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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-30.モグラ叩き

 傷ついた身体を引き摺るように、互いに庇い合うように、アズマヤとマルイは屋敷の中を走っていた。誰かと逢う気配も、誰かがいる気配もなく、屋敷の中は知らない間に自分達以外の人がいなくなったように静かだ。


 もしかしたら、ヒノエはどこかに連れていかれたのか? アズマヤは想像し、不安な気持ちが強くなる。自分達が処置室に監禁され、非道な拷問を受けたように、ヒノエもどこかに監禁され、何かをされている可能性があると考えたら、途端に気持ちは落ちつかなくなる。


 とはいえ、あくまで可能性だ。どこにいるかも分からないヒノエを、ここから追いかけることは不可能だ。難しいではなく、現実的に考えて、処置室に監禁されていたアズマヤやマルイにはできない。


 取り敢えず、今はミチカ達が隠していた何かを発見し、少しでも状況を好転させる材料を手に入れたい。逸る気持ちが足を今以上に回転させようと命令を出すが、今のボロボロな身体でこれ以上に急ぐ術はないと、冷静な思考を何とか介入させ、アズマヤは着実にドールルームに近づいていく。


 そして、マルイの案内で、ドールルームと掲げられた扉が廊下の先に見えてきた。その時のことだった。


 ドン! 激しい音が屋敷中に響き渡り、アズマヤとマルイは思わず足を止めていた。何かが爆発するような音。何の音かは分からないが、映画やドラマの中で聞いた発砲音に似ている。


「銃声……?」


 湧いてきた疑問をアズマヤが呟き、マルイは動揺したように瞳を震わせていた。まさか、屋敷の中で銃声などあるわけがないと表情は語っているが、それを言葉に出さないのは、ないとは言えない状況と出遭ってしまったからだろう。


 再び、ドン!という激しい音が聞こえ、アズマヤとマルイの視線がドールルームの方に向く。アズマヤとマルイの耳がまだ正常なら、その音はドールルームの扉の向こうから聞こえているようだ。


「急ぎましょう!」


 何かがあった。そう判断したアズマヤがそう口にし、アズマヤとマルイは走り出した。マルイは音に動揺し、やや怯えていたためか、アズマヤの方が先に走り出し、ドールルームの扉の前に先に到着した。


 そこでアズマヤは壊れた扉を目にする。蜂の巣のように無数の細かい穴が開いて、ドアノブは半分取れ、僅かな風ですら受け止められないのか、扉は僅かに揺れている。アズマヤはその扉にぶつかるように飛び込んで、ドールルームの中を見渡した。


 そこでは、ミチカがショットガンを構え、部屋の奥に座り込んだヒノエを狙っている状況だった。ヒノエの奥には、棚で隠されていたはずの扉があって、その奥の部屋が僅かに覗けるようになっている。部屋の中央には、キッカらしき人物が倒れ、その近くにはその人の両腕が転がっている。


 この状況は何だとアズマヤは疑問を懐き、困惑した気持ちが少しの間だけ動きを止めた。その間にミチカの視線がアズマヤに向いて、そこにアズマヤがいることに大きな動揺を見せた。


「何で、ここにヨースケくんが……? どうやって、来たの……?」

「どうやってって……ミチカさん?」


 アズマヤが困惑と動揺を吐き出すようにミチカの名前を呼んだ直後、ミチカの身体が激しく動き出し、手に持っていたショットガンをアズマヤに向けようとする。


「何で、生きてるのよ!?」


 その一言にアイユの姿が重なって、アズマヤは咄嗟に手に持ったハンマーを振り下ろしていた。そうしないと殺される、と脳内で自分自身が警告を出してくる。


 アズマヤの振り下ろしたハンマーは、こちらを振り向いたミチカのショットガンとぶつかった。ショットガンは大きく叩き落とされ、ミチカは前方に倒れ込むように体勢を崩しながら、手からショットガンを滑り落としている。そのままショットガンは落下し、ドールルームの床で跳ねた。


 その衝撃で弾が飛び出し、アズマヤの隣を掠めるように広がった。呆然とするアズマヤの後ろでは、既に壊れていた扉が吹き飛び、その扉の前に移動しようとしていたマルイが、廊下の途中で腰を抜かしている。想定外の恐怖に耐え切れなかったのか、マルイは座り込んだその場を、黄色く濡らしている。


