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5-27.ガサ入れ

 唐突に現れ、自身の名前を聞いてきたリアリストとスティンガーに対して、タテイシは分かりやすく警戒している様子を見せた。リアリストは半開きの扉が閉じられることのないよう、ここからタテイシの気持ちを開かせるための言葉を考えながら、僅かに見える玄関の様子を覗き見る。一人暮らしの大学生の家と聞いていたように、見える範囲には男物の靴が並べられ、特別丁寧に片づけられた様子も見られない。


「急な来訪をすまない。私達は超人なんだ」

「超人……? 超人がどうして家に?」


 警戒から一変し、タテイシは戸惑いの表情を浮かべ、リアリストの質問し返していた。その言葉を聞いたリアリストはスティンガーと一瞬、目を合わせてから、この場を訪れた理由を説明するために笑みを浮かべる。警戒心を解くための笑みだ。


「実は、私達はある怪人を追っていてね。その調査の最中に少し気になる情報を得て、君の家を訪ねたんだよ」

「ある怪人、ですか?」

「そう。檜枝雪菜を知っているかな?」


 その問いにタテイシは分かりやすく驚きを表情に浮かべていた。それまで開きかけていた扉が一気に開かれ、飛び出すようにタテイシが詰め寄ってくる。


「ヒノエさんが……!? ヒノエさんがどうしたんですか……?」

「彼女は怪人なんだよ」

「ヒノエさんが……?」


 動揺を目に浮かべて、慌てふためくようによろめくタテイシを見ながら、リアリストは心配するように少し表情を曇らせた。


「大丈夫かい?」

「え、ええ、大丈夫です……」

「急なことで驚いただろうね」

「けど、どうして、それでこの家に?」

「君が檜枝雪菜に好意を寄せていたという話を聞いてね。彼女がどこにいるのか知らないかと思ってきたんだよ」

「俺がヒノエさんを好きだから、それだけで来たってことですか?」

「まあ、そうなるね」


 その説明にタテイシは明らかに疑いの眼差しをリアリストに向けていた。それもそうだろう。流石に好意を寄せていたという理由だけで、怪人を探しているという超人が家にやってくるとは思えない。

 適当に誤魔化すのもここまでだろう。どこかで襤褸が出ないかと思っていたが、もう少し踏み込んだ方が良さそうだとリアリストが考えていると、隣でスティンガーが口を開いた。


「おかしいと思うか?」

「えっ? ええ、まあ……」

「だろうな。だが、それはこちらも同じことだ」

「は、い……?」


 急なスティンガーの言葉にタテイシが戸惑いの表情を浮かべる中、スティンガーは開き切った扉が閉じられないように足を伸ばし、タテイシの顔に自身の顔を近づけ、その表情を正面から睨みつけた。


「俺達が超人だと知っていただろう?」

「えっ……? どうして、急に……?」

「リアリストが超人だと名乗れば、大半の人間は証明する物を見せるように言ってくる。だが、今のお前にそのような言葉はなかった。それはつまり、俺達二人が疑いようもなく、超人であると分かっていたという証拠だ」

「それは……」

「違うか? なら、さっきからしている曖昧な質問への返答ではなく、はっきりとイエスか、ノーで答えろ。お前は俺達が超人であると知っていたか?」

「いいえ」


 そうタテイシが答えてから、変化はすぐに訪れた。タテイシは異変を感じ取ったのか、表情を一変させたかと思えば、その場に崩れ落ちるように座り込み、ゆっくりと耐え切れなくなっていくように身体を地面に伏せている。


