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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-14.豪邸ツアー

「それでは参りましょう」


 ミチカとアイユが仕事のために屋敷を出た後、キッカのその一言から屋敷のルームツアーが始まった。


「因みに、どういう場所に案内してもらえるんですか?」


 アズマヤの質問にキッカは少し黙ってから、屋敷内にある施設を順番に上げていくように、候補を口にしていく。


「ミチカ様がお集めになった書物の集まる図書室、最新のパソコンが複数台揃えられたコンピュータールーム、ビリヤードやダーツなどがプレイ可能な娯楽室、時間を気にすることなく自由に歌えるカラオケルーム、屋外にはテニスコートが二面あったり、バスケットボールコートがあったりしますが、この辺りはアズマヤさんの足の関係上、今回は見送る予定です」

「ちょっと待ってください。それがこの屋敷にあるんですか?」

「はい。今、説明した一部にご案内する予定です」


 平然と答えるキッカに対して、アズマヤとヒノエは聞いた内容にあんぐりと口を開け、何も言えなくなっていた。


 ここはミチカが個人で所有する邸宅のはずだ。その建物に存在する内容として、キッカの口にした部屋は過剰と言えるほどだった。

 何かのアミューズメント施設に入り込んだとも考えられるというか、そう考えた方が納得のいく内容に、アズマヤとヒノエはどこまで本当なのかと疑いすら懐きかけていた。


「それでは近いところから、ご案内しましょう」


 そのキッカの一言から向かった先は図書室というプレートが掲げられた施設だった。


 図書室と言えば、アズマヤの頭に思い浮かぶのは、学校に存在する図書室だが、個人の所有する家に、あの規模の図書室が存在するとは考えづらい。

 イメージとして、本が大量にある部屋につけた名前が図書室だろう。そう考えながら、アズマヤはその部屋の中に足を踏み入れた。


 そこは頭の中に思い浮かべていた学校に存在する図書室より、五割増しで広い空間だった。

 そこに本棚が僅かな隙間を作りながら並べられ、びっしりと本が収納されている。


 それは正に図書室という名前が相応しい部屋だ。


「え?ここって、ミチカさんの自宅ですよね?」

「はい。そうですが?」


 個人の家にこれだけの蔵書が存在するのかとアズマヤは思ったが、実際に目の前に存在しているのだから疑う必要もない。

 ヒノエも部屋の中に並べられた書物の多さに目を丸くし、言葉を失っているようだった。


「ミチカ様が特別好まれている本は自室の方で保管されていますので、ここにある本はどれでも手に取っていただいて構いません」

「さ、左様でございますか……」


 戸惑いながら、アズマヤが本棚を眺めてみると、そこには小説や辞書、漫画に絵本などがジャンルごとに並べられていた。

 作者ごとにきっちり分けられ、初めて訪れたアズマヤでも知っている本が探せるくらいに、綺麗に整頓されている。


「す、凄いですね……」


 ヒノエが驚きを共有するようにアズマヤにこっそりとそう伝えてきた。

 アズマヤはその言葉に首肯してから、並べられた本を改めて見やる。


 凄いと思う理由はこれだけの本が置かれていることもそうだが、これだけの本が置かれているということは、これだけの本をミチカが実際に読んでいるという事実も同時に存在するわけで、その点にもアズマヤは驚いていた。

