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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-24.シークレットルーム

 化粧を施され、綺麗に着飾ったヒノエを眺めて、満足そうにミチカは頷いた。鏡の前に立ってみれば、そこには、これからパーティーに出席しそうな姿の、自分自身が映っている。


「大……丈夫ですか? どこも変じゃないですか?」


 お洒落と呼ぶには力の入り過ぎた格好に、ヒノエは不安すら感じ、ミチカに質問していた。ミチカは頻りに頷いて、「大丈夫」と口にしてくれるが、それでも不安は消えないほどに、今の格好は日常的ではない。これから記念写真の一枚でも撮る予定であると言われた方が、まだ少しは納得のいくほどに、行き過ぎている気しかしない。


「じゃあ、セツナちゃんの格好も決まったし、セツナちゃんを案内したい場所があるから、そこに向かおうか」


 ヒノエに化粧を施している間にも、ミチカが言っていたことを思い出し、ヒノエは了承するように頷く。場所のことはお楽しみと言われ、詳細を聞かされていないが、格段断る理由が存在しない。


「それじゃあ、行きましょう」


 そう言ってヒノエを案内するように歩き出したミチカについて、ヒノエは衣装部屋を後にした。少し前方にはミチカ、少し後方にはキッカが並び、ヒノエは屋敷の中をゆっくりと移動していく。


 これからどこに向かうのか、それすら聞かされていないヒノエの足取りはいつもと変わらないものだったが、ヒノエを案内するミチカの足取りは軽く、内心の喜びをヒノエに伝えてくるようだった。軽やかに、スキップすらしそうに見える歩き方は、新しい玩具を貰った子供のように、うきうきとした気持ちを表現している。


 それほどまでにこれから向かう場所が好きなのか、と思う一方、ミチカは背後を歩くキッカを見やって、少し気になっていることがあった。


 これほどミチカが好んでいる場所なら、立ち入ることはしないにしても、その事実くらいはキッカがヒノエを案内した時に言いそうなものである。この部屋はミチカが気に入っている部屋だとか、ミチカが一番好きな部屋だとか、そういう情報が少しくらいは出ても不思議ではないが、ヒノエは一切聞いていない。


 全く触れられていないことに違和感を覚え、ヒノエが少し理由を考え込んでいると、不意に前方のミチカの足が止まって、綺麗に回転するように振り返った。


「はい! セツナちゃん、ここが目的地」


 そう言いながら、ミチカが立ち止まった場所にある扉を手で示し、ヒノエの目線は扉に掲げられたプレートに移った。そこに書かれた文字を読みながら、ヒノエはその場所に見覚えがあることを思い出す。


 ()()()()()()。そう書かれた扉は、キッカの案内の最中にヒノエが通過し、キッカに案内されることも、部屋の正体を教えてもらうこともなく、何故か、キッカ一人で中に入っていた部屋だ。


 その行動をヒノエは疑問に思い、部屋のことを覚えていたのだが、その部屋を今になって紹介するのか、と若干の驚きすら覚えていた。それなら前回はどうして紹介しなかったのかと思うが、その理由を聞ける場面ではない。


「ここが私の一番大好きな部屋です。さあ、セツナちゃん、入って」


 ミチカがドールルームと書かれた扉を開け、中にヒノエを導くように手招きした。ヒノエは招かれるまま、部屋の中に足を踏み入れ、そこに広がる光景を前に絶句する。


「どう? 凄いでしょう?」


 ミチカが得意げに聞いてきたように、部屋の中に広がった光景は凄い以外の何物でもなかった。


 部屋の中には、多種多様な人形が端から端まで、びっしりと敷き詰めるように置かれていた。カーペットの引かれた床の上。並べられた棚の上。大きな他の人形の上。そういった場所に、様々な人形が全てこちらを向くように置かれている。

 ドールルーム。その言葉の響きから想像する、アンティーク・ドールの類だけではなく、人形と呼ばれる人形は一通り置いているようで、古風な日本人形もそこには並んでいる。


 その光景は壮観であると同時に、どこか寒気すら感じる、若干の恐怖も覚えるもので、ヒノエは部屋の中に入ったまま、しばらくそこから動けずにいた。少しでも動いた瞬間、周囲の人形が一斉に動き出しそうで、少しの移動もできない。


 そのヒノエの気持ちを気にすることなく、ミチカも部屋の中に足を踏み入れた。軽やかな足取りで、ヒノエに並べられた人形を見せるように手で示し、ミチカは部屋の紹介を始める。


