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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-9.善意の第三者

「は~い。じゃあ、見ますからね~。痛くても我慢してくだちゃい」


 手にゴム手袋を嵌めた女性が子供をあやすように言いながら、アズマヤの左足に触れた。

 傷に触れられると僅かな痛みが襲ってくるが、ヒノエの冷気の影響か、思っていたほどの痛みはない。


 アズマヤの足に触れているのは、明るい髪の毛を短めのボブカットにした女性だった。

 黒塗りのリムジンに乗り込むと、そこで待っていて、着ているスカートタイプのスーツには似合わないゴム手袋を既に嵌めていた。


「彼女は鬼怒川(きぬがわ)愛由(あいゆ)。私の秘書で、医療の心得があるから、安心して頂戴」

「はーい、そうです。アイユちゃんって呼んでね~」


 気軽にそう言いながら、アイユはアズマヤの傷の様子を確認し、座席の下から救急箱を取り出している。


「失血自体は見られないし、取り敢えず、簡単な応急処置だけ済ませますね~。後は帰ってからのお楽しみです」


 救急箱の中から消毒液や包帯を取り出し、アイユはアズマヤの傷の応急処置を始めた。


「顔は帰ってからね~。痛かったら、おまじないでも言うからね~」


 アイユの軽い態度にアズマヤは戸惑いながら、大丈夫と返答することしかできない。


「あの、ありがとうございます……!」


 治療を受けるアズマヤの隣で、ヒノエがアズマヤ達を車に誘ってくれた人物に頭を下げた。


「いやいや、これくらい何てことはないから」

「いや、ですが、私達を助けてくれるなんて……」


 ヒノエは改めて驚くような様子で呟いているが、アズマヤも同じ気持ちになっていた。


 何者かも分からないアズマヤやヒノエを助けただけでなく、今は車内でアズマヤの傷の応急処置までしてくれている。

 普通はあり得ない行動だ。


「本当にどのようにお礼をすればいいのか……」

「いいのよ。これはただのボランティアだから」


 そう言いながら、その女性はヒノエの顔をじっと覗き込むように見てきた。

 ヒノエの表情を探るように視線を向けながら、ヒノエに一つの質問を投げかける。


「貴女達、()()でしょう?」


 その問いにアズマヤとヒノエは驚愕し、酷く動揺した。


「い、いや……!?何を言っているのですか……!?」

「ああ、いいの。隠さなくて、大丈夫。()()()()から」


 手を振りながら、そう告げた女性にアズマヤとヒノエは驚きで目を丸くする。


「知っているとは?」

「怪人のことを全部。どういう存在で、どういう目に遭っているのかもね」


 まさか、そんなことがあり得るのかと思い、アズマヤとヒノエが思わず目を合わせていると、女性は改めて自身を紹介するように手で示した。


「まずは自己紹介からしましょうか。私の名前は首藤(しゅどう)未知花(みちか)

「首藤……未知花……?」


 その名前はアズマヤも聞き覚えのある名前だった。

 どこで聞いただろうかと思い出そうとしていると、アズマヤの足を触っていたアイユが小さく笑って、答えを口に出す。


「ミチカ様は首藤グループの現代表のご令嬢なのよ」

「首藤……グループ!?」


 首藤グループは現在の日本に住んでいる人なら、誰もが一度は耳にしたことのある大企業だった。


 首藤食品や首藤運輸などの首藤家が経営するいくつかの会社が親会社となっていて、関連会社も含めれば、日本経済の三割は首藤グループが回していると言われるほどの大企業だ。


