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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-10.拷問治療

 屋敷の中に踏み込んで早々、アズマヤの前には車椅子が用意され、そこにアズマヤは座らされていた。


「じゃあ、アイユ。そっちはお願いね」

「分っかりました!お任せください!」


 そう言って、アイユはアズマヤの車椅子を押して、屋敷の中を移動し始める。


 ミチカはリムジンの運転手と一緒にヒノエをどこかに案内するようで、アズマヤが向かっている先とは違う方向を手で示し、そちらに歩き始めている。


「あ、あの、キヌガワさん?これはどこに向かってるんですか?ヒノエさん達はどこに?」


 アズマヤが懐いた疑問を口に出すと、不意にアイユは足を止めて、静かに覗き込むようにアズマヤを見てきた。


「アイユ」

「は、い……?」

「アイユって呼んで。苗字で呼ばないで。その苗字、可愛くないから。分かった?」


 それまでの明るい振る舞いが嘘のように、静かに怒りの籠った声を淡々と漏らすアイユの姿に、アズマヤは恐怖で表情を引き攣らせながら首肯した。


「分かれば、よし!えーと、何だっけ?どこに向かってるか?」

「は、い……そうです……」


 ほんの数秒前まで怒っていた人とは思えないほどの豹変ぶりに面食らいながら、アズマヤはさっきの自分の質問を思い返し、頷いた。

 もう二度と苗字で呼ばないようにしようと心の中で決意しながら、アズマヤはアイユからの返答を待つ。


「これから向かっているのは処置室だよ」

「処置室?何ですか?」

「まあ、医務室的な部屋だと思ってもらったらいいかな?医療行為を処置する部屋だから、処置室。ただ言ったように、ミチカ様は怪人の保護を行っている人だから、そのために普通の家より設備が整ってるんだよね」


 どうやら、応急処置で済ませたアズマヤの足の怪我を本格的に治療してくれるらしい。


 そのためにミチカはアイユに任せたのかと納得しつつ、もう一つの質問が気になって、アズマヤはアイユに目を向ける。


「ヒノエさんはどこに?」

「ああ、セツナちゃんは普通に部屋まで案内しているだけだよ。ここにしばらくいるってことは寝泊まりする部屋が必要でしょ?客室があるから、そこをミチカ様が紹介しているんだよ」

「ちゃんとした部屋まで用意してくれるんですね」

「当ったり前~!」


 アイユが元気良く言ったところで、アイユがさっきとは違う形で足を止めた。

 見れば、目の前には処置室のプレートが掲げられた扉が立っている。


「はーい、到着~」


 アイユが車椅子から離れ、目の前の扉を開いてから、中にアズマヤを入れるように再び車椅子を押し始めた。

 アイユの足が進むまま、アズマヤは処置室の中に踏み込み、その部屋の中の様子に目を丸くさせる。


「えっ……?これって……?」

「じゃじゃーん!ここが処置室でーす!」


 そう言いながら、大きくアイユが手を広げた場所に広がっていたのは、見るからに手術室と思しき機材などが揃った部屋だった。


「えっ?本当に?ここが処置室ですか?」

「うん、そうだよ。まあ、安心してよ。手術もできる設備だけど、別に今回は違うから。ただ手術をしないと助からないくらい、重傷を負った人もいるから、自然とこの設備になったんだよ」


