表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/267

1-33.正直者

 地面を踏み締める音が聞こえ、ミトは背後に目を向けた。見れば、山をこちらに降りてくる人がいる。

 それが誰かと確認するよりも先に、降りてきた人物がミトの姿を発見し、怪訝げに眉を顰めた。


「お前……そこで何してる?」


 そう問い詰めるように聞いてきたのはヤクノだった。


 スミモリを追いかけていると思っていたミトが立ち止まっている。その姿に仕事を放棄したと思ったのかもしれない。

 ミトがそうではないことを伝えるために返答しようとした直前、こちらに歩いてきたヤクノが倒れ込むスミモリを発見し、足を止めた。


「そいつは……スミモリか?」


 ヤクノの問いにミトはゆっくりと首肯する。


「死んでるのか?」

「息はもうしてない」


 倒れ込むスミモリをじっと見下ろしてから、ヤクノはやや鋭い視線をミトに向けてきた。


「お前が殺したのか?」

「ううん。多分、自分の毒で死んだんだと思う」


 確信はないが、ミトの前でスミモリは血を吐いて倒れた。その直前に毒を生み出し、全身を覆っていたところを見るに、その毒にやられた可能性が高いだろう。


 ヤクノはミトの返答を聞きながら、スミモリをしばらく見下ろしてから、その身体を確認しようと思ったのか、手を伸ばして触れようとした。

 その姿を見たミトが慌ててヤクノの手を掴み、声を荒げる。


「触れたらダメだ!表面の液体は全部が毒で、触れた植物がすぐに枯れるくらいだった!」


 ミトの突然の行動にヤクノはやや驚いたように目を見開いてから、ミトの掴む手を振り切って、懐からスマホを取り出した。


「ヒメノさんに連絡する。お前はそこで待っていろ」


 そう言いながら、ヤクノはスマホを片手にミトから離れていく。


 その後ろ姿を見送りながら、ミトはスミモリが死亡する直前のことを思い出していた。

 その時のミトは何かに支配されたように、スミモリに対する恨みを抱え、一切の躊躇いなく、スミモリの傷を踏み抜いていた。


 スミモリが死亡した今も、その行動に対する罪悪感はない。

 全てスミモリの行動が引き寄せた当然の報いだ。


 そう思ってから、ミトはふとヤクノが自分に向けてくる敵意のことを思い出す。殺意でもあるあの負の感情はさっきのミトと同じく、恨みから生まれたものだ。


 もしかしたら、ヤクノもさっきのミトのように思っているのかもしれない。


 ハヤセを殺害したミトを一切許すことはなく、強い恨みの元でミトを殺そうとしたのかもしれない。


 そう思ったら、ミトはヤクノが自分を許す未来など訪れないように思えてきた。


 肉食動物と草食動物が肩を組み合うように、許せないと心の底から思った相手を受け入れることはできない。

 ミトがスミモリを拒絶したように、ヤクノがミトを拒絶しているなら、ここでこうしていることでさえ、ヤクノは吐き気が催すほどの不快感に襲われているはずだ。


 少しでも認めてもらえると考えた自分が愚かだった。

 自分はこの罪と一生向き合って、ヤクノの恨みを正面から受け止めないといけない。


 ミトは再び倒れ込むスミモリを見下ろし、その姿に自身の姿を重ねる。


 きっと自分もこうやって死ぬのだろう。


 そう思ったら、ほんの僅かだが、さっきまで一切の同情が湧かなかったスミモリの死体にすら、同情が湧いてくるようだった。


 そのミトから離れ、ヒメノに連絡しようとしたヤクノが耳に当てたスマホを離し、画面に目を向けた。

 ヒメノに通話をかけても、一向に繋がる気配がない。


(何があった……?)