 咄嗟にミチカが屈み込んで、落としたショットガンを拾おうとした。その中に弾が残っているのか、ミチカの手元に弾があるのかは分からないが、拾われ、銃口を向けられた時に、そこに弾があれば、もう死は確定的だ。アズマヤは咄嗟に手を伸ばし、ミチカよりも先にショットガンを拾おうとした。


 しかし、ミチカの手元から落ちたこともあって、ショットガンはミチカの方が近い。アズマヤがどれだけ急いで手を伸ばしても、ミチカより先に拾うことは難しい。何より、ハンマーを左手に持っているアズマヤに残されているのは、右手だけだ。その右手は爪を剥がされ、人差し指は折られている。その手で、咄嗟にショットガンを掴むのは難しい。


 そう思ったアズマヤは考えるより先にハンマーを動かし、ミチカの身体を殴りつけていた。ハンマーはミチカの伸ばした腕にぶつかって、鈍い音をアズマヤに伝えてくる。


「いだぁい!?」


 ミチカの口から絶叫と言える声が漏れ、ミチカは咄嗟に殴られた手を、もう片方の手で労るように押さえた。その隙を逃がさないように、アズマヤはショットガンを足で手元に引き寄せた。その衝撃で弾が飛び出さないか、一瞬、ヒヤリとしたが、それは杞憂に終わった。

 痛みに悶えていたミチカだが、アズマヤの足元にショットガンが移動したことに気づいて、瞬間的に目の色を変える。


「それを……寄越せ!?」


 骨が折れたのか、力が入らないのか、ハンマーで殴られた腕をだらんとぶら下げながら、ミチカはもう片方の手を力強く伸ばしてきた。それを拒絶するようにアズマヤは踏み込み、身体でショットガンへの道を潰しながら、アズマヤはこちらに迫るミチカの身体にハンマーを振るった。


 無我夢中だった。加減という言葉も頭に浮かばないまま、アズマヤは重い一撃を、迫るミチカの背中に叩きつけた。鈍い音に続いて、ミチカの口から息が漏れ出る音が続き、ミチカはその場に倒れ込む。

 その姿を目にしてから、アズマヤはようやく人を殺してしまったかという可能性に気づいて、それまでとは別種の恐怖に襲われた。咄嗟に屈んで、そこに倒れ込むミチカに手を伸ばす。


 呼吸はある。不自然さもない。脈も正常だ。意識を失っているが、すぐに死にそうな状態ではない。

 アズマヤは確認したミチカの様子に僅かな安堵を覚え、その場に座り込んだ。腰から力が抜けて、そうせざるを得なかった。


「アズマヤ……さん……?」


 そこで部屋の奥からヒノエの声が聞こえてきた。顔を上げれば、アズマヤの顔をじっと見つめて、目を皿のようにしているヒノエと目が合う。ヒノエの驚きは、正しく死人が生き返った瞬間を見たようだ。


「ヒノエさん、無事ですか?」


 アズマヤがそう質問すると、ヒノエはゆっくりと目の縁に涙を溜め、溜め切れなかったように溢れさせて、頬を濡らした。


「アズマヤさん……? 生きて……生きていたんですね……?」


 本当に死人が生き返ったと思っていたらしく、震える声を出すヒノエにアズマヤは微笑みかける。


「無事、とは言えないですけどね」


 精一杯の強がりで、何とかそれだけ言ってみせたアズマヤを目にし、ヒノエは顔を泣き顔として歪めながら、跳ね上がるように立ち上がった。そのまま、ほとんど飛ぶようにアズマヤに抱きついてくる。


「本当に……本当に……良かったです……アズマヤさんが……生きていて……本当に良かった……」


 アズマヤの胸の中で身体を震わせながら、嗚咽交じりに呟くヒノエの声を聞きながら、アズマヤは身体に走る痛みと、ヒノエが抱きついてきた嬉しさに、複雑な表情をする。ゆっくりとヒノエの重みすら耐え切れないように倒れ込んで、アズマヤは天井を見上げる。


「ごめんなさい……でも、ヒノエさんも無事で良かった……」


 アズマヤの呟きにヒノエが嗚咽で返す中、この空気の中に入り込む気まずさと、粗相をしてしまった気恥ずかしさから、顔を真っ赤にしたマルイがドールルームを覗き込んでいた。

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