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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-13.スクランブル

 耳の端に届いた音に導かれるように、アズマヤの意識が瞼の内側に宿った。ゆっくりと瞼を開いて、アズマヤは自分がいつの間にか眠っていたことを認識する。


 アズマヤの記憶が確かなら、ミチカの屋敷に案内され、怪我の治療を受けてから、アズマヤは寝泊まりのための部屋を割り当てられた。

 その後、部屋の前でヒノエと再会し、軽くアイユと話してから、再び部屋に戻ったはずだ。


 そこから、部屋の前で逢ったヒノエのことや、知ってしまった怪人の事実などを考え、部屋に備えつけられたテレビを見ようかと思ったところまでは覚えている。

 どうやら、そのまま気づいたら、アズマヤはベッドで眠っていたらしい。


 時計に目を向けると、今は日にちを跨いだ深夜のようだ。数時間は眠っていたということになる。

 そう考えていたら、再びアズマヤの耳に物音が届いて、アズマヤは扉のある方に目を向けた。


 時刻を確認したように今は深夜のはずだ。誰かが出歩く時間ではないが、誰もいないのに物音が立つとは思えない。

 他に物音が立つようなものも見ていないので、誰かが出歩いていることは確かだろうとは思うのだが、誰だろうと考え、アズマヤは隣の部屋にいるはずのヒノエを思い浮かべる。


 ヒノエが眠れなくて、部屋の外に出たのだろうかと考え、アズマヤは大丈夫かと様子を見る気持ちもあって、部屋の外に顔を出してみることにした。

 扉に近づいて、ゆっくりと開けてから、廊下を覗き込んでみると、やはり、ヒノエの部屋の前に人影が見える。


「ヒノエさん……?」


 アズマヤがその人影に声をかけると、人影の動きがピタリと止まって、こちらの様子を窺うように振り返った。


 そのまま、こちらに近づいて、暗闇にゆっくりと輪郭が浮かび上がり、それがキッカであることが分かった。


「あれ?タタラメさん?」

「起こしてしまいましたか。申し訳ありません」


 そう言いながら、キッカが軽く頭を下げて、ヒノエのいる扉の方に目を向ける。


「昨日のことがありましたので、無事に眠れているのか確認に来たところでした」

「ああ、そうだったんですか」

「アズマヤさんは既にお休みのようでしたね。昨晩、夕食のお誘いに伺ったのですが、返事がなかったので」

「ああ、まあ、気づいたら寝てました」


 少し照れながら答えると、キッカは僅かに表情を緩め、「良かったです」と短く言い、アズマヤのいる部屋に少し目を向けた。


「何か不便な点はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では、まだゆっくりとお休みください。怪我のこともありますので」


 そう言われ、アズマヤは自身の左足に目を向ける。


 アイユの治療は凄かったようで、アズマヤは痛みを気にすることなく、ぐっすりと眠れていた。

 そのことを改めて考えながら、アズマヤはキッカに頭を下げる。


「分かりました。ありがとうございます。お休みなさい」


 その言葉にキッカも軽く会釈し、その場を立ち去るように歩き出した。


 キッカとはヒノエを案内した後、内線番号を教えるために部屋に来てくれた際に話した程度だが、クールで物静かな印象だった。

 ともすれば、冷たい人と捉われてもおかしくないほどだったが、その実、あのミチカやアイユと一緒にいるだけあって、優しい性格の人であるらしい。


 当然のことだが、その当然のことに気づけたことに安堵しながら、アズマヤは再び自分の部屋に戻って、ベッドの上に横になった。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 翌朝もアズマヤは物音で目覚めた。ゆっくりと瞼を開いて、扉をノックする音を耳にする。