 ジャンルレスに読まれている点まで含めて、アズマヤでは到底考えられない量だ。


「そろそろ、次に参りますか?」


 キッカが確認するように告げて、アズマヤとヒノエは同時に首肯した。


 その足で次に向かった部屋は、さっきのキッカの説明の中にもあった娯楽室という施設だった。

 その中には事前に聞いていたように、ビリヤード台やダーツボードが置かれ、自由に遊べるようになっている。


「せっかくですし、遊んでみますか?」


 キッカがそのように提案してきたが、アズマヤとヒノエはビリヤードもダーツもやったことがない。

 二人は話を合わせたわけでもなく、ただ偶然にも一致し、かぶりを振って、提案は断っていた。


「そうですか。でしたら、もう少し楽しみやすい場所に向かいましょうか」


 その一言からキッカが次に案内した場所はプライベートシアターだった。


 流石にここは映画館と比べると、小さな部屋ではあるが、それでも十分に大きなスクリーンに映像が映し出され、大迫力の音響と共に映画が自由に見られるらしい。


「ここでミチカさんは映画を見ているんですか?」

「そうですね。それ以外にも、動画サイトの動画なども見られますよ」

「ここで……」


 アズマヤは普段、スマホの画面くらいでしか、動画を見ることがない。

 それと比べた時の差の激しさに、どのような感情を懐いたらいいのか分からなくなっていた。

 もう悔しさも悲しさも出るレベルではない。


「少し見ていきますか?簡単な動画を用意しますよ」


 そう言って、キッカがスクリーンに映し出した動画は小さな女の子が楽しそうに歌っている動画だった。

 明らかにホームビデオだが、最近撮ったものではないように見える。


「これは何ですか?」

「幼少期のミチカ様のカラオケ動画です」

「そんなの勝手に流して大丈夫ですか?」


 いろいろな問題があるのではないかと思ったが、ミチカに黙っていれば何とかなるところなのかもしれない。


 まだ子供の歌声で、お世辞にも上手とは言い切れないが、非常に楽しそうに歌う幼いミチカの様子に、アズマヤとヒノエは何だか非常にほっこりとした気持ちになって、プライベートシアターを後にすることになった。



   ◇   ◆   ◇   ◆



「次はゲームルームに参りましょうか」

「ゲームルーム?」

「はい。ミチカ様がかつて趣味で収集されていたアーケード筐体がいくつか置かれた部屋です」

「家に?」


 次の目的地として、とんでもない部屋の存在を聞かされ、アズマヤが驚いている時のことだった。


 廊下を歩くアズマヤ達の前に、掃除機をかける一人の少女が現れた。


「あれ?あの人は?」


 ヒノエがそこにいた少女の姿にそう問いかけると、キッカは「紹介しましょう」と口にして、その少女に近づいていった。


「マルイさん。少しいいですか?」


 キッカがそう声をかけると、掃除機をかけていた少女が掃除機を止めて、こちらを振り返った。

 見れば、アズマヤよりも幼く見える少女で、中学生くらいと言われてもアズマヤは信じるだろう。


「は、はい!何でしょうか!?」

「彼女らに挨拶を」


 キッカがそう言いながら、アズマヤ達を手で示し、マルイと呼ばれた少女が頭を下げてきた。


「は、初めまして!丸井(まるい)桃子(ももこ)と言います!よろしくお願いします!」

「どうも、初めまして。東野耀介です」

「檜枝雪菜です。初めまして」


 マルイに釣られ、アズマヤとヒノエも頭を下げると、マルイは酷く恐縮した様子で、二人に頭を上げるようにお願いしている。


「マルイさんはアズマヤさんと同じ十七歳で、現在はこの屋敷専属のハウスクリーニングとして働いています」

「え?俺と同い年なんですか?」


 マルイの見た目の幼さもそうだが、自身と同じ年齢で働いている事実も、アズマヤは驚かせる理由になっていた。


「実は母が病気で、その治療費のために、ここで働かせてもらっているんです」


 その説明を聞いた瞬間、ヒノエが分かりやすく目を見開いて、思わずマルイの手を強く握っていた。


「わ、私も……!母が病気で、ずっと看病をしていて……!だから、その……!頑張ってください……って、私が言うのも変ですけど……」


 奇しくも、似た境遇のマルイにヒノエの気持ちは高ぶったのだろう。

 感情のままに言葉を発してから、ヒノエは何を言っているのだろうと恥ずかしそうにはにかんでいた。


「あ、ありがとう……ございます……」


 そのまっすぐな応援にマルイも照れたように笑う中、不意にその空間にさっきまで聞こえなかった電子音が鳴り始めた。

 どうやら、キッカのスマホに着信があったらしい。


「すみません。少し失礼します」


 そう言って、キッカがスマホを片手にアズマヤ達から離れ、通話に出た直後のことだった。


 不意にマルイがアズマヤに近づいて、アズマヤの耳元で囁くように言ってきた。


「あ、あの……貴方達も怪人なんですか……?」

「えっ?えっと、ヒノエさんはそうで、俺はそのヒノエさんを助けただけで……それがどうかしました?」


 急なマルイの問いかけにアズマヤが疑問に思う中、マルイはさっきまでの照れた表情から一転、どこか曇った顔をして、アズマヤに告げてくる。


「その……悪いことは言わないので……()()()()()()()()()()……」

「えっ……?」


 唐突なマルイの忠告にアズマヤが目を丸くし、その真偽を確認しようと口を開いた。


「それって、どういう意……」

「すみません。お待たせしました」


 そこでキッカがアズマヤ達の近くに戻ってきて、マルイはさっとアズマヤから離れていく。


「それではマルイさんの紹介も終わったので、次に向かいましょうか」

「はい、お願いします」

「は、はい……お願いします……」


 ヒノエが明るく返事する隣で、アズマヤはさっきのマルイの言葉を思い返し、戸惑いの目をマルイに向けるが、既にマルイは掃除に戻ろうとして、アズマヤと目を合わせる様子すらなく、結局、言葉の真意を確かめられぬまま、アズマヤはその場を移動することになった。

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