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1-13.怪人と超人

 パペッティアの身体を押し潰すように、チャッピーとブリジットの頭が施設の壁に激突し、施設全体が僅かに揺れた。壁の一部は崩れて、破片が僅かに飛び散っている。


「やった……?」


 そう呟いたミトの前で、チャッピーとブリジットの頭が帰っていくように、変化した腕が元に戻っていく。


 押し潰したとはいえ、実際に押し潰したかどうかは分からない。


 だが、壁を破壊するほどの一撃だ。


 流石のパペッティアも無事ではないだろう。


 そう思うミトの前で、チャッピーとブリジットの頭が完全にミトの腕へと戻り、激突した壁の周囲が見渡せるようになった。


 そこにパペッティアの姿を探したが、ミトが探し始めた時点で、パペッティアの姿は忽然と消えていた。


「えっ……?いない……?」


 押し潰したかどうかは関係なく、パペッティアの身体自体は何らかの状態でそこにあるはずだ。

 それすらもないことはあり得ないが、ミトがどれだけ探しても、パペッティアの身体は転がっていない。


「逃げられたのかも」


 パペッティアの姿を探すミトの近くで、少女がぽつりと呟いた。


 あの状況から逃げられたのかと考えてみるが、相手は人智を超えた超人だ。ミト自身の力もそうだったように、何があってもおかしくはない。


「そう、なのか……」


 どこか残念に思う気持ちと、どこか安心する気持ちが重なって、ミトはその場にへたり込んだ。


 あまりに急なことが立て続けに起こって、未だにミトの気持ちは整理できていないが、何とか生きていることは間違いないらしい。


 それもこれも、助けに来てくれた少女がいてくれたからだ。

 それがなければ、ミトは今頃、パペッティアの作り出したマリオネットに襲われて死んでいたか、パペッティアのマリオネットになっていたことだろう。


「本当にありがとう」


 ミトが少女に素直なお礼の言葉をぶつけると、少女は僅かにはにかんで、小さく頷いた。初めて少女の表情がはっきりと変わる瞬間を見たかもしれない。


 それから、ミトはぐったりと倒れ込みかけたが、近くに動物が倒れていることを思い出し、慌てて身体を起こした。


「そうだ!皆は!?コシバさんは!?」


 そう叫びながら、ミトは慌てて周囲に目を向け、近くに倒れ込むコシバを発見した。


「コシバさん!?大丈夫ですか!?」


 コシバに声をかけながら、ミトはコシバの近くに駆け寄ってみるが、コシバはミトの言葉に一切の反応を見せない。


「起きてください!起きてください、コシバさん!」


 何度もコシバの名前を呼びながら、コシバの身体を何度も揺さ振ってみるが、そのどれにもコシバは反応することなく、ただ目を瞑っている。


 そうかと思えば、コシバはそれ以外の反応が見えないことに気づいた。


「えっ……?嘘、ですよね……?」


 そう聞きながら、ミトはコシバの口元に手を近づけてみるが、そこには何も感じない。

 慌てて首元に手を当て、手首を確認し、胸元に耳を近づけてみるが、何も聞こえてこない。


「ダメだ……()()()()()()……」


 コシバの胸元に耳を当てたまま、ミトは全身の力を失ったように項垂れた。目からは自然と涙が零れ、コシバの身体を濡らしていく。


 その言葉を聞いた少女も慌てて駆け寄ってきて、ミトが確認したようにコシバの身体を確認していた。


 それから、他の倒れた動物も確認していくが、どれも同じ結果だったのか、やや俯いたまま、少し動揺したように目を大きく見開いている。


「どうしてだろう……?さっきまで確かに生きてたのに……?」


 そう言ってから、少女は自身の手を見ていた。


「もしかして、私の電気で……?」


 少女は強い不安を懐いたらしく、両手を見つめる目は微かに震えていたが、ミトはコシバ達が最後に動きを止めた時のことを思い出し、小さくかぶりを振った。


「多分、違うよ……パペッティアの神経を切る時までは動いていたから、多分、操られていたことが原因だと思う……無理矢理に切ったのがいけなかったのか、それとも、別の何かがあるのか……どちらにしても……」


