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1-4.超人と怪人

「改造……手術……?」


 恐怖さんの口から飛び出した単語を確認するように、ミトは耳にしたばかりの言葉を繰り返した。

 手術という響きに反して、改造という響きは凡そ人間に使われる言葉とは思えない。


「何を言っているんですか……?」


 そう聞き返しながらも、ミトはそれまでの恐怖さんの言動を思い出し、恐怖さんが自身を謀っているのではないかと思い始めていた。


 そもそも、ミトが意識を失っている間に、この屋敷まで連れてきた犯人だ。言葉の一つ一つを吟味するまでもなく、全て嘘と断ずるべきなのかもしれない。


 ミトが自衛を考え、警戒心を露わにすると、その雰囲気から疑いを察したのか、恐怖さんが口元に浮かべていた笑みを消した。


「ああ、これは失礼。急に改造手術と言われても、そう簡単に納得できる話ではないか。そうだろうね。君の身体は間違いなく、人間のものだ。少なくとも、表面上はそう見えるからね」


 この男は何を言っているのだろうか、とミトは改めて、心の底からの疑問を懐いた。


 信じるも信じないも、恐怖さんの言葉には信憑性の欠片もない。疑う理由は転がっていても、信じる理由はどこにも落ちていない。

 再び何を言い出しても、それはミトの心を揺さ振る世迷言でしかない。聞く耳を持つ必要がない。


 そう考えるミトの思考を理解してか、それとも、最初からそう思うだろうと予想していたのか、恐怖さんは傍らに置かれたグラスを手に取り、飲み物を口の中に注ぎ込んでから、落ちついた口調で語り始めた。


「まあまあ、そう何でも疑わしく思わないでくれたまえ。冗談みたいな身体をしている自覚はあるが、冗談を言っているつもりはないんだ。全ては事実なのだよ」


 そう言い聞かせるように言葉を積み重ねて、その先で最後にミトが再び耳を疑ってしまう言葉を残していく。


「君は間違いなく、改造手術を受けたのだよ。()()()()()()()()、ね」


 再び不敵に笑みを浮かべ、恐怖さんの口にした言葉を耳にし、ミトの顔は驚きで開き切っていた。

 見開いた目で恐怖さんの顔をまっすぐに見つめ、あんぐりと開いた口は言葉を生むことなく、パクパクと僅かな開け閉めを繰り返している。


「今、何と……?」

「君は()()()()()()()()()()()()を受けたんだよ」


 改めて恐怖さんの口から飛び出した言葉を聞き、ミトは混乱した頭を働かせるように、背筋を伸ばして椅子から立ち上がった。

 くるくると座っていた椅子の周りを歩き回りながら、恐怖さんの言葉を理解できるまで、何度も何度も反芻していく。


「ちょっと待ってください。怪人になるって何を言ってるんですか?()()()()()()()()()……()()()ですよ……!?」


 怪人は人間のフリをした化け物である。それを倒すために超人が生まれ、怪人の根絶のために動いている。


 それが世間的な怪人に対する常識だ。


 そのことを突きつけると、恐怖さんは悲しみを表現するように、口元をへの字に歪めていた。


「化け物とか言わないでくれたまえ。第一、人間ではないと君は本当に思っていたのかい?」

「いや、本当に思うとか、そういうことじゃなくて、それが常識で……」

「常識?」


 ミトが当然のことを言おうとした瞬間、恐怖さんが聞き慣れない言葉を聞いたように、そう繰り返した。


「常識と君は言ったかね?怪人は化け物であることが常識だと?」

「はい。子供でも知っています」

「では聞くが、君は怪人がいつ現れたか知っているかい?」

「それは……確か、最初の怪人事件が今から二十五年前だったと思います」


 ミトが記憶を確かに返答すると、恐怖さんはピンとミトに向かって人差し指を伸ばし、「正解」と口にした。


「そう。今から二十五年前に最初の怪人事件が発生し、世間的に怪人とそれを倒す超人の存在が知れ渡った。では、次の質問だ。ミトくん、君の考えを聞かせてくれたまえ」


 そう言いながら、恐怖さんはさっきまでミトが座っていた席を手で示し、座るように促してきた。

 その指示に少し戸惑いながらも、ミトは大人しく、恐怖さんの対面の席に再び腰を下ろす。


「二十五年前に最初の怪人事件が発生し、怪人と超人の存在が世間に知れ渡った。では、それまで怪人や超人はどこにいたのだと思う?」

「どこに?場所ですか?」

「何でもいい。君の考えを聞かせてくれたまえと言っただろう?」

「えっと……人里離れた場所で隠れていたとか?」

「ほおう?」


 ミトの返答を聞いた恐怖さんが興味深そうに声を漏らしてから、短い手で顎を摩り始めた。


「二十五年前に事件が起きるまで、一度も誰にも見つかることなく、人里離れた場所で隠れていた、と?」

「え、ええ……」


 そうミトは返答しながらも、それがあまりに無理のある話であることを理解し始めていた。


「それほどまでに隠れていたのに、二十五年前に急に人間のいるところに現れた、と?」


 更に重ねられた恐怖さんの質問に、ミトはもう何も言えなくなっていた。

 追及されればされるほどに、ミトの言ったことが間違いであることを分からせられ、解消できない疑問が存在することを理解させられる。


 意気消沈し、何も言えなくなったミトの姿を目にし、恐怖さんはようやく納得したように、口元に笑みを浮かべた。


「君の言っていた常識がいかに杜撰なものか、これで理解できたかね?」

「では、恐怖さんは怪人が急に現れたのは、人に改造手術を施して生んだからと言うのですか?」


 ここまで恐怖さんが語ったことを思い出し、ミトが反対に質問を投げかけると、恐怖さんはさも当然のように首肯した。


「もちろん、それが事実だよ」

「それこそ、あり得ない!人に改造手術を施すのも、それで怪人ができるのも、どう考えても無理があります!怪人は人間を超えた力を使うと聞きますよ!それほどの力をどうやって手術で!?そもそも、誰がそんな手術をしていると言うのですか!?」


 恐怖さんの言葉を全力で否定しようと、ミトがテーブルの上に身を乗り出しながら叫んでも、恐怖さんの態度は崩れなかった。

 それどころか、ミトの言ったことを待っていたかのように、再びニンマリと笑っている。


「誰がそんな手術をしているのか。良い質問だ。君の身体を改造した人物の名を、君には知っておく権利が……いや、義務がある!」


 そう宣言したかと思えば、恐怖さんは短い両手を大きく伸ばし、仰々しく語り始める。


「彼こそ、稀代の天才にして、稀代のマッドサイエンティスト!その名は……」


 そして、低く響くような声で一つの名前を口にした。


天禍維(あまがい)蒐作(しゅうさく)

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