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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-4.ルーレット

「なら、ルーレットの時間だ!」


 パワーが大々的に宣言した意味の分からない発言に、アズマヤも怪人と言われた女性も、困惑した表情をしていた。

 何を言い出したのかも分からず、どのようなリアクションを取ったらいいのかも分からない中、パワーの背後ではブラックドッグがどこか慌てた様子で口を開く。


「待て、パワー!?今回はその女を連れていくだけの仕事だ!ルーレットは必要ない!」

「何を言っている!完璧な私が完璧に仕事をこなすためには、このルーレットが必要不可欠だ!」

「パワー!頼むから言うことを聞いてくれ!そこにいる少年はただの人間だ!ルーレットをここで使う必要はない!行き過ぎた力だ!」

「いいや、だとしても!私は私の仕事を完璧に仕上げるために、完璧な肉体を得る必要があるのだ!」


 ブラックドッグは必死にパワーを止めようとしているようだったが、一方のパワーは一切、聞く耳を持つことなく、ブラックドッグの発言に反論しながら、ボディービルで見られる様々なポーズを取っていた。

 その押し問答から察するに、パワーが行おうと言っているルーレットは相当に凄いものらしい。


「パワー!」

「パワー!」


 ブラックドッグが言うことを聞かないパワーに言い聞かせるように名前を呼んだが、それに対してもパワーは呼応するように自身の名前を連呼するだけで、話し合いは一向に進んでいないように見えた。


