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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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2-3.筋肉と犬

「さあ、行こう!一緒に行こう!君の行くべき場所に行こう!」


 筋肉質な男はアズマヤの隣に立つ女性に向かって、まっすぐに手を伸ばし、無駄に大きな声を発した。


 その振る舞いから女性の知り合いかと思い、アズマヤは隣に立つ女性に目を向けてみるが、女性の表情はどこか曇ったものだった。

 知り合いに逢ったという感じではなく、表情には怯えすら籠っているように見える。


「さあ、何をしている!早くこっちに来るんだ!君の行くべき場所は決まっている!分かっていることだろう!」


 男は尚もそのように叫びながら、女性との距離を詰めるように歩いてきた。

 手招きするように手を伸ばし、こちらに来るように女性を説得しようとしているが、それを受けた女性の方は怯えた表情すら見せ、反対に男から離れるように後退っている。


「あの!」


 その男の前にアズマヤは立って、男が女性に接近するのを止めるように、片手を伸ばした。


「何だい、君は!」

「いや、その、貴方が誰かは知りませんけど、あんまり無理矢理、連れていこうとするのは良くないと思いますよ。彼女、怯えてるみたいですし」


 アズマヤが男を窘めるように告げると、男はしばらくきょとんとした顔をしてから、何がそんなにおかしかったのか、急に大声で笑い始めた。


「ハッハッハ!これは傑作だ!無理矢理、連れていくも何も、彼女はここにいるべき存在じゃない!」

「何ですか、それ?誰がどこにいても、貴方がどのような関係でも、その人のいる場所のことを他人がとやかく言う権利はないと思いますよ?」


 アズマヤが不快感を覚えながら告げると、男は笑顔のまま、アズマヤの顔をじっと観察するように見てきた。


「あれか!君もそうなのか!」

「何ですか?君もそうなのかって?」

「君も()()か!」

「は、あ……?」


 男が告げた一言にアズマヤは唖然とした。


 怪人。確かに男はそう言ったように聞こえるが、今の話の流れで、その言葉が出てきた意味が分からない。


「君も怪人か!」


 その言い方も良く分からなかった。


 君も、とわざわざつけたからには、他にも怪人がいるということになるが、この場所のどこに怪人がいるというのか、アズマヤには分からない。


「待て、パワー」


 不意に男の後ろから、筋肉質な男よりも若い男の声が聞こえてきた。


「そいつは多分、何も知らないだけだ。変なことをして問題を起こすな」

「おお、そうなのか!知らないのか!無知は仕方ない!また新たに学べばいいさ!」


 納得したように頷く男を前にし、アズマヤは戸惑っていた。

 何を知らないのかも、何を男が納得したのかも分からない。


 それだけではない。アズマヤはゆっくりと男の背後を覗き込むように見てみる。


 そこには先ほど聞こえた声の主がいるはずなのだが、そこに若い男の姿は見当たらない。目の前の男が会話している時点で、気のせいというわけがないだろう。


 そう思っていたら、筋肉質な男の背後で、男の隣に並んでいた黒い犬が近づいてくる姿が見えた。

 そういえば、リードもつけずに犬を連れていると思った直後、黒い犬がアズマヤを見る。


「すまない。そいつは脳みそまで筋肉でできた筋肉バカなんだ。多少のミスは大目に見てやって欲しい」


 そこで黒い犬の口元が動き、そこから、先ほども聞こえた若い男の声が発せられたことで、アズマヤの思考は停止した。


 ()()()()()


