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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-29.的当てゲーム

 マルイが手に持った斧を振り下ろし、アズマヤの手足を縛っていた拘束具が撥ね飛んだ。アズマヤは自由になった手足を確認し、全体を覆う痛みに顔を歪めながら、もう一つの手術台に凭れかかるように絶命した、アイユの姿に目を向ける。首元から腰の辺りにかけて、大きく開いた傷口からは大量の血液と内臓が零れ、どこを見ているとも取れない瞳からは、生前のアイユの面影が一切消えている。


「ごめんなさい……本当にごめんなさい……私……本当に酷いことを……」


 斧を持った手をだらんとぶら下げ、力なくアズマヤに接近してから、マルイはアズマヤの両手に触れるように手を伸ばしてきた。触れると痛みがあると思ったのか、触れる手前で手を止めて、マルイは目に一杯の涙を浮かべながら、何度も謝罪の言葉を口にする。


「マルイさんはああするしかなかった。それくらい俺も分かってます」


 嗄れた喉で何とか返答し、アズマヤは大半の爪が剥がれ、指の骨すら折れた手を見やって、命が残っていることを実感する。


 今のアイユがそうなっているように、アズマヤもここに死体として転がっていてもおかしくない状況だった。偶然だとしても、助かっただけ良かったと思うべきだ。爪よりも、指の骨よりも、命の方が大事である。


「それよりも」


 アズマヤが今も謝罪の言葉を繰り返すマルイの口を止めて、部屋の外を意識するように扉を見ながら口にする。


「ヒノエさんは大丈夫でしょうか?」


 アズマヤが混乱する頭に浮かんだ疑問を思い出し、そのように口にした。アズマヤとマルイが捕まってから、ヒノエがどうなっているのか、どうなったのか分かっていない。ヒノエも自分と同じ目に遭っている可能性がゼロではない以上、アズマヤの中に不安は募る。


「マルイさんはヒノエさんがどこにいるとか知ってますか?」


 アズマヤの問いにマルイは当然、かぶりを振った。アズマヤがそうだったように、マルイも大半はこの処置室に拘束されていたようで、あの晩からヒノエとは逢っていないらしい。


「アイユさんに呼ばれて、行った先でクッキーを見せられて、お勧めされたクッキーを一口齧ったところまでは覚えてるんです。その後は、気づいたらこの部屋にいて、それから……それから……」


 そう言いながら、マルイの身体はわなわなと震え、自分自身を落ちつかせるように、両手で自分の身体を抱き締めていた。見開かれた目や、カタカタと音を立てる口元が、そこで感じたマルイの恐怖を物語っている。


「ヒノエさんをここから連れ出したいけど、ヒノエさんがどこにいるか分からないし、それにそもそも、何でアイユさんは俺やマルイさんを捕まえて……?」


 それまで友好的だったアイユ達が、唐突にアズマヤを痛めつける結果に出た理由を考えようとし、アズマヤはアイユが口にした質問の一つを思い出した。


「ヨースケくんはどうしてドールルームに入ったのかな?」


 アイユの発言の中でも、最も具体的だったその質問を思い出し、アズマヤはマルイに目を向ける。


「マルイさん、ドールルームって知ってますか?」

「ああ、はい。人形が置かれている部屋ですよね? 基本的に入れてもらえませんけど、たまに掃除の時に入ったことはあります」

「基本的に入れてもらえない?」

「はい。掃除の時も、キッカさんが一緒じゃないと、中に入ってはいけないと言われました」


 マルイすら立ち入れない部屋の存在と、キッカの説明の中になかった違和感、それにアイユの質問が重なって、アズマヤの中で疑念が膨らんでいく。


「もしかしたら、そのドールルームに何かがあるのかもしれない……」

「何か、とは?」

「分かりません。でも、これだけのことをした理由がそこにあるのかもしれない」


 ミチカ達の隠している何かが見つかれば、それだけでヒノエを連れ出す理由もできる。ヒノエを探す必要もあるが、まずは確実にヒノエを連れ出せる状況を作り出そう。


 そう考えたアズマヤが処置室を出るために身を起こそうとした。途端に痛みが身体を走って、アズマヤはアイユの死体の傍に屈み込むように倒れかけてしまう。鼻孔を突き刺す臭いと目の前の惨状に、少し前のマルイがそうだったように吐きそうになるが、今は吐く時間が惜しい。アズマヤは無理矢理に吐き気を飲み込み、そこで目に入ったハンマーに手を伸ばした。