「ここは私が子供の頃から集めている、いろいろな人形を飾っている部屋なのよ」

「子供の頃から、ですか?」

「そう」


 ミチカのその説明を聞いたことで、ヒノエは部屋の中に置かれた人形の多さに納得した。子供の頃から今になるまで集めている人形が並べられたと思えば、この部屋の状態はまだ落ちついている方なのかもしれない。


「いろいろと集めていることはあったけど、今も続いているのは人形くらいね。本とかも買うことはあるけど、収集しているわけではないし」


 ミチカが部屋の片隅に置かれた、やや古いアンティーク・ドールを手に取った。ヒノエの前に突き出し、自慢するように見せてくる。


「どう? この子達、可愛いでしょう?」


 あまりの数の多さに圧倒され、恐怖すら覚えたヒノエだが、人形を一体ごとに見れば、非常に愛らしいものだった。表情の幼さも、着ている服の可愛さも、それをミチカが自慢している事実まで含めて、非常に可愛らしい。


「ええ、確かにそうですね」


 ヒノエがミチカの突き出したアンティーク・ドールを受け取って、撫でるように頬を触った。磁器製の肌は冷たく、固く、表情の愛くるしい印象とはやや違っている。


「これだけじゃないのよ」

「えっ? 他にもあるんですか?」


 まだ続くようなミチカの物言いに驚いていると、ミチカが人形の置かれた棚の一つに近づいて、そこに置かれた人形を脇に移動し始めた。見れば、その棚は他の棚から分断するように少し離れて置かれている。

 もう少しくっつけて置けば、もう少し綺麗に人形を飾れるはずなのに、わざわざ離している理由は何だと思っていたら、ミチカがその場の人形を移動し終えて、こちらを見た。


「セツナちゃん、見て。ここ」


 ミチカの手招きに導かれ、近づいた先でヒノエは扉の後ろにある扉を発見した。


「こんなところに扉が?」

「そう。この奥に、私の()()()()()があるの」


 ヒノエに説明しながら、ミチカはそこに置かれた棚を脇にずらすように移動させて、その後ろにあった扉を露わにした。壁面に嵌まるようにつけられたドアノブを引き出し、ミチカがゆっくりと手前に引いていく。


 開き切った扉の向こうは、一切の電気がついていないようで、真っ暗な空間が広がっているだけだった。何かが置かれていたとしても、こちらからは確認できない。


「ちょっと待って。電気だけつけるから」


 そう告げて、ミチカが扉の向こうに足を踏み入れ、壁際のスイッチを探すように手を動かした。パチン、という音と共に、扉の向こうの部屋に電気がつくと、ヒノエの目は不意な明かりに驚くように眩んでしまう。


「ほら、セツナちゃん。入ってきて」


 目が眩み、思わず目を瞑った暗闇の向こうから、ミチカの誘うような声が聞こえてきた。ヒノエはゆっくりと慣らすように目を開けてから、ミチカのいる奥の部屋に足を踏み入れていく。


 そこは天井や壁、床に至るまで、白一色で塗られた部屋だった。その色もあってか、踏み込んだ部屋の中はヒノエが冷たいと感じるほどに、冷え切っているように思える。


 その部屋の中にミチカの言っていた、とっておきは探すまでもなく、すぐに見つかった。


 ぐるりと部屋の周囲を囲うように椅子が置かれ、そこに一体ずつ、等身大の人形が置かれていた。計十三体の人形だ。


「これが私のとっておき! 私の一番のコレクション!」


 そう言いながら、ミチカが軽やかなステップで、一番近くの椅子に近づき、そこに置かれた人形を抱きかかえるように持ち上げた。ヒノエと同年代くらいの少女の姿をした人形だ。


「凄くリアルですね」


 扉近くに立って、離れて見ているだけでも分かるほどに、部屋の中に置かれた人形は人間らしい顔つきをしていた。等身大のサイズ感もあって、人形と思わなければ誰かが座っていると思ってしまう光景だ。


「そうでしょう? そこが一番のポイント」


 ミチカが人形を抱きかかえたまま、ヒノエの近くまで歩いてきて、ヒノエに見せつけるように人形を差し出してくる。


「このリアルさが堪らないのよ!」


 熱弁するミチカにヒノエは少し面食らいながら、差し出された人形に手を伸ばしてみる。

 冷たい。さっきのアンティーク・ドールと同じように、ヒノエでも感じるほどの冷たさだ。


 ただ、ヒノエはその冷たさ以上に、触れた瞬間の感触に驚いて、言葉を失っていた。


 ()()()()。さっきの磁器製の肌とは違って、そこにある人形はとても柔らかい感触をしている。それはまるで……と考えるヒノエの前で、ミチカが口を開く。


「どう? とても素晴らしいでしょう?」


 そう問いかけながら微笑むミチカの笑顔が、今のヒノエには不気味に映った。

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