 時計を確認すれば、時刻は七時を回ったところだった。


 この早朝に誰が来たのだろうかと思いながら、部屋の扉を開けてみると、そこにはキッカが立っていた。


「おはようございます。まだお休みでしたか?」

「おはようございます。大丈夫です」

「そうですか。では、朝食はいかがでしょうか?ミチカ様がお二人と食べたいと仰っているのですが?」

「お二人?」


 そう言われ、アズマヤは部屋の外に既にヒノエも立っていることに気づいた。

 思わずアズマヤは頭を押さえ、そこにできていた寝癖を必死で隠そうとする。


「あっ、はい。あの、大丈夫なんで、ちょっと身支度を整えますね」

「はい。お待ちしております」


 アズマヤは慌てて部屋の中に戻って、そこで急いで身支度を整えることにした。

 部屋はホテル並みの設備だ。洗面台も完備されていて、そこで顔も洗える。


 何とか、それなりの状態を保ってから、アズマヤは再び部屋を出て、キッカの案内でヒノエと共に移動することになった。

 長い廊下を歩いて、到達した先はダイニングルームと掲げられた部屋だ。


「ここです。お入りください」


 到達した部屋の扉を潜ると、そこには大きなダイニングテーブルが置かれ、その対面にミチカが座っていた。


「おはよう。二人共、ゆっくり眠れた?」

「はい。ありがとうございます」

「ゆっくり休めました」

「なら、良かった。ほら、席に座って」


 そう促され、アズマヤは少し迷っている間に、ヒノエがテーブルの一角に腰を下ろした。

 アズマヤはそこから少し離れるように座って、ミチカの方に目を向ける。


 何となく、昨日の印象が頭の中に残って、アズマヤはうまくヒノエの顔が見られない状態が続いていた。

 気にしないように思えば思うほどに気にする気持ちが強くなって、アズマヤはどう気持ちを置いたらいいのか、さっきからずっと分からなくなっている。


「はーい、今日の朝ごはんですよー」


 朝とは思えないテンションでアイユが登場し、アズマヤ達の前にお皿を並べ始めた。


 今日の朝のメニューはスクランブルエッグとサラダとパンだ。


「飲み物は三種類。牛乳、紅茶、コーヒーの中から選べまーす」

「えっと、じゃあ、紅茶で」

「私も」


 アズマヤとヒノエの前に紅茶が置かれ、ミチカの前には答えることなく、コーヒーが置かれる。


「じゃあ、いただきましょうか」


 そのミチカの言葉を合図に朝食が始まった。


 三人がそれぞれ用意された朝食を口に運びながら、ミチカが不思議そうにアズマヤとヒノエを見てくる。


「何か、二人共、様子が変だね?どうかした?」

「い、いえ、別に……!?」

「そうですよ……!?何でもないです……!?」


 そう答えるアズマヤだったが、言われてみれば、アズマヤが何も言えないでいるように、ヒノエもさっきからずっと無口だったことに気がついた。

 何もないとヒノエも答えているが、ヒノエはどうして無口なのかと思い、チラリとヒノエを見たところで、アズマヤは昨晩に見たヒノエと若干、印象が変わっていることに気づく。


 何が違っているのだろうかと思った瞬間、ミチカも気づいたのか、唐突に声を出した。


「あれ?セツナちゃん、お化粧してる?」


 その指摘にヒノエの身体が大きく震え、気まずそうにゆっくりと視線を逸らした。


「ご、ごめんなさい……」

「え!?してないの!?せっかく、やり方も教えて、化粧品も一通り渡したのに!?」

「その……私、不器用みたいで、うまくできなくて、諦めました……」


 そう言いづらそうに答えるヒノエを前にし、アズマヤはさっきからヒノエが黙っていた理由はこれかと察した。


 せっかく人に教えてもらったことを実行できずに後ろめたさを感じていたのだろう。

 何とも可愛らしい理由だと思い、アズマヤは思わず笑いを零してしまう。


「あっ、アズマヤさん!?今、笑いました!?」

「いえ、笑ってません……フフッ」

「笑ってるじゃないですか!?仕方ないじゃないですか!?できなければできないほどに焦って、漏れた冷気が化粧品まで固くしちゃうんですから!?」

「はいはい、もう喧嘩しないで、二人共。セツナちゃんには後でまた私がお化粧してあげるから」


 ヒノエを宥めるようにミチカがそう告げ、ミチカは少し恥ずかしそうに唇を尖らせながら、ミチカにお礼を言っている。


 その様子にミチカが微笑んでから、何かを思い出したようにアズマヤの方を見てきた。


「そうだ。ヨースケくんのことだけど、もう少し、この屋敷で待っててもらっていい?家には帰すつもりなんだけど、まだ超人の動きが見えないから、今日、仕事のついでに様子を探ってきてから、帰るかどうかの判断をしよう」

「はい、分かりました。ありがとうございます」


 そう言ってから、アズマヤはミチカの言葉の中にあった一つの単語が気になる。


「あれ?ミチカさんは今日、仕事に出かけられるんですか?」

「ああ、うん。ちょっとね。予定じゃなかったんだけど、出かけることになっちゃって。でも、安心して。他の運転手が掴まったから、キッカは屋敷に残す予定だから」


 ミチカの言葉を聞きながら、アズマヤがキッカの方を見ると、キッカが軽く会釈してくる。


「そうだ。せっかくだし、私が帰るまで、キッカに屋敷の案内とかしてもらうといいわよ。一日部屋の中だと退屈でしょう?」


 ミチカの急な提案を受けても、キッカは顔色一つ変えることなく、受け入れるように頭を下げていた。

 その様子を目にし、迷ったように目を合わせてから、アズマヤとヒノエは揃ってキッカを見る。


「では、お願いします」


 その一言から、ミチカの屋敷のルームツアーが決定した。

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