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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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1-25.ファーストデス

 袋の中に水の入ったペットボトルを入れるように、ヤクノの上でウェイトレスの重さが増した。ズシンと伸しかかる重さに耐えかねたように、ヤクノの下で地面が僅かに凹んでいる。


「冷静に考えてみたら、そうでした。こんな山の中に人が普通にいるはずがありません。怪人であることくらいは腕を掴まれる前に気づくべきでした」


 ヤクノに掴まれ、赤くなった腕を労るように摩りながら、ウェイトレスは反省するようにそう言った。


 その間も自身に伸しかかる重さに抵抗し、ヤクノは身体を動かそうとするが、ウェイトレスの重さは簡単に持ち上がるものではない。


「重い女が……!?」

「失礼ですね。意外とさっぱりしていると言われます。束縛もしませんし、そこまで重くありません!」

「何の話だ……?」


 かぶりを振るウェイトレスに眉を顰めながら、ヤクノは必死に手を伸ばし、ウェイトレスの服の端を摘んだ。


 しかし、体勢的にそれ以上、手を伸ばすことは難しく、ヤクノの手はウェイトレスの身体に触れられない。


「無駄ですよ。貴方がどれだけの力自慢でも、その状態では腕も触れません。それよりも、まだ話せる重さの内に、貴方がここに一人でいたのか聞きたいですね。貴方はもしかして、澄森真央の味方ですか?」

「つまらない質問をするな……味方でも、そうでなくても、俺がベラベラ話すような口の軽いやつに見えるのか……?」

「重いことはいいことですが、今は軽くした方がいいですよ?そうじゃないと潰れちゃいますからね?」


 抵抗するヤクノを見るや否や、ウェイトレスの身体が更に重さを増して、ヤクノの上に伸しかかった。ヤクノの身体は更に深く、地面に沈み込んでいく。


「うぐぅ……!?」

「まだ話せますか?どうですか?」


 ヤクノに質問を投げかけながら、ウェイトレスはヤクノの上に乗ったまま、体勢を変えようとした。

 ヤクノが確実に動けない体勢を維持しながらも、ヤクノの肺や気道を圧迫しないことで、話せる状況だけは作り出そうと思ったようだ。


 しかし、身体を回転させようとしてしばらく、ウェイトレスは着ている服の一部が引っかかり、自由に動けないことに気づいた。


 見れば、服の一部をヤクノが摘んだままである。


「あれ?ちょっと……!放して……!?」


 そう言いながら、ウェイトレスは服を引っ張って、ヤクノの指の隙間から抜け出そうとするが、服は接着剤で固められたように動かない。


「力自慢なら……」


 ウェイトレスがそのことに疑問を思っていると、ヤクノがウェイトレスの下で口を開いた。


「人を押し潰せないような重さなら、()()()()()()()()()()……」

「何を言って……?」

「それができないのは、俺の力が()()()だからだ……()()はこっちだ……!」


 そう大きく息を吐き出したヤクノが指を僅かに動かした瞬間、それまで微動だにしなかったウェイトレスの身体が大きく揺れた。

 ヤクノの指に引かれるように体勢を崩し、その隙にヤクノが身体を捻るように、ウェイトレスの下から脱出する。


 指に引っ張られ、体勢を崩したウェイトレスはその場に転がって、地面に身体の半分を埋め込ませていた。ヤクノの摘んでいた服の一部は破れ、その切れ端はヤクノの指の中に挟まっている。


「油断したな、デブ」


 ヤクノのデリカシーの欠片もない発言にウェイトレスは赤面し、肺の中の空気を全て押しつけるように叫び声を上げる。


「重いだけで太ってませんけど!?」


 その絶叫を聞きながら、ヤクノはそれまでに失いかけた酸素を取り戻すように、大きく息を吸い込んだ。



   ◇   ◆   ◇   ◆



「何で……」


 スミモリの震える喉が気持ち悪さを押しのけて、声を生み出す。


「何で……ここに……ノーライフキングが……?」


 怯えた声と怯えた視線に晒され、ノーライフキングは不敵に微笑んだ。


「何で、と聞かれても、それは分かるでしょう?自分の立場を考えたら」


 当然のことのように告げるノーライフキングから離れるように後退りながら、スミモリは必死に周囲を見回す。

 ノーライフキング以外に人の気配はない。囲まれている危険性はなさそうだ。


「ああ、安心してもらって構いませんよ。貴方を取り囲んで、今にも()()できる状況を作っているとか、そういうことはありません。穏便に話を済ませましょう」


 スミモリを落ちつかせるようにノーライフキングは手を伸ばし、そのように話しかけてくるが、その言葉の中に明らかに落ちつけない言葉が交じっていて、スミモリの焦りは募った。


 ノーライフキングは日本中で知らない者がいない超人の代表のような男だ。

 そのノーライフキングが怪人であるスミモリの前に立って、何もしないと言われても、信用できるはずがない。


 殺される。スミモリは恐怖し、更に後ろに下がって、そこに生えていた木に背中をぶつけた。


「大丈夫。ほら、何も持っていません。攻撃する意思はありません」


 ノーライフキングが両手を上げて、その中に何もないことを見せつけてくる。


「貴方が施設に戻ってくれるなら、私達が争う理由はありません。全て穏便に解決できます。分かりますよね?」


 ノーライフキングは言い聞かせるように言ってくるが、スミモリの身体を改造した施設など、スミモリは微塵も信用していなかった。


 実験動物のように扱われるか、自分達にとって都合の悪い証拠となると判断され、そこで始末されるか、それくらいの結末しかスミモリは思い描けない。


「ほら、帰りましょう。さあ、こちらに」


 そう言いながら、ノーライフキングは手を伸ばしてくる。

 怯えた目でその手を見ながら、スミモリはゆっくりと考え、自身の手を重ねるようにその手に伸ばした。


「そう。それでいいんです」


 ノーライフキングはスミモリの手を引いて、怯えて座り込んだままのスミモリを立たせてくる。

 本当に攻撃をする気配はなく、浮かべた微笑みは変わらない。


「それでは行きましょう」


 そう言って、ノーライフキングはスミモリを促すように背後を手で示し、その方向に歩き出そうとした。


 しかし、その一歩目で足は止まり、ノーライフキングの動きは止まった。


「あっ……!?がっ……!?ぐぁっ……!?」


 立ち止まったノーライフキングが急に苦しそうに呻き出し、苦しさの根元を断とうとするように、自身の喉に手を伸ばしていた。

 やがて、その場に膝をつき、嘔吐くように声と涎を垂らしながら、ノーライフキングは倒れ込んでいく。


 その姿を見ながら、スミモリはゆっくりとノーライフキングから離れ、さっきノーライフキングに触れた自身の手を見やった。


 ()()()()()()()()()()がちゃんと効いた。


「大したことなかった……」


 喜びを噛み締めるように呟きながら、血走った目でこちらを見てくるノーライフキングを見下ろす。


「超人なんか、信用できるわけない。死ね……」


 そう言い残し、スミモリはその場から離れる。


 その後ろで悶え苦しむように、ノーライフキングがかさかさと音を立てていたが、その音も次第に小さくなって、やがて、全くしなくなった。

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