 確かにアズマヤも今回は左足を噛まれただけだったが、抵抗次第では更に大きな怪我を負っていた可能性だってある。

 怪人であるなら、その度合いは更に激しくなって、本格的な手術も必要なことはあるだろう。


 それは分かるのだが、そのための設備を屋敷に作ることやそれがアイユにできるという事実に、アズマヤは驚かざるを得なかった。

 一体、何者なのだと思ってしまうが、それを聞いて、また怒らせる結果になると怖いので、聞きたくても聞けない。


「はーい。じゃあ、ヨースケくん。この台の上に座れるかな?」


 アイユが車椅子を手術台の近くまで移動させ、その台を手で示した。言われるままにアズマヤは立ち上がって、手術台の上に腰かける。


「じゃあ、左足をこっちに伸ばして。今から治療するね。ちょっと痛いかもしれないけど、麻酔はいらないよね?」


 アイユの前に左足を差し出しながら、アズマヤは首肯する。流石に麻酔が必要なほどの治療はないだろう。


 そう思っている間に、アイユの治療が開始され、アズマヤは早々に後悔した。


「アギャアア!?痛ッ!?アァ!?」

「はーい、暴れないでくだちゃいね~。ちょーと傷に触ってるだけでしゅからね~」


 アイユは気楽にそう言っているが、手に持った何かの器具を左足の傷に突っ込み、掻き混ぜるように何かをしていることは、少し触っているという域を優に超えている。

 想像を絶する痛みに襲われ、全身を大きくくねらせながら、アズマヤは絶叫に絶叫を重ねて、数分間は悶え苦しんだ。


 後、ほんの数秒でも長く触られていたら、もう気絶するという領域になったところで、ようやくアイユの手が止まって、アズマヤの足から僅かに痛みが去っていく。


「はーい、終わりましたよ~」


 その声がアズマヤの耳には救いのように聞こえ、手術台の上に倒れ込むように寝転がった。


「ヨースケくーん?ちょっと様子を見たいから、立ち上がってくれる?」

「ちょっと待ってください。もう少しだけ落ちつかせてください」


 絶叫し続けて荒くなった息を整え、痛みでぐちゃぐちゃになった気持ちを作り直し、アズマヤは手術台に再び腰かけるように座ってから、言われるまま、ゆっくりと立ち上がった。


「どう?」

「まだ少し痛みますけど、立つ分には問題なさそうです。歩く分にも」

「なら、良かった。歩けるように治療しただけで、まだ傷が治ってるわけじゃないから、走るとか激しい運動は避けてね」

「はい、ありがとうございます!」


 この世のものとは思えないほどの激痛に襲われたが、無事に歩ける程度に回復したことにアズマヤは感激しながら、アイユに頭を下げていた。

 言動からはそう見えないが、アイユの腕は確かなものらしい。


「顔の方はどうする?車で見た感じ、骨が折れているわけでもないし、傷もあるわけじゃないから、気分が悪いとか、そういうのがなかったら、そのままでも大丈夫そうだけど?」


 そう言われ、改めて確認してみるが、確かに殴られた直後にあったぼうっとした感覚などは既に消えている。


「大、丈夫そうです」

「そっか。じゃあ、ちょっと待ってね。片づけたら、セツナちゃんと合流しよう」


 そう言って、アイユは治療に使った器具を片づけ始めた。


 それを待ちながら、アズマヤはそれなりに動かせるようになった左足の調子を確認する。

 日常生活には困らない。それだけでとてもありがたい。


「ねえ、ヨースケくん」


 そこでふと車椅子を片づけようとしていたアイユがそう口にした。


「何でしょうか?」

「ヨースケくんって、セツナちゃんのことが好きなの?」

「はぁ……い……?」


 その問いにアズマヤは固まった。

 アイユが何を言っているのか、最初は分からないほどだった。


「急に何ですか?」

「いやいや、気になっちゃって。そんな怪我を負うくらい、セツナちゃんを守るなんて凄いなーて思って。もしかして、好きなのかな~なんて」

「別にそういうわけでは。ただ困っているヒノエさんを放っておけなくて助けただけで、怪我も守ったとかじゃなくて、不意を衝かれたというか、それで……」


 アズマヤがそう説明していると、車椅子を片づけ終えたアイユがアズマヤの前に近づいて、アズマヤの顔をじっと覗き込んできた。


「好きでもないのに、そこまで頑張って助けたの?」

「ええ、まあ、そういうことになりますね」

「それって何か、()()()

「えっ……?」


 怖い。そう言われたことにアズマヤは面食らい、アイユの顔を思わず見つめ返していた。


「怖い、ですか……?」

「怖いよ。好意を持っている相手でもないのに、そこまでできるなんて普通じゃないよ。セツナちゃんもそう思ってるかもしれないよ。本当は大丈夫だと思っていても、そこまでされたら、もう受け入れるしかないって、一緒にいるのかも」

「そんなこと……」

「ないって言い切れるの?」


 アイユに顔を覗き込まれ、アズマヤは口籠った。

 そう断言できるほどにアズマヤはヒノエを知っているわけではない。


「まあ、そう思っていないにしても、そこまでされたら、一人で逃げるにも逃げられないと思うし、セツナちゃんの足を引っ張るかもしれないなら、どこかで離れるべきだと思うよ」

「足を引っ張る……」


 それは確かにそうだとアズマヤは思った。


 今はミチカに助けられ、アズマヤとヒノエは無事でいるが、そうでなければアズマヤの足が原因で、一人なら逃げられたはずのヒノエまで捕まっていたかもしれない。

 そう考えたら、確かにアズマヤが一緒にいることで、ヒノエの足を引っ張るのかもしれない。


「それは……そうですね」


 ヒノエと行動するとしたら、ここまでだ。


 この屋敷を出る時には別れて、今度こそ、ヒノエを見送ろう。


 そうアズマヤは固く決意した。

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