1-28.ファイナルアンサー
「ちょっと!?私を無視しないでくださいよ!?」
木の枝からウェイトレスが飛び出し、見下ろした先にいるソラを狙って、一直線に足を伸ばした。
瞬間的にウェイトレスの身体が落下し始めて、こちらに近づく靴底を見ながら、ソラがぽつりと呟く。
「あっ、来た」
「ソラ!?こっち!?」
その様子を見たヒメノが慌ててソラの腕を掴んで、自身の近くに引き寄せた。
ソラの身体が引かれるままに傾いて、ソラの立っていた場所にウェイトレスがまっすぐに突き刺さっている。
「逃げんと死ぬで!?」
「ヒメノ。ごめん」
「いや、取り敢えず、次から反応できるようにな」
マイペースなソラに翻弄されながら、ヒメノはソラが無事であることを確認し、ソラの腕を掴んだ自身の手に目を向ける。
そこに僅かな疑問を覚えるヒメノの隣で、ウェイトレスが再び地面を蹴り、木の枝の上に戻っていった。
「何で、そっちに戻るねん。こっちに来んと相手できんやろ!」
「何で、私が貴女達怪人に合わせる必要があるんですか!?さっさと倒れて、私に捕まってください!」
そう叫びながら、再びウェイトレスが木から飛び出し、足をまっすぐに伸ばそうとした瞬間、ヒメノに言われたようにウェイトレスの動きを見ていたソラが手を伸ばし、そこから電撃を放った。
まっすぐに伸びていく電気を目で捉えた直後、ウェイトレスは空中で僅かに身体を動かし、ゆっくりとさっきまで乗っていた木の立つ方に移動していく。
その眼前を電撃が通り抜けて、ウェイトレスは安堵するように息を吐いた。
「危ないじゃないですか!?」
「外した……」
絶叫するウェイトレスの言葉を無視し、ソラが残念そうに呟いた。
その姿を見たヒメノがソラの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪を洗うように撫で回す。
「気にせんでええ。向こうの方が自由やから、外してもしゃあない。それよりも……」
そう言ってから、ヒメノはソラの頭に触れた自身の手を見やった。
「やっぱり、電気が漏れてへんな。残量どれくらいや?」
「分からない。けど、あまり多くないと思う」
「なら、撃つタイミングを選ぼか。私が指示出すから、ソラはできるだけ電気を溜めといて」
ヒメノの指示を受け、ソラは頷いてから、被っていなかったフードを頭に被った。
その様子を確認してから、ヒメノは再び木の枝に着地するウェイトレスに目を向ける。
「まずは同じ土俵で戦わな、どうにもならんな。あの上から下ろそか」
「できるの?」
不思議そうに聞いてくるソラに笑みを返し、ヒメノは木の枝の上に立つウェイトレスを眺めた。
その姿にまっすぐ指を伸ばし、世間話でもするように声をかける。
「なあ、あんた、何でそのスーツ着とるん?」
「超人として正装しているだけですけど?山の中にスーツはダメとか言うんですか?」
ウェイトレスの反応にヒメノはやや疑問を覚えつつも、問題はそこではないと思い、まっすぐに伸ばした指で指摘するようにウェイトレスの下半身を示す。
「いや、別に着るのは何でもええけど、そういう動きをするんなら、パンツスタイルにしな。あんた、スカート履いとるから、ずっと中が見えとるよ」
その指摘を受けたウェイトレスがゆっくりと視線を下げ、沸騰するように顔を真っ赤にした。
可愛らしい悲鳴を上げながら、慌ててスカートを押さえ、椅子から立ち上がるような気楽さで、木の枝から降りてくる。
その様子を見たソラが感心したように声を出し、ヒメノに向かってパチパチと手を叩いていた。
「まあ、男の目は気にせんで良うなったんやけどね」
さっきの話題を思い出すようにそう告げるヒメノに向かって、ウェイトレスは鋭い視線を返し、腹の底から押し出すように大声で叫んだ。
「人の目はあるでしょう!?」
その一言に納得したように頷いてから、ヒメノはゆっくりと拳を構える。
「まあ、怪人の目やけどな」
それだけ呟いてから、ヒメノはウェイトレスに飛びかかった。
◇ ◆ ◇ ◆
明らかに空気が変わったことを肌で感じ取り、スミモリの表情は強張った。
その様子を見ていたノーライフキングがやや険しい表情をして、再び同じトーンで質問を繰り返す。
「ミスターフィアーを知っているか?」
その質問と向けられる冷たい眼差しの狭間に立って、スミモリは小刻みに呼吸を繰り返した。
回答から言えば、ミスターフィアーなどスミモリは聞いたこともない。
知らない。それがスミモリの答えであるが、それを言ったら、どうなるのかは分からない。
知らないと言ったことで、スミモリの額を弾丸が貫通するかもしれない。
そう考えたら、ここは知っていると回答するべきだと思いそうになるが、実際のところ、スミモリは知らない状態だ。
もしも知っていると回答し、情報を言うように言われたら、スミモリは何も言えなくなる。
適当を言ってもいいが、ミスターフィアーというものが何か分からない以上、その適当が当たるのかも分からない。
仮に今は誤魔化せても、それがずっと続くとも思えない。
いつか嘘だとばれた時に、スミモリはノーライフキングの怒りを食らう可能性がある。
それが何十年と先ならいいが、明日かもしれないし、数時間後かもしれない。
嘘をついてもダメ。
本当のことを言っても殺されるかもしれない。
その二つの結末の間で揺れ、スミモリはゆっくりと覚悟を決めて、小さくかぶりを振った。
「知らない?」
首を傾げ、ノーライフキングが呟いた言葉を聞き、スミモリはゆっくりと頭を縦に振った。
知っていると言うことで殺される未来も、情報が嘘だとばれて殺される未来もある以上、知らないことで生かされる未来に賭けるしかない。
その思いからスミモリは知らないと答えることに決めて、ノーライフキングの反応を待った。
もう自分が生き残る未来はここしかない。
そこまで考えるスミモリの前で、ノーライフキングは消えていた微笑みを取り戻したように浮かべ、スミモリにこう告げた。
「なら、用済みです。死んでください」
失敗した。そう理解したスミモリが僅かに震え、額に突きつけられる銃から音が聞こえた。
スミモリの額が銃口に触れ、銃を揺らした音なのか、ノーライフキングの指が引き金に触れた音なのか分からなかったが、その音はすぐに掻き消えることになった。
次の瞬間、激しい銃声が辺り一帯に鳴り響くと思ったスミモリの考えを無視し、スミモリの眼前で激しい衝突音が鳴り響いた。
死の恐怖で身体が固まって、目を逸らすこともできなかったスミモリの前では、急に現れた巨大な犬の頭が通過し、そこに立っていたノーライフキングに頭突きを噛ましていた。
ゆっくりとノーライフキングの吹き飛んだ方に目を向けると、そこには力なく倒れたノーライフキングの姿がある。
これは一体何かと思い、スミモリが現れた巨大な犬の頭の出所を辿るように、ノーライフキングとは反対の方角に目を向け、そこに立つ二人の少年の姿を発見した。
一人は見覚えのない少年だったが、巨大な犬の頭を腕から生やした少年の姿には見覚えがあった。
「な、んで……?」
その姿にスミモリは思わずそう呟いて、集落でのことを思い返す。
そこに立つ少年は間違いなく、自身が毒を与えて殺害したはずの少年だった。