「今はUFという子会社の社長をしているから、どちらかというと、そっちの紹介の方がいいわね」

「UFって、もしかして、化粧品会社の?」

「ええ、そうよ。知ってる?」

「も、もちろんです!?マスカラとか、私、使ってます!?」


 アズマヤが見たことないほどの勢いで、ヒノエがミチカに迫っていた。

 化粧品に詳しくないアズマヤは聞いたことがなかったが、女性の間では有名であるらしい。


 ミチカの思わぬ正体にアズマヤとヒノエは驚いたが、その驚き故に現状の理解ができなかった。

 それほどの人物がどこの馬の骨かも分からない怪人を助ける理由が分からない。


「首藤グループの令嬢がどうして怪人を助けているのかって、不思議に思っているわね」


 アズマヤの顔をじっと見つめたミチカが不意に笑い、そのように考えを言い当ててきた。

 隠すことでもないので、アズマヤが首肯すると、アズマヤの足に触れていたアイユがゴム手袋を外し始める。


「はーい、応急処置終わり!ここからはミチカ様のお話に集中してオッケー」


 そう言われ、アズマヤはアイユに見せるように上げていた足を下ろし、ようやくちゃんと座席に座る形になった。

 その体勢になったことを確認してから、ミチカは早速、二人を助けた理由の説明を始めていく。


「そもそも、怪人を知ったことは偶然なのよ。ただ超人や怪人は今や日本経済に関わるほどの存在だから、結構、ビジネスも絡んでいるの。その中で偶然、私の会社にも超人に対するスポンサーの話が来てね。話だけでも聞いてみようと思ったところで、偶然、怪人と逃げ出す場面に遭遇したの」


 アズマヤがヒノエを見つけたように、ミチカも逃げる怪人と接触した。


「その子の怯えた様子を見ていたら、聞いていた怪人とイメージが違って、それで思わず、その子を助けたの。そこで私は怪人の真実を知った」


 怪人は世間で言われている存在とは違って、人が改造された存在である。

 アズマヤもその事実をヒノエから聞いて、最初は信じられないほどだった。


「これは明らかに倫理に反していると思った私は怪人を何とか助けたいと思ったの。だけど、超人や怪人の常識をすぐに覆すことは難しい。だから、まずは助けられる怪人を保護していこうと思って、このボランティアを始めたの」

「俺達を助けたのも、怪人だと分かったから?」

「その様子を見たらね。超人から逃げている真っ最中だと思ったわ」


 ミチカがアズマヤの怪我を手で示し、それもそうかとアズマヤは納得した。

 事情を知らなければ、良く分からない重傷を負った人にしか見えないが、事情を知っていたら、その背景に超人や怪人が絡んでいることは見えてくる。


「けど、二人で逃げ出して、良く無事だったわね。追いかける超人の数も増えるから、大変だったでしょうに」


 ミチカが同情するようにアズマヤとヒノエを見てきたことで、アズマヤは一つ誤解していることがあることに気がついた。


「ああ、いえ、俺は違うんです。俺はヒノエさんを助けただけで」

「そう、なんです……アズマヤさんは私が巻き込んでしまったんです……」


 ヒノエは酷く申し訳なさそうな顔で、アズマヤの足に巻かれた包帯を見つめていた。


 アズマヤの説明にミチカは驚いた顔をして、アズマヤとヒノエを見比べてから、アズマヤに声をかけてくる。


「そうなんだ……凄いわね」

「いや、俺は別に……シュドウさんの方が凄いですよ」

「ミチカでいいわよ。苗字で呼ばれるのはあんまり好きじゃないの。親の顔がちらつくから」


 困ったように笑うミチカを目にし、アズマヤは分かったという代わりに頭を縦に振った。


「じゃあ、事情はお互いに何となく分かったと思うし、取り敢えず、二人には私の屋敷に来てもらって、そこでしばらくゆっくりしようか。少なくとも、超人の追跡が止むまで待つ必要があるし、その方がいいと思う」

「いいんですか……?」

「もちろん。その後は怪人同士が集まっている組織とか知ってるから、そういう場所を紹介してあげるよ。君も元の生活に戻れるように、私が手配してあげる」


 ミチカがヒノエとアズマヤにそれぞれ救いの手を伸ばすように提案し、二人は思わず顔を見合わせた。


「あの……!ありがとうございます……!」

「ううん、これくらい何てこと……」


 そう言ってから、ミチカは思い出したように二人の顔を見る。


「そういえば、まだ二人の名前を聞いてなかったわね。教えてくれる?」

「俺は東野耀介です」

「私は檜枝雪菜です」

「ヨースケくんとセツナちゃんね。よろしくね」


 ミチカの伸ばした手を掴んで握手していると、乗っていた車が不意に速度を落とし始めた。


「ミチカ様、到着しました」


 運転席に座っていた髪の長い静かな女性がミチカにそう声をかける。


「そう、分かったわ。屋敷についたみたい」


 そう言いながら、窓の外に目を向けるミチカに釣られ、アズマヤとヒノエも窓の外に目を向け、そこで固まった。


「えっ……?屋敷って、これですか……?」

「ええ、そうよ」

「本当に……?」


 そこには何かの公共施設なのではないかと思うほどの大豪邸が立っていた。

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