 眉を顰めるヤクノはミトの想像とは対照的に、ミトのことを微塵も考えていなかった。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 拘束したウェイトレスを人質として連れながら、ヒメノはソラと共にミト達の後を追おうとした。


 だが、二人と合流する前にヒメノとソラの前には別の人物が立ち塞がり、二人の足は止まった。


 そこまでは別に構わないことだが、問題は対面した相手だった。

 あまりに有名過ぎる顔は怪人であるなら誰しもが分かるものだ。


「ノーライフ……キング……?」


 思わずヒメノが呟いた声に反応し、ノーライフキングが微笑みを浮かべ、ゆっくりと首を傾げた。


「私をご存知ですか?」


 その問いをしながら、ノーライフキングの視線がヒメノの背後に向いた。


 そこにあるものは言うまでもない。

 人質予定のウェイトレスである。


「それ、私の知り合いなのですが、どうして意識を失っているか、説明していただけますか?」


 そう言いつつ、ノーライフキングの体勢が僅かに変わって、ヒメノは既に相手が理解していることを察した。

 言い訳の余地はなく、向けられているものは好奇心ではなく敵意だ。


「ソラ……私が合図したら、電気を頼むで……」


 万が一の時のことを考え、ソラに小声で伝えると、ヒメノの鞄を抱えるソラが小さく首肯する。


「何の相談ですか?こちらは説明を求めているだけですが?」

「ああ、この人やったら、倒れてたから急いで麓まで連れていこうと思っていたんですよ。貧血とかじゃないですかね?」

「ほう、貧血ですか?」


 ノーライフキングが感心したように声を漏らし、ゆっくりと首を傾げ、ヒメノの後ろを覗き込むように見た。


「その手に見える()()()()()も貧血が原因だと?」

「知りませんか?結束バンドで指を止めたら、貧血が改善するってネットで噂に……」


 ヒメノが適当を言い切る前に、ノーライフキングはヒメノの前まで踏み込んできた。


 咄嗟にヒメノはウェイトレスを落としてから、接近するノーライフキングを追い払うように足を振るうが、その足は読まれていたように振り切る前に止められる。


「御冗談を」


 そう言いながら、ノーライフキングがヒメノの腕を掴むように手を伸ばしてきた。


 その手を振り払おうために、ヒメノはノーライフキングの腕を掴もうとするが、その手すらもノーライフキングの手に掴まれ、ヒメノはあっさりと拘束される。


「痛っ!?」


 後ろ手に腕を締められ、ヒメノが苦悶の声を漏らした。


 その声を聞いても、ノーライフキングは一切表情を変えることなく、ヒメノに質問を投げかけてくる。


「君はさっきの少年達の仲間かな?」

「……やとしたら、なんやねん?」

「ああ、そうですか。だとしたら、一つ質問があったんですよ」


 そう言ったかと思えば、唐突にノーライフキングの表情が変化し、ヒメノを睨みつけるように見てくる。


()()()()()()()()を知っているか?」


 その問いにヒメノは眉を顰め、ノーライフキングを睨みつけた。


「ああ、何て?」


 そう告げたヒメノをノーライフキングはしばらく見つめていたが、やがて、ゆっくりと視線をソラに移し、怒りの籠った表情に僅かな笑みを浮かべる。


()()()()は何か知っているようだな」


 そう呟いた先で、ソラは少し強張った表情をしていた。


「あの……()()()が……ソラ!今や!巻き込め!」


 ヒメノがソラの意識を引き戻すように絶叫した直後、ソラが思い出したように掌をヒメノに向け、そこから電気を放った。

 電気はヒメノとヒメノを拘束するノーライフキングの身体に襲いかかって、二人を強烈に痺れさせていく。


「がぁああああ!」

「ご、ごめん……!」


 ヒメノが全身を襲う痛みに叫び声を上げ、その声にソラは反射的に電気を止めていた。

 ヒメノとノーライフキングが同時に倒れ込み、ソラは急いでヒメノに駆け寄ってくる。


「ヒメノ?大丈夫?」

「ギリギリ意識はあるけど……身体はうまく動かん……肩、貸してくれや……」


 ヒメノが何とか残った意識でそう告げると、ソラはヒメノを抱えるように立ち上がって、倒れたノーライフキングとウェイトレスを見やる。


「あの二人は?」

「あかん……ノーライフキングはすぐに起きるし、この状況で戦えへん……あの女も連れて逃げられる状況やないし、今回はもう諦めるしかない……」


 ヒメノが僅かにソラの背中を押すと、ソラはヒメノを支えたまま、山の中を歩き始めた。


「……ごめん、ヒメノ」


 その途中、小さく呟いたソラの一言を聞いて、ヒメノは苦笑を浮かべる。


「帰ったら、お説教やな……」


 冗談っぽく呟いたヒメノに対して、ソラは心の底から申し訳なさそうに小さく頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