 ミトはゆっくりと身を起こし、眠ったまま動く気配のないコシバを見ながら、力強く拳を握り締めた。


「あの()()()()()()()()()だ……」


 そう呟いたミトの胸の中には、言いようのない黒い感情が石油のようにドロドロと渦巻いていた。


 その様子を見ていた少女がゆっくりと立ち上がったかと思えば、ミトの傍まで近づいてきて、不意に包み込むように抱き締めてきた。


「えっ……?えっ?えっ!?何!?」


 少女の柔らかさが憎悪に包まれたミトの全身を包み込み、ミトは盛大に狼狽える。


 まだ思春期のミトが少女の突然の行動に動揺し、赤面していると、不意にピリピリとした感覚に気づき、次の瞬間には全身を貫くような痛みに襲われていた。


「痛っ!?」


 思わずミトが叫んだ瞬間、少女が何かに気づいたのか、慌ててミトから離れる。


「ご、ごめん。その……辛そうだったから、励まそうと思ったんだけど、私、力の制御が下手で、それで……」


 どうやら、今の痛みは少女の身体から飛び出した電気らしい。

 本当に態とやったことではないようで、少女は申し訳なさそうに俯いたまま、零すように謝罪の言葉を言ってくる。


「いや、大丈夫……ありがとう」


 ミトが少女の優しさに礼を言うと、少女はゆっくりと顔を上げてから、今度は恐る恐る、ミトの手を掴んできた。


「あのさ……良ければ、だけど、()()()()()()()()()……?」

「えっ……?」


 不意に投げかけられた勧誘の言葉にミトは戸惑った。


「急にどうして……?」

「怪人はどこにいても、誰といても、ずっと超人に狙われて、一人で生きていくのは凄く危険だから。だから、私達と一緒にいた方が安心できる、と思う……多分……」


 尻すぼみに小さくなっていく少女の言葉を聞きながら、ミトは自宅で見た超人のことや保護施設で起きたことを思い返していた。


 確かにミトが一人で生きていくとすれば、これらの屍をいくつ作るか分からない。

 そもそも、ミトが一人で生きていけるのか、あの超人の力を思い出せば、分かったものではない。


 怪人組合。恐怖さんの印象もあって、あまり良い印象ではないが、ミトに縋れるものがあるとしたら、それしかないことも確かなようだった。


「分かった。入るよ、怪人組合」


 ミトがそう答えると、少女はパッと明るい表情で顔を上げて、嬉しそうに小さく微笑んでくる。

 その表情に思わずドキリとしてから、ミトは少女の名前も知らないことに気づいた。


「そういえば、まだ名乗ってなかったし、名前も聞いてなかった。僕は三頭晴臣。君は?」


 ミトがそう聞くと、少女はゆっくりと立ち上がり、ミトを立ち上がらせるように手を差し伸べてきた。


光崎(ひかりざき)(そら)


 そう少女が口にした名前を聞き、ミトは笑顔で差し伸べられた少女の手を掴んだ。


 こうして、ミトは怪人組合の一員となった。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 ミトがボランティア活動をしていた動物保護施設から歩いて数百メートルのところで、一人の男が力なく座り込んだ。

 震える手足を無理矢理に動かそうとしても、手足は言うことを聞かず、起き上がることもできていない。


 その男は普段、パペッティアと名乗っていた。


「クソがぁ……!怪人の分際で、俺に殺されないなんて、何考えてんの……!?」


 言うことの効かない手足を叱責するように叩きながら、パペッティアは恨み言を吐き捨てていた。


「ぼろぼろのようですが、どうされましたか?」


 そのパペッティアに声をかけるように一人の女が近づいてきた。

 ずれた眼鏡を片手で直しながら、女は倒れ込むパペッティアを覗き込んでくる。


 それは()()()()()()()と呼ばれる超人の一人だった。


「いつの間にかいないと思えば、一人で戦って、逃げてきたのですか?」


 アイアンレディの冷たい言葉に、パペッティアが露骨に苛立ちを見せながら、怒鳴り散らかすように声を出す。


「うるさい!そこの施設に例の怪人がいる!応援でも何でも呼んで、さっさと捕まえてこい!」

「そこの施設ですか?おかしいですね?さっき聞いた話と違いますよ?」

「移動したんだよ!いいから、行ってこい!」


 パペッティアの言動に不思議そうな顔を見せながらも、アイアンレディはスマホを取り出し、どこかに連絡を取り始めた。


 アイアンレディは基本的に御しやすい。適当なことも何でも信じる。人を疑うことを知らない純粋な性格だ。

 それ故、パペッティアは超人が二人で行動しなければいけないというルールを知った時、アイアンレディを相方にしたのだが、こういう必要な時にすぐ反応してくれない点はストレスが溜まるポイントだった。


 ただ今から応援を呼んでも、ここに超人が駆けつけるまで時間がかかる。

 それまでミトが大人しく待っているとは思えないので、応援を呼んでも実際にミトが捕まることはないだろう。


 そこまで考えた上で、パペッティアはアイアンレディに命令し、そして、心の中で固く決意した。


(あの動物野郎は絶対に俺が殺す!大切なもの全部ぶち壊して、死にたくないと懇願するまで嬲り殺す!)


 胸の内に強い憎悪を懐きながら、パペッティアは新たに生まれた決意に、歯を剥き出しにしながら笑っていた。

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