「なにが……これは……?」

「嘘をついた罰だ。取り敢えず、寝て待っていろ」


 タテイシにそう言い放つスティンガーの隣で、リアリストはゆっくりとタテイシの家の中に踏み込んでいた。


「かってに……いえに……!?」

「知らないのか? 正義の味方である超人はそこに必然性が証明されたら、他人の家だろうと何だろうと押し入ってもいいんだよ。黙って寝ていろ、お前は」


 スティンガーは無防備に寝そべるタテイシの脇腹に爪先を突き立て、タテイシは苦しそうに息を漏らす。


「おい!? 何をやってるんだ!?」

「切れるなよ、そこまで。ちょっと足が触れただけだろうが」


 スティンガーの暴挙にリアリストが怒りを露わにすると、スティンガーは面倒臭そうに溜め息をついていた。


「その人はあくまで参考人であり、今回の一件に絡んでいると決まったわけではない。その状態で君が好きにやっていい理由はないはずだよ?」

「だから、分かってるって」


 面倒そうに呟くスティンガーがリアリストの隣を通り抜けて、タテイシの家の中に入っていく。その後ろ姿を睨みつけてから、リアリストも同じようにタテイシの家の中に踏み入っていく。


「普通の家だな」


 踏み入ったリビングの中を見回し、スティンガーはそう呟いていた。「つまらない」と言いながら、順番に部屋の中に置かれた物を漁っているが、それで知りたい情報が得られるとは思えない。


「あの女と繋がっていたことは確かだ。あいつが口を割ったからな。俺達も知っていた。何かが関わっているのは明白だが、この家の中を調べて、それで何か分かるのか?」

「彼女を匿っているのかとも思ったけど、そのような様子もないね。本人から聞き出せれば良かったのだけれど、残念なことに私の権利はもう既に使ってしまったからね」

「なら……」


 そう言い放ったスティンガーが口元に笑みを浮かべ、リアリストはさっと制するように手を伸ばしていた。


「それはダメだよ。残念なことに彼にはまだ正当性がない。君の好きな正義の特権も、ここでは機能しないよ」

「チッ……だから、正義は嫌いなんだ」


 そうでなければ、今から好きにできていたのに、というようなスティンガーの態度に、リアリストは痛む頭を抱えながら、タテイシから話でも聞こうかと玄関の方に戻ろうとする。


 そこで引き戻した廊下を見渡し、すぐにリアリストは違和感に気づいた。遅れてリビングから出てくるスティンガーに目を向けて、リアリストは戻るようにジェスチャーする。


「おい、何だ?」

「君の目から見て、そのリビングとこの廊下の広さは釣り合っているかい?」

「ああ、どういう意味だ?」


 そう言いながら、スティンガーがリビングと廊下を見比べ、僅かに眉を顰めている。


「その奥に部屋があるんじゃないのか?」

「残念なことに、こちら側に扉はないようだよ」

「ああ、そういうことか」


 リアリストの気づいたことを察したのか、スティンガーは笑みを浮かべ、リビングの方に視線を戻していた。リアリストも同じくリビングに戻っていくと、スティンガーが壁際に立って、そこに置かれた物を順番に見ている。


「この中だと、流石にこいつか」


 そう言いながら、スティンガーは壁際に置かれた本棚に触れていた。倒そうと思ったのか、思いっ切り動かそうと力を込めてから、何かに気づいたらしく、ゆっくりと本棚を回すように動かし始める。


「ただの本棚じゃないな。動かす前提で固定されてる」

「みたいだね。隠したいものがあったようだ」


 そう告げるリアリストとスティンガーの前には、本棚の奥に隠されていた扉が現れていた。スティンガーはその扉に手を伸ばし、ゆっくりと開いていく。


「馬鹿暗い」

「照明のスイッチがどこかにあるんじゃないかな?」


 二人がそのように会話する中で、二人の声に交じって、僅かな呻き声がすることに二人は気づく。ゆっくりと壁を手探りでスイッチを探し出し、部屋の中の明かりをつけると、二人の視線はその声が聞こえた一点に向けられる。


「ああ、いたね」

「何だ、意外とあっさりと見つかるじゃねぇーか。ブラックドッグとパワーはやっぱり、大したことなかったな」


 そのように楽しそうに呟きながら、スティンガーはゆっくりと屈み込み、部屋の中で拘束されていた人物に顔を近づける。


「ようやく逢えたな、檜枝雪菜」


 その言葉にヒノエは怯えたような、震えた視線をスティンガーに向けていた。

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