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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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1-29.ヘビー級

 スミモリの匂いを追いかけ、猛進するチャッピーの頭が何かにぶつかったことは、伝わる衝撃から分かった。


 それが何かと現場に駆けつけて、足を止めたミトの目にゆっくりと立ち上がる一人の人物の姿が映る。

 その姿はとても見覚えのあるもので、ミトは一目見た瞬間、その人物が何者であるのか、名前を思い出していた。


「ノーライフ……キング……?」


 そう呟いたミトの頭の中で、ヒメノが言っていた言葉が再生される。


 気をつけないといけない超人の存在を醸したヒメノの言葉を聞いて、その超人の具体例をミトが聞いた時の返答だ。


「有名どころやと、ノーライフキングはそうやね」


 その言葉が始まって、何人かの超人の名前を挙げた後に、ヒメノはこう断言した。


「あの辺は()()()()()()()()()


 見つかったら終わり。そう言っていた超人が目の前で立ち上がり、一切の可能性もなく、ミトとヤクノをじっと見ている姿を確認して、ミトの顔色は一瞬で青くなっていった。


「終わった……」


 思わずミトがそう呟いた直後、不意に近くから物音が聞こえ、ノーライフキングの視線が動いた。


 その動きに釣られ、ミトも視線を動かした先で、地面に点々と赤い跡を残しながら、必死に逃げていくスミモリの姿が目に入る。


「おっと?どこに行こうとしているんですか?」


 ノーライフキングがスミモリを呼び止めるようにそう口にしながら、スミモリを追いかけるために歩き出そうとした。


 その動きを邪魔するように、ノーライフキングの前にヤクノが駆け寄った。


「ちょっ……!?何して……!?」


 ノーライフキングはダメだと思い、慌てて止めようとするミトを睨みつけ、ヤクノが苛立ちの籠った声を漏らす。


「何をしてるのはお前の方だ。さっさとあの男を追いかけろ!お前だったら、仮に見失っても、臭いで追えるんだろうが!?」


 確かにヤクノの言っているように、ミトならスミモリを絶対に追いかけることができる。ここでどれだけ時間を使って、ミトが簡単に追いつけない距離に行っても、匂いが残っている限りは辿れるだろう。


 しかし、今はそれよりもノーライフキングがそこにいて、その前に立ち塞がっていることの方が問題だった。


 見つかったら終わりとヒメノが言った相手だ。

 その前に立ち塞がって、ノーライフキングの仕事を邪魔しようものなら、絶対に無事に終わることはない。


 その考えから躊躇うミトの姿を見て、ヤクノの中で苛立ちは更に募っているようだった。

 軋む音が鳴るほどに歯を噛み締めたと思ったら、鋭くミトを睨みつけて、端的に一言だけ言ってくる。


「追わないと殺すぞ」


 その威圧感に睨まれ、恐怖に恐怖を上塗りされることになったミトは反射的に首肯し、ヤクノの後ろに消えたスミモリを追いかけるように走り出していた。


 その姿を見たノーライフキングが微笑みを浮かべたまま、ミトの背中に銃口を向ける。


「行かせるわけがないでしょう?」


 そうノーライフキングが口にした直後、ヤクノは素早く手を伸ばし、ノーライフキングの手の中にある銃を掴んでいた。

 ノーライフキングが引き金を引くよりも早く、ヤクノは銃口を掴んだ指先に力を込めて、トイレットペーパーの芯でも潰すように、銃口を簡単に押し潰している。


「おっと?これは凄い馬鹿力だ」

「そんな玩具を使わないで、直接やりおうぜ、()()()野郎」


 銃口の潰れた銃をノーライフキングの手から奪い取って、近くに放り捨ててから、ヤクノはノーライフキングの前で両手を構えた。


「遊んでいる時間はないんですが、まあ、いいでしょう。貴方達にも聞きたいことがありますしね」


 そう言ってから、ノーライフキングはそれまでの微笑みとは明らかに違う怪しい笑みを浮かべた。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 殴りかかるヒメノの一撃をウェイトレスはひらりと紙のように躱した。まるでヒメノが振るった拳で起きる風に攫われるように、ウェイトレスの身体は拳から離れていく。


 そうして、拳を振り切って無防備になったヒメノの隣に移動し、ウェイトレスは腕を掲げた。

 ヒメノの身体に乗せるように伸ばされたかと思えば、ウェイトレスの腕はジェットコースタ―のように、急速に落下し始める。


 その落下に巻き込まれないようにヒメノは身を翻し、避け切れない腕は背負っていた鞄を振り上げて払い除けた。

 バチンと大きな衝突音が辺り一帯に鳴り響いたかと思えば、ウェイトレスの腕が大きく弾かれている。


「あかん。思てたよりもめんどくさい」


 ヒメノは苦い顔をしながら、弾かれた腕を引き戻し、体勢を整えているウェイトレスに目を向ける。


 木の上からの落下を蹴りとして利用していた姿を見た時から、薄々そうではないかとヒメノは思っていたが、実際に相手にしてみたことで、はっきりと分かったことが一つあった。


