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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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1-23.ファーストキス

 ソラが連絡してから、ヒメノとヤクノは即座にミトの倒れる場所に駆けつけた。


 大きく表情は変えないながらも、動揺や焦りを目に現わしたソラの様子を見て、駆けつけたヒメノが即座にミトの傍に駆け寄る。


「ミトくん!?聞こえるか!?私が分かるか!?」


 ヒメノがそのように声をかけても、ミトはヒメノの声に反応することなく、焦点の合わない目で空中を見つめながら、自身の喉元に手を押しつけている。


「あかん……呼吸もできんようになってきとる……」

「ごめん……具合の悪そうな人で、危険な感じがしなかったから、油断した……」


 ヒメノの隣でソラが申し訳なさそうに謝るが、今は謝罪をしても仕方ないところだ。


 ヒメノが詳細にミトの様子を見始める中、ヤクノはミトに興味がないように、周囲の臭いに鼻を押さえながら、山の方に続く跡を見た。


「ソラ。スミモリは向こうに逃げたのか?」

「うん……ごめん、逃がして……」


 ソラの謝罪の言葉を無視し、ミトを一瞥したヤクノが小さく舌打ちをしてから、再び山に続く跡を見る。


「ヒメノさん、その役立たずは無視して、俺はスミモリを追いかけますよ。問題ないですよね?」


 ミトに対する苛立ちを静かに見せながら、ヒメノに投げかけられた質問を聞いて、ヒメノは一度だけ顔を上げた。


「ええけど、ミトくんの様子を見るに相手は毒を使ってくる。お前とは相性がすこぶる悪い。警戒し過ぎなくらいに警戒しても足りひん。そう思っとけよ?」

「その馬鹿と一緒にしないでください。分かっています」


 そう言い残し、ヤクノはスミモリが立ち去った跡を追いかけるように走り出す。


 それを見送ってから、ヒメノは再びミトの様子を見た。


 呼吸はどんどんと弱くなっていき、開き切った瞳孔は何も捉えていない。震える手足も次第に固まって動かなくなりつつある。


 このまま放置すれば、いずれミトは死に至るだろう。


「ソラ。ミトくんはどうやって毒を与えられた?()()()()()んか?」

「ううん。良く分からなかったけど、飲んではいない」

「じゃあ、どこかに触れた時か?身体ん中に直接打ち込まれたとかやろか?」


 ヒメノはミトの身体を念入りに確認していく。


 その間にも、ミトから上がっていた唸り声は小さくなって、ミトの命が尽きつつあることをヒメノ達に教えてくる。


「私が来てから、一分は経っとる。それだけ経っても、まだ死んでへんってことはめちゃめちゃ強い毒ってことでもないみたいや。これやったら、()()()()()()()()()()()()か?」


 そう言いながら、ヒメノはミトの様子を確認し、息を呑んだ。


 静かに迷うように考え込む間にも、ミトの様子は悪化し、上がっていた唸り声も聞こえなくなる。耳を欹てると聞こえていた呼吸の音も、風の吹く音に掻き消されるほどに小さくなった。


「もう迷とる時間はないか……」


 覚悟を決めたように呟いてから、ヒメノはもごもごと口を動かし、ミトの顔をまっすぐに見つめた。


()()()やったら、私でごめんな」


 そうミトに声をかけてから、ヒメノは顔を下ろして、()()()()()()()()()()()()()



   ◇   ◆   ◇   ◆



 息苦しさの向こう側から、静かに水が流れてきた。自然と口に流れる水滴を飲み込むと、ミトの息苦しさがゆっくりと緩和する。

 更に一滴、流れてきた水を飲み込むと、今度は身体を支配していた気持ち悪さが薄れ、込み上げそうになっていたものが自身の居場所を思い出したように腹の中に戻っていった。


 それが更に一回、二回と続いて、固まったミトの身体が自然と動きを取り戻していく中で、ミトの意識が夢の中から引き上げられるように、ミトの閉じていた瞼が開く。


 そこでミトは夢でも何でもなく、実際に口の中に何かが流れ込んでいることに気づき、それを押し込まれるままに飲み込んだ直後、ゆっくりと目の前に広がる光景を理解する。


 そこには()()()()()があった。


「ッ!?」


 何が起きているのか、ミトが焦りと驚きを得た瞬間、ミトは自身の唇に触れる柔らかい感触と、その隙間から流れ込むものの存在に気づく。


 脳が沸騰する感覚に襲われ、ミトが慌ててヒメノの背を叩くと、ミトが目覚めたことに気づいたらしいヒメノがゆっくりとミトから離れた。


「良かった……間に合ったみたいやな……」

「えっ……!?いや、今……えっ……!?」


 ミトが未だ柔らかな感触が残る唇に触れ、あたふたとヒメノや近くに立つソラを見回すと、その様子にヒメノがからからと笑い出した。


「何や、その反応。乙女か」

「いや、でも、今、キ……!?」

「ああ、しとったよ、()()


 平然と言ってのけるヒメノにミトは赤面し、慌て始めた。


「えっ!?えっ!?どうして!?えっ!?」

「キスくらいで慌て過ぎやろ。童貞か」


 ヒメノの何気ないツッコミに心臓を刺されながら、ミトは動揺し続けていた。


 突然の行為にミトはどう受け止めていいのか分からなかったが、その前でヒメノがべえっと舌を出し、その舌に指で触れた。


「これが私の()()()()()()()や」

「えっ?力?」

「この()()には飲んだ相手を治癒する効果があるねん。怪我を治したり、今みたいに毒を中和したりな」

「唾液……」


 そう呟きながら、ミトは自身の唇に再度触れ、気づいてしまった事実に更に顔を真っ赤にする。


「えっ!?じゃあ、僕は今、ヒメノさんの唾液を飲まされたってことですか!?」

「そういうことや」


 ファーストキスを飛び越え、特殊なプレイに発展しそうな行為を受けたと知り、ミトは唇に触れた状態のまま、固まっていた。

 そこでソラがミトに近づいて、ミトの様子をじっと眺めてから、固まったままのミトの身体に触れてくる。


「良かったぁ……」


 静かに噛み締めるように呟いたソラの声を聞いて、どこかに飛びかけていたミトの意識が現実に引き戻された。


 受けたばかりの行為で忘れていたが、さっきまでミトは死にかけていたのだ。


 それが助かった。助けられた。その事実を改めて実感し、ミトはヒメノを見る。


「ありがとうございます……!」

「礼をええよ。それよりも、ヤクノを追いかけよか。スミモリを追いかけとるはずやから」


 そう告げたヒメノに首肯し、ミトは自身の身体に触れるソラを見た。


「ごめん、心配をかけて」


 ミトがそう声をかけると、ソラは小さくかぶりを振って、僅かに微笑む。


「助かって良かった」


 改めて、そう言われた言葉にじんわりとした喜びを懐きながら、ミトはゆっくりと立ち上がり、二人を待つヒメノを見る。


「ほな、行こか。来た道よりも足元やばいから、気いつけてついてくるんやで」


 ヒメノの忠告にミトとソラは首肯し、三人はスミモリとそれを追いかけるヤクノに追いつくために、集落から離れるように走り出した。

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