派手な柄のシャツを着た、明るい金髪の男が階段を駆け上がってくる。


「ヒマリさん! お願いしますよ! もうそろそろ行きましょうって」


 階段を駆け上げってきた若い男が懇願するように呟いて、紅丸(べにまる)日鞠(ひまり)は無視するようにレバーを回した。カプセルを取り出して、中身を確認してみる。ヒロインのフィギュアだ。これで六体目である。


「ちょっと無視しないでくださいよ!」


 ヒマリの態度に怒るような様子を見せる若い男を目にし、ヒマリは財布から一万円札を取り出した。それを一枚、男に手渡し、男は面食らった顔をする。


「何ですか、これは? もしかして、遊んで来いと?」

「いや、両替してきて。百円玉に」

「パシリですか!?」


 信じられないという顔をしながらも、男はヒマリから一万円札を受け取って、困った表情をしていた。


「ヒマリさん、一つだけ確認していいですか?」

「どうした?」

「ヒマリさんって、()()する気はあるんですよね?」


 その問いに百円玉を投入しかけていたヒマリの手が止まり、ヒマリはゆっくりと振り返った。人を殺していそうと表現される目が若い男に向いて、若い男は思わず表情を強張らせている。


「ジッパ、いいか? 当たり前のことを俺に聞くな。それから、そういうことは外で言うな。誰かに聞かれていたら、どうする?」

「そ、そうですよね!? すみません!」


 ヒマリからの注意を受け、若い男、藍鴨(あいがも)十波(じっぱ)は頭を下げた。その様子にヒマリは大きな溜め息をついて、再びカプセルトイの機械に目を向ける。


「それから、何事も準備は大切だ。しっかり準備して、物事には当たらないと、いざという時に困ったことになる。そのための期間が今だ。分かったか?」

「はい! 分かりました!」

「よし、なら、その金を百円玉に換えてこい」

「任せてください! 行ってきます!」


 元気に駆け出したジッパを見送り、ヒマリはカプセルを取り出す。中身はさっきも当てた主人公のフィギュアで、既に二十体は超えている物だ。ヒマリは小さく溜め息を漏らし、足元に並べてから、財布に入った百円玉を取り出す。


 その仕草にヒマリの記憶が重なって、ヒマリは二枚の百円玉を取り出しながら、ほんの数週間前のことを思い出していた。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 ヒマリの父はヤクザだった。その父が抗争に巻き込まれ、命を落としたのは、まだヒマリが小学生の頃だった。父がどれだけ世間から疎まれていても、ヒマリの中ではヒーローだった父が亡くなったことにショックを受ける一方、その父の敵を取ってくれた父のいた組の組長には、感謝と憧れが芽生え、この時、ヒマリの将来が決定した。


 その後、成長したヒマリは父と同じ組に入り、ヤクザとなった。まっすぐな性格をしたヒマリは周囲からの信頼を得て、少しずつ組の中での立場も上がり、気づいた時には幹部の一人になっていた。


 ヤクザという立場上、日常生活では困ることの方が多かったが、それでも、子供の頃からの尊敬や憧れの人と一緒に仕事ができていることや、あの時の父の背中を追えている事実に、ヒマリは満足感を得ながら、毎日を過ごしていた。


 その最中のことだった。事務所に向かっている途中、ヒマリは自動販売機の前で立ち止まり、財布を取り出した。いつも、ここでコーヒーを買ってから、ヒマリは事務所に向かっている。その日課をこなそうと、財布の中から小銭を取り出した。


 その時、身体を鈍い振動が襲った。じんわりとした温もりと、耐え切れないほどの痛みが背中を襲って、ヒマリは目を見開きながら振り返った。


 そこには一人の男が立っていた。震えた顔と今にも泣きそうな目をヒマリに向け、手には真っ赤に染まったナイフを握っている。その男はヒマリも見たことのある男だった。ヒマリのいる組と敵対している組にいる男、つまりは同業者だ。


「何……してやがる……?」


 ヒマリが声を出すと、男は怯えた表情で後退り、そのまま逃げるようにその場を立ち去った。ヒマリは崩れるように倒れ込み、そこから、すぐに意識を失う。


 その後はどうなったか分からないが、気づいた時には、ヒマリは病院でもなければ、あの世でもない、謎の施設にいた。何が何だか分からないが、自身を襲った男のこともあって、ヒマリは施設で起きた混乱に乗じて、その施設から逃げ出すことにした。