 その事実を簡単に受け入れられない脳が現実の処理を拒絶する。


「どうした!驚いているな!怪人を見るのは初めてか!」

「いや多分、驚かしているのは俺の方だ」


 筋肉質な男の発言を黒い犬が否定し、アズマヤの前に立った。

 もちろん、その姿は四足歩行の犬のもので、聞こえてくる人間の若い男の声とは釣り合わない。


「俺の名前はブラックドッグ。そいつはパワー。俺達は()()だ」

「超、人……?」


 アズマヤが呟いた言葉に反応するように、ブラックドッグと名乗った黒い犬が首肯した。


「超人というものは知っているだろう?こんな姿をしているが中身は人間だ。今は犬の姿になっているだけだ」


 超人と怪人についての知識は当然、アズマヤも持っていた。

 二つの存在の関係性もそうだが、常人では考えられない特殊な力を持っていることも知っている。


 確かに超人であるなら、犬の姿をしている人が一人くらいいても不思議ではないのかもしれない。

 喋る犬と考えるより、犬の姿をした超人と言われた方が納得できるくらいだ。


「俺達が君に危害を加えるつもりはない。ただ俺達は怪人を捕らえに来ただけなんだ」

「怪人?捕らえる?何を言って……」


 そう呟きながら、ふとブラックドッグとパワーの視線が自身に向いていないことにアズマヤは気づいた。


 その視線を追いかけるように顔を動かせば、そこにはアズマヤが助けた女性が立っている。


「まさか……」

「ああ、そうだ。()()()()()だ」

「嘘……だろう……?」


 アズマヤが助けた女性は見るからに、ただの人と同じだった。


 アズマヤが知っている怪人とは、明確に姿も振る舞いも違う。ブラックドッグとパワーがどれだけ怪人と言っても、その姿を怪人とは認識できない。


「分かったら、邪魔しないでくれ。これは世の中のためなんだ」

「さあ、行こう!君の行くべき場所に行こう!」


 ブラックドッグがアズマヤを制するように告げると、即座にパワーが女性に近づき始めた。

 女性は迫るパワーを怯えた表情で見つめ、抵抗する様子もなく、ただ逃げるように後退っているだけだ。


 その姿を目にし、アズマヤは未だ疑問に思っていた。


 本当にその人が怪人なのか、とアズマヤの頭の中一杯に疑問が膨らみ、強引に迫るパワーを見る。

 本当にこの人達は超人なのか、とブラックドッグにも目を向けて、アズマヤは考える。


 確かに喋る犬の存在は異様だ。当人が超人と言うからには、超人である可能性が非常に高い。


 そして、二人が超人であるのなら、怪人と断定された女性は怪人であると断定するべきなのだろう。

 それは間違いないことだと思う。


 しかし、今の女性の姿はアズマヤの知っている怪人とは明らかに違い、怯えた一人の女性にしか見えない。

 悪逆非道の限りを尽くす怪人の一人と言われても、そこには疑問しか生まれない。


 もしも女性が怪人だとして、本当にこのまま二人に連れていかれる姿を見送ってもいいのか、とアズマヤの頭の中で自分自身に問いかけるように声がした。


 怪人である、という理由だけで、怯える女性が連れていかれる事態に発展し、それで納得できるのかと考え、アズマヤの身体は自然と動き出していた。


 気づけば、女性とパワーの間に割って入るようにアズマヤは立っていた。


「どうした!少年!」


 パワーが聞いてくる声にアズマヤの全身が震える。


 もしかしたら、間違った選択を取ってしまったかもしれないと思いながらも、アズマヤの中に湧いてきた考えは言葉を止めようとしなかった。


「彼女が怪人かどうかは分かりませんけど、今の彼女は明らかに怯えています……」

「だから、どうした!」

「ちゃんと話し合うことはできませんか?怪人と言っても、全てが悪いわけじゃないかもしれないじゃないですか?話し合えば分かり合えるかも」


 アズマヤがそのように告げると、パワーの向こう側から、さっきまでとは比べ物にならないほど、冷たく聞こえるブラックドッグの声が飛んでくる。


「悪いが、そういうわけにはいかない。怪人は始末する。それが俺達の仕事だ」

「そこを何とか!ほんの少しでもいいから、彼女と話を……」

「少年!」


 アズマヤの言葉を遮るようにパワーが声を発し、アズマヤの前に威圧するように立った。


「君は()()()()()()()のか!」


 そのようにパワーが質問を言い放ち、アズマヤの身体は強張った。


 ここでの返答がアズマヤの将来を決める。

 やはり、超人である二人の仕事を邪魔するべきではない。


 そう思ったアズマヤがパワーを通そうと、横に退くように背後を振り返ったところで、アズマヤの目に怯える女性の顔が映った。


 自身の前に立つアズマヤを見つめる姿は助けてくれるかもしれないという期待もなく、ただアズマヤを心配するように不安に包まれたものだ。


 その姿を目にし、アズマヤはやはり、この人が怪人であるはずがないと思った。


 この人がもし怪人だとしても、抵抗することもなく、超人に連れていかれていいわけがない。

 そのような状況をここで見送ったら、きっとアズマヤは永遠に後悔する。


 そう思ったアズマヤは背後を振り返った勢いのまま、女性の手を掴んでいた。

 その手は氷を掴んだのかと思うほどに冷たく、女性は手を掴んだアズマヤを驚いた顔で見ている。


「俺はこの人が悪い人には見えません!」


 アズマヤが堂々とそう告げると、パワーが納得したように大きく頷いた。


「そうか!分かった!」


 そう言ったかと思えば、突然、パワーは着ていたタンクトップを公衆の面前で脱ぎ始めた。

 脱いだタンクトップを脇に捨て、ご自慢の筋肉を見せつけるようにポーズを取ってから、驚くアズマヤと女性に向かって、堂々と宣言するように叫ぶ。


「なら、()()()()()()()()だ!」


 その一言にアズマヤは唖然とし、何も言い出せなかった。

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