 この隙にアズマヤは女性を連れて、この場所から離れようとも考えるが、言い合っている二人の意識がどれだけアズマヤ達に向いているか分からない。

 逃げ出した隙に一斉に取り押さえられたら、今ある自由も失うことになる。


 それは絶対に避けなければいけない最悪の結末だ。


 そう思っていたら、ついにブラックドッグがパワーの名前すら口にすることをやめて、パワーがこちらを向いた。

 どうやら、ブラックドッグはパワーを止めることは不可能だと諦めたらしい。


 ブラックドッグの焦り方を見るに、ルーレットというものは相当に凄いもので、アズマヤと女性を捕まえるのには過ぎた力を生み出すものだそうだ。

 どうせなら諦めることなく、止めて欲しかったと思うアズマヤの前で、パワーが再びポーズを取った。


「さあ、ルーレットの時間だ!」


 そう宣言したパワーの勢いに思わず後退りながら、アズマヤは少しでも時間を稼ぎたいと、パワーに質問を投げかけてみる。


「そのルーレットって何ですか?」

「良くぞ、聞いた!」


 アズマヤの質問にパワーがそう叫んだかと思えば、取っているポーズを別のポーズに変えながら、アズマヤに説明していく。


「私の筋肉は美しい!限りなく完璧に近しい肉体だ!」


 ルーレットの説明を聞いた途端に始まったパワーの自画自賛に、アズマヤと女性は揃って、きょとんとした。


「しかし、私の肉体は完璧ではない!私の肉体には足りていない重大な力がある!」

「足りていない力?」

「そうだ!それが究極の(アルティメット・)筋肉美(マッスルパワー)だ!」

「何て?」


 ルーレット以上に意味の分からない単語が登場し、アズマヤの困惑は深まった。

 それを気にかけることなく、パワーはポーズを変えながら、更に説明を続けていく。


「究極の筋肉美を得るためには、試練が必要だ!試練を乗り越えなければ、絶対に究極の筋肉美は得られない!」

「試練?筋トレ的な?」

「いいや、ルーレットだ!」

「何で?」


 考え得る脳細胞が全て筋肉に置き換わったと思われるパワーの発言に、アズマヤの困惑は理解することを放棄していた。

 多分、フランス語で話しかけられた時の方がもう少しコミュニケーションが取れるだろう。


「さあ、私が究極の筋肉美を得るために!今からルーレットを始めよう!行くぞ!ルーレット展開!」


 そう言ったかと思えば、パワーは両手を身体の前で組むようなポーズを取った。

 それから何が出てくるのかと思ったが、パワーがポーズを変えた以外の変化は周囲に起こらない。


 どこにルーレットが現れたのかと思いながら、アズマヤが周囲に目を向けようとした瞬間、パワーが不思議そうに叫んだ。


「どこを見ている!ルーレットを見るんだ!」

「いや、そのルーレットってどこに?」

「ここにあるだろう!」


 そう言い、パワーがゆっくりと視線を下げ、自身の身体に目を向けた。


「私の()()だ!」

「何て?」


 本格的にパワーが何を言っているか分からず、アズマヤは困惑した目をブラックドッグに向けていた。


 しかし、ブラックドッグは何かを言う様子もなく、ただ諦めた様子でパワーを見ている。

 どうやら、胸筋をルーレットと言ったことにおかしいところはないらしい。


「いいか!これから私の胸筋がルーレットとなって動き出す!私は自分から見て、右と左のどちらに止まるかを宣言する!それが見事に的中すれば、私は究極の筋肉美を得られる!そういうことだ!」

「…………もう一回、説明お願いしてもいいですか?」

「聞いてなかったのか!今度は良く聞くんだぞ!いいか!これから私の胸筋がルーレットとなって動き出す!私は自分から見て、右と左のどちらに止まるかを宣言する!それが見事に的中すれば、私は究極の筋肉美を得られる!今度は分かったか!」

「…………もう一回、お願いできますか!」

「君は聞く気があるのか!」


 聞く気はあるのだが、何度聞いてもパワーの説明は理解の及ばないものだった。


 特にアズマヤの中で、どうしても納得できないポイントが一つあって、そこがどう考えても頭の中で処理できない。


「そのルーレットって胸筋が動くんですか?」

「そうだ!」

「それなら、自分が言った方を自分で止めれば、絶対に当たるのでは?」


 自分で動かしているなら、自分で止めることも自由だろう。何を言っても絶対に当たるルーレットなどする必要があるのかと考え、アズマヤは眉を顰めた。


 もしかして、それすらも分からないほどに全身を筋肉に支配されてしまったのかとアズマヤが考えそうになったが、その考えをパワーは力強く否定するように叫んだ。


「いいや、このルーレットは私の意思で動かしているわけではない!」

「はい?なら、胸筋が勝手に動いていると?」

「そうだ!ルーレットスタートの合図で、私の胸筋はルーレットとなって動き出す!私にできることはそのどちらが止まるか当てることだけだ!」


 まっすぐと向けられた表情はとても嘘を言っているようには見えないものだったが、その話はアズマヤの信じられるものではないことも事実だった。

 自分の胸筋が動いているのだが、それは自分で動かしているわけではないなど、小学生の言い訳のようなことをそうそう信じられるはずもない。


 これはどう受け止めるのが正解なのかとアズマヤが考え込んでいると、その無言をどう受け取ったのか、パワーがルーレットのポーズを取ったまま、大々的に宣言した。


「では、始めようか!」

「え?いや、もうちょっと待っ……」

「ルーレットスタート!」


 パワーの宣言と共に、パワーの言っていたようにパワーの胸筋が交互に動き始めた。


 ただし、アズマヤが見るにパワーが自分で動かしているようにしか見えない。


「さあ、ここで私の選択だ!私の予想では究極の筋肉美に繋がる筋肉は、()()()()だ!」


 そう言っている間にも、パワーの胸筋は少しずつ速さを増してから、ルーレットが停止するように次第に動きを遅くしていた。

 一秒ごとに動いていた速度から、五秒ごとの速度に変わって、胸筋自体の動きもゆっくりとしたものに変わっていく。


「さあ、止まるぞ!どっちだ!」


 そうパワーが叫ぶ中、右と左がゆっくりと一回ずつ動く。


「正解が出るのか!出ないのか!どっちなんだ!」


 そう言った直後、パワーの()()()()が力強く動いた。


 自分自身で動かしているのだから、それは当然当たるだろうとアズマヤがその動きに納得しかけた瞬間、パワーの()()()()が痙攣でもしているかのように何度も動き出した。


「出ーない!」


 そこでそう叫んだパワーがポーズを取った体勢のまま、ゆっくりと背後に倒れ込んだ。


「えっ……?」


 その様子に困惑し切ったアズマヤが思わず声を漏らす一方、ブラックドッグは何かに呆れたように溜め息をついた。


「だから、止めたんだ……」


 そう呟くブラックドッグの前では、倒れ込んだパワーが白目を剥いて気を失っていた。

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