「マルイさん……ドールルームの場所は分かりますか? そこに俺を案内してください」


 アズマヤからの頼みを聞いたマルイが、少し怯えた表情でアイユの死体を見つめてから、小さく頷いた。手に持っていた斧を力強く握り締めて、処置室から出る扉を見つめて、アズマヤに言ってくる。


「分かりました。行きましょう。ついてきてください」


 マルイがとぼとぼと歩き出し、アズマヤはとぼとぼとそれについていく。二人は互いに負った傷を労りながら、惨状に満たされた処置室を後にした。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 我に返ったヒノエが身を翻した直後のこと。ミチカが引き金を引いて、銃口から散弾が発射された。ヒノエは僅かに射線を逸れたようで、弾はヒノエに当たることなく通過し、その奥で自身の腕を取り戻そうと、必死に足掻いていたキッカを襲撃する。


「あっ……? がっ……!? ごばっ……!?」


 散弾を胴体で受け止め、キッカは口元から苦しそうに息と血を吐き出し、支えを失ったように倒れ込んだ。自身の身体から取れた腕の傍に寝転んで、壊れたマネキンのようになる。


「避けんな!?」


 ミチカが激昂と共に荒ぶる声で叫び散らかした。ヒノエは咄嗟に身を起こし、すぐにその場から離れるために逃げ出そうとする。


 その動きを見たミチカの狙いが移動し、ヒノエの向かう先を潰すように引き金を引いた。鳴り響いた銃声に驚いて、ヒノエが思わず足を止めた前で、ドールルームの入口となる扉に無数の穴が開いて、ヒノエは愕然とする。


「逃げんな!?」


 ミチカが叫びながら、微妙に位置を調整するようにショットガンを動かした。銃口が扉からヒノエに向いて、気づいたヒノエが咄嗟にドールルームの中を走っていく。


 同時にミチカが引き金を引いて、飛び出した散弾がドールルームに置かれた人形を砕いた。磁器製の身体が飛び散る中、ヒノエは聞こえた銃声に身を竦め、人形の山に身を転がす。


「さっさと死ね!?」


 ミチカが部屋の中央に移動し、転がったキッカの身体を退かすように蹴り飛ばしてから、人形の山の中に倒れ込む、ヒノエに銃口を向けてきた。ヒノエは銃口と目を合わせ、その無機質で冷たい空洞に覚えた恐怖から逃れるように、反射的に人形の山から飛び出す。


 その瞬間、引き金が引かれ、人形の山が細かく砕けながら弾け飛ぶ。散らばる破片の中に紛れ込みながら転がったヒノエは、ドールルームの中にあった隠し扉の前で止まり、そこで痛みに顔を歪めた。

 見れば、転がった人形の身体がヒノエの足に突き刺さり、ヒノエは足から出血していた。その破片を抜き取ろうとも、そこにできてしまった傷が塞がることはない以上、ヒノエは痛みで素早く動き出すことができない。


 万事休す。ヒノエが絶望を懐く前で、ミチカがこちらを向いて、無慈悲にショットガンを構えた。


「ようやく大人しくなったわね……そこで死ね!?」


 ミチカの叫び声を聞きながら、ヒノエは目の前の絶望から逃れるように目を瞑る。迫る弾丸に怯えるように身を縮こまらせ、ヒノエが首を竦める中、最後に耳に届いたものは、ミチカの声ではなく、部屋の外から僅かに聞こえた()()だった。

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