 その足で事務所に向かい、他の組が狙っているかもしれないと、ヒマリは伝えようとしたが、それは結果的に言うと叶わなかった。


 ヒマリが事務所を訪れた時、既に事務所には誰もいなかった。ただ何かがあったと分かる痕だけが残され、ヒマリは立ちつくした。


 そこに現れたのがジッパだった。ヒマリのいる組に入ったばかりのヤクザで、ヒマリが良く連れていた一人だ。


 そのジッパがヒマリを目にした途端泣き崩れ、ヒマリが襲われた直後、組は襲撃にあって、壊滅状態に陥ったことを教えられた。ジッパは事務所近くで襲われ、一目も近くにあったことから、重傷を負っただけで助かったらしい。

 そこで憧れの存在だった組長も殺害された事実を聞き、ヒマリはジッパと共に決意した。


 自身を襲い、自身の家族を殺害した組に復讐する、と。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 それから現在、ヒマリはカプセルトイを回している。ジッパが両替を終え、戻ってきたので、軍資金はたんまりとある状態だ。


 その中でヒマリが何気なく回したカプセルを開けた。中身をいつものように確認し、その中身の異様さに一瞬、眉を顰めた。


 見たことがない。そう思ったヒマリがフィギュアと一緒に入っている紙を取り出し、確認する。


「出た……」


 間違いないと思った直後、ヒマリは自然と、そう声を漏らしていた。


「えっ?」

「出た。シークレットだ」


 そう言って、ヒマリがジッパに見せたフィギュアは、敵キャラクターの一人が変装した姿だった。言われなければ、そのアニメのフィギュアと分からない、あまりに一般人然とした姿だ。


「こ、れが……へ、へぇ~……」


 ジッパが何とも言えないリアクションを取る一方、ヒマリは満足した様子でフィギュアを台の上に並べて、それを少し遠くから眺めた。全てが揃った図、というよりも、それ以上に並んでいるフィギュアが多く、その光景の方が圧巻と言える。


 その様子を眺めている最中、ふと上から降りてくる階段の方から声が聞こえた。


「あっ」


 その声に反応し、ヒマリとジッパが振り返ると、そこには小学生くらいの小さな男の子が立っていた。その視線はヒマリが当てたばかりのシークレットのフィギュアに向き、やや驚いた顔をしている。


「どうした? 坊主?」


 ジッパが男の子に声をかけると、男の子はそのフィギュアを指差し、ヒマリの顔をまっすぐに見てきた。


「当てたの?」

「ああ」

「凄い……いいなぁ……」


 そう言いながら、男の子はヒマリの隣まで歩いてきた。台の上に置かれたフィギュアをじっと見つめ、指を咥えそうな勢いで欲しそうにしている。


「欲しいか?」


 ヒマリが聞くと、男の子は遠慮することなく頷いた。その姿を見たヒマリがそのフィギュアを手に取って、男の子に手渡す。


「なら、やるよ」

「えっ? いいの!?」

「その代わり、遊ぶなり飾るなり、ちゃんとしろよ。玩具箱の隅でもみくちゃになっているとか、可哀相過ぎるからな」

「うん! 分かった! ありがとう!」


 男の子はフィギュアを手に、嬉しそうに再び階段を上っていく。その様子を見送ってから、ヒマリは並べたフィギュアをカプセルの入ったリュックサックに仕舞い始めた。


「いいんですか、あげちゃって?」

「いいんだよ。欲しかった物はちゃんと揃ったし」

「まあ、それならいいんですけど」


 全てのフィギュアを仕舞い終えたヒマリが立ち上がって、リュックサックを肩にかける。


「よし、行くか」

「おっ! ついに行きますか!?」

「いや、まだ直接には行かない。その前に飯だ。流石に腹が減った」

「そ、そうですよね~」


 若干、落胆の色を隠せていないジッパを無視し、ヒマリは階段を降り始める。ジッパの焦る気持ちも分かるが、ヒマリの中には失敗できないという気持ちが強くあった。入念な準備を怠るつもりは微塵もない。


 テナントビルを後にし、ヒマリとジッパは繁華街の方に歩き出そうとする。何を食べるにしても、繁華街に行けば何でもあるだろう。

 そう思ったヒマリとジッパが歩き出そうとした時のこと。二人の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ちょっとお待ちを、お二人さん。少しいいかな?」


 その声にヒマリとジッパは揃って眉を顰めて、心底嫌そうな様子で振り返る。そこにはスーツを身にまとった中性的な女性が一人立っている。振り返った二人の様子に女性は笑みを浮かべ、低く透き通った特徴的な声を出す。


「大切な話があるのだけれど?」


 その問いにヒマリとジッパは揃ってかぶりを振った。

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