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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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1-31.デッドライン

 ヤクノが力任せに振るった拳に、ノーライフキングは自らの掌を合わせて、軽く受け流してみせた。体勢を崩したヤクノの腕を即座に掴み、動けないように締め上げようとしている。


 それに抵抗するように、ヤクノは拘束されていない方の腕を伸ばし、ノーライフキングの肩を掴んだ。

 そのまま一気に力を込めて、ノーライフキングの肩を砕き、拘束が緩んだ隙に懐から抜け出していく。


 その不格好にしか思えない体勢からの脱出劇にノーライフキングは驚いた顔をしながら、砕かれた肩に触れていた。


「凄い力ですね」


 感心するように呟きながら、砕かれた肩から先の腕に目を向ける。

 だらんとぶら下がった腕には一切の力が入っていないようで、持ち上がる気配がない。


 そうかと思っていたら、ゆっくりと腕に力が漲っていくように、ぶら下がっていた腕はすぐに持ち上がり始めた。

 砕いたはずの肩も既に何ともないように動かされ、ノーライフキングは具合を確認するように腕を回している。


「そいつが噂の力か。思っていたよりも再生が早いな」

「今日は調子がいいので」


 本当か冗談か分からないことを言いながら、腕の調子を確認し終えたらしいノーライフキングが再び拳を構えた。


「さて、それではそろそろ貴方達が何者か聞きましょうか?」


 微笑みを崩すことなく、そのように質問を投げかけてくるノーライフキングに、ヤクノは鋭い視線を返す。


「どの状況で質問している?答えると思っているのか?」

「ああ、そうですか?貴方のそのご自慢の怪力は効かないと見せつけたつもりでしたが?」


 さっき砕いたはずの肩を手で示しながら、ノーライフキングはそう言ってきたが、ヤクノはそれを鼻で笑った。


「傷が回復したから何だ?お前の力の()()を知らないとでも思っているのか?」

「弱点を知っていると?」

「ノーライフキングは絶対に殺せない。どれだけの致命傷を与えても必ず再生し、復活する。絶対的な再生能力。それこそがノーライフキングの超人としての力だ」

「良くご存知で」

「確かにそれだけ聞いたら強く聞こえるが、お前の力は()()()()()()


 ヤクノの指摘にノーライフキングは微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと首を傾げた。


「と言うと?」

「死なない。それ以外に特殊な力はなく、相手を攻撃する手段があるわけでもない。だから、怪人を相手するのに銃を必要としている。その銃がなくなった今、お前の実力は()()()()()()()()だ。殺しても復活する以外に特別な部分はない」

「それが私の弱点だと?」

「ああ、そうだろう!」


 ヤクノがノーライフキングに飛びかかり、腕を掴もうとした。


 しかし、ノーライフキングはその動きを先に読んでいたかのように腕を引っ込めて、飛びかかってきたヤクノの背後に回り込み、ヤクノを締め上げるように腕を首にかけていく。


「それは()()()ですね」

「間……違い……だと……?」


 締まる首から解放されるために、ヤクノはノーライフキングの腕を掴みながら、血走った目をノーライフキングに向けた。

 何が間違いかと思いながら、ノーライフキングの腕を砕いて、自身の拘束をなくそうとする。


 だが、ノーライフキングの拘束は解けなかった。


「死なないということは、()()()()()()()()()()なんですよ。人は生きていく上で、死ぬかもしれない危険を排除しないといけない。死ぬかもしれない以上、大きな怪我も負ってはいけない。死んでしまうから、人は死なないようにそういう()()を背負って生きている。その制限が()()()()()。分かりますか?その意味が」


 そうノーライフキングが質問を投げかける間も、ヤクノの首は腕によって強く締め上げられていた。


 どれだけ骨を砕いても関係ない。再生するのだから、それを気にする必要もない。

 そう言わんばかりにノーライフキングは折れた腕を、もう片方の腕で持ち上げて、ロープのようにヤクノの首に絡ませていた。


 それは普通の人間なら絶対にあり得ない行動で、ヤクノの考えにないものだった。


 ゆっくりと意識が薄れていく中、ヤクノの頭の中でノーライフキングの言葉が呪いのように再生される。


「死ぬかもしれない危険を排除しないといけない。死んでしまうから、人は死なないようにそういう制限を背負って生きている」


 その言葉が頭の中に残り続けて、薄れるヤクノの意識にへばりついた。


 もう死ぬのなら、そう諦めるように思った考えがヤクノの身体を動かし、締め上げるノーライフキングの腕を必死に掴んで、止めようとしていたヤクノの腕がそこから離れた。

 そのことを不思議に思ったノーライフキングが対応する暇もなく、ヤクノの腕は背後に伸ばされ、そこに立つノーライフキングの身体を何とか掴む。


 そこはノーライフキングの首だった。


「これは不味いで……」


 そこまでノーライフキングが口にした瞬間、ヤクノの手に最後の力が入って、ノーライフキングの首の骨が砕かれた。

 ヤクノを締め上げていた腕も緩まって、ヤクノとノーライフキングは共にその場に崩れ落ちる。


「ガハッ……!?ゴホッ……!?」


 大きく咳き込みながら、ヤクノは失っていた酸素を取り戻すように深く息を吸い込んだ。

 何度も、何度も、求めるように息を吸い込み、ようやく意識がはっきりとし始めてから、ヤクノは自身の背後に目を向ける。


 そこには首が直角に曲がったノーライフキングが転がっていた。


 ノーライフキングの力を考えれば、この致命傷もすぐに回復することだろう。また動き出し、ヤクノを攻撃してくるかもしれない。


 そうならないように定期的に首を折り続ける方法もヤクノの頭に浮かんだが、それを実行するよりもヤクノはスミモリの方を追いかけようと考えた。


 ミトが信用できないこともそうだが、ノーライフキングの首を折り続けて、どれくらいノーライフキングが無力化できるのか、具体的に想像できない点もそうだった。


 どのような致命傷を負っても、絶対に治ると言われているが、その範囲は具体的ではない。

 分子レベルまで分解され、治るのかどうかも分からなければ、死に方次第では再生と死を繰り返すのか疑問もある。


 それらの手段をノーライフキングと対面した怪人が試してこなかったとは考えづらい以上、ノーライフキングの力にはその部分を解決する秘密があるかもしれない。


 そう考えたら、期待通りの効果を発揮するか分からないノーライフキングの無力化よりも、スミモリを自分達の手で捕まえる方が成果として確実だとヤクノは判断した。


「一応、時間稼ぎをしておくか」


 転がるノーライフキングを見下ろし、そう呟いたヤクノがノーライフキングの手足を順番に握り潰していった。

 肩や肘、膝などを握り潰してから、ヤクノはミトが向かった先を目指して移動し始める。


 その直後、転がるノーライフキングの潰れた片腕が空気を吹き込まれたように膨らんで、元に戻った。

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