 それがウェイトレスの身体能力に関することだ。

 ウェイトレスは体術を不得意としているか、もしくはそもそも心得が全くない。そのレベルで接近戦での身体の使い方がなっていない。


 身体の重量を増やすという手段で、ヒメノに対抗してはいるが、その動きは出鱈目で、だからこそ、ヒメノは対応に困っている部分があるくらいだ。

 もしも場慣れしていないなら、簡単に組み伏せそうだとヒメノは思っていたが、あまりに慣れていないことで、ヒメノには予測できない動きのオンパレードだった。


 どうやって止めようかと思っているヒメノの前で、ウェイトレスが両手を振るいながら、ヒメノの方に飛びかかってくる。


 胴体は無防備で殴り飛ばすか、蹴り飛ばすかできればいいのだが、ウェイトレスの力を考えたら、どちらでも押し潰される未来しか見えない。


 咄嗟にヒメノは持っていた鞄を投げつけ、ウェイトレスを少し押し返してから、ウェイトレスの落下地点から逃げるように飛び退いた。

 ウェイトレスは投げられた鞄を痛がるように声を上げ、そのままヒメノのいた場所に着地しているが、案の定、足は地面に深く減り込んでいる。


「人に物を投げないでください!」


 当然の注意ではあるが、この状況で言うことではないとヒメノは思いながら、一瞬、ソラに目を向けた。


 まだソラは電気を出せるはずだが、ここで切るのかと言われたら、まだ怪しいところだ。


 もう一人いるはずの超人が誰かは分からないが、攻撃的な力を持たないヒメノと、接近しないと始まらないヤクノがこちらにはいて、遠距離から攻撃できるのがミトの犬や猫の頭とソラの電気しかないと考えたら、電気を温存しておいて損はない。

 特にミトの力がどこまで制御できるのか分からない以上、限界の分かっているソラの電気の方が使い勝手は良く、有事の際には活用しやすいと言える。


 ソラの電気を切るとしたら、それはここではない。


 そう思える理由として、ヒメノはウェイトレスの明確な弱点に気づいていた。


「気合いでそこを突くしかないか……」


 呟きながらヒメノはウェイトレスを見やって、適当にしか思えない振り回され方をしている腕の軌道を読んでいく。

 セオリーなど何もなく、あまりに変則的な軌道は読みづらく、全てを避けることは難しく見えたが、そこに一つウェイトレスの力の弱点が潜んでいた。


 ウェイトレスの力は自身の重量を変えるものだ。身体を軽くすれば、木の上まで跳躍することも、空中で無重力状態のように動くことも可能となっているらしい。

 それが避けることに使われる防御の力とすれば、攻撃の際には反対に身体を重くすることで対象を押し潰そうとする。


 実際、それが何キロになっているか分からない以上、非常に強力な一撃であることには間違いないが、問題は重量を()()()()()()()()()()()()()ことだ。


 ウェイトレスの腕がどれだけ変則的に動いても、致命的になるかもしれない危険な一撃は全て、()()()()()()()()動かない。


 要するに、()()()()にさえ触れなければ、後は全て問題ないということだ。


 ヒメノは振り回され、自身の身体に迫る腕を両手で弾きながら、落下の軌道にある腕だけを躱し、ウェイトレスの懐まで踏み込んだ。

 そこでヒメノの接近に気づいて、身構えるウェイトレスを確認してから、ヒメノは一気に動きを停止する。


 体術は不得意か、心得がないほどの動きしか見せないウェイトレスだ。

 この距離に踏み込んでも、ヒメノを押し返す手段はないに等しく、残された手段はヒメノの攻撃に合わせた回避しかない。


 それが分かれば、ヒメノの取る対策は簡単なもので、攻撃をしなければいい。


 攻撃することなく、ウェイトレスの動きに合わせて自身も動き、その身体にヒメノはまとわりついた。

 後ろに滑るように回り込んで、ヒメノはウェイトレスの身体を羽交い絞めにする。


「は、離して……ください……!」

「離すわけないやろがボケ。邪魔やったら、剥がしてみんかい」


 そう挑発しながらも、それが絶対に不可能であることをヒメノは理解していた。


 ウェイトレスの力の弱点がここにも存在し、ウェイトレスは()()()()()()()重さを変えられないらしい。

 もしも他人の重さを変えられるなら、とっととヤクノやヒメノの身体を重くして、地面に這いつくばらせているはずだ。


 それができない上に、ウェイトレスの重さによる攻撃は落下しかなかった。

 それはウェイトレス自身が重くなった自身の身体を()()()()()()()()ことを意味している。


 どれだけ身体を軽くしても、どれだけ身体を重くしても、ウェイトレスの筋力は変わらない。

 それが分かれば、後はこうしてヒメノが身体に抱きつくだけで、ウェイトレスの動きは自然と止まる。


 その予想は正解だったようで、羽交い絞めにされたまま、ウェイトレスはヒメノに抵抗することなく、ゆっくりと身体を倒れさせていた。


「ソラ!そこに落としとる鞄を背中に乗せてくれへん?このまま完全に体勢を崩させるわ」

「分かった」


 ソラがヒメノの要求に首肯し、さっきヒメノが落とした鞄を背中に乗せた瞬間、ウェイトレスの身体が一気に沈んでいく。


「お、重い……」

「山登るから、一杯、水とかお茶のペットボトルを持ってきたんや。何事においても、準備は大切やからな」


 ヒメノがぐっと押さえつけるように力を入れると、ウェイトレスはついに地面に膝をついた。

 このまま伸しかかって、ウェイトレスを地面に拘束しようとヒメノが考えた瞬間、ウェイトレスが苦しそうに口を開く。


「これ、ペットボトル、関係ありますか?」


 その一言を聞いた瞬間、ヒメノは一気に眉間に皺を寄せて、ウェイトレスを押さえつけたまま、腕を勢い良く振るった。


「誰がデブやねん!?」


 その瞬間、ヒメノの振るった肘がウェイトレスの頭に直撃し、ウェイトレスの身体から急劇に力が抜けていく。


 見れば、ウェイトレスは気を失っていた。


 その様子を見たヒメノが唖然とし、ウェイトレスから離れながら、呆気なさそうに呟く。


「何や、普通に倒せるやん」


 その光景を眺めていたソラが祝福するように拍手した。

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