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1-12.帯電少女

 少女の登場に困惑するパペッティアと同じか、それ以上にミトは驚いていた。そこに立つ少女をまっすぐに見つめて、ゆっくりと口を開く。


「どうして、ここに……?」

「助けに来た」


 少女が倒れ込むミトに片手を差し出しながら、そう答えた。

 呟くようにぽつりと零された言葉に、ミトは目を丸くしながら、差し出された手を掴んで、ゆっくりと立ち上がる。


「助けに……?どうして……?」


 どうして自分を助ける必要があったのか、と疑問に思うミトの問いに、少女は答えることなく、不思議そうに首を傾げた。


「嫌だった?」

「いや、そういうことじゃないけど……」


 ミトの中で様々な疑問は湧いてくるが、取り敢えず、少女の登場はミトにとって救いだった。

 何が起きたのか、はっきりとは分からなかったが、少女の乱入がなければ、ミトはパペッティアの神経を身に受けて、今頃、コシバ達のようにマリオネットと化していたかもしれない。


「ああ、痛い……痛い……誰かも、何をしに来たのかも知らないけどさ。人を急に痛めつけるなんて、どうかしてると思わないか?これだから怪人は化け物って言われるんじゃないの!?」


 ミトに向けていた手を押さえながら、パペッティアは少女を問い詰めるように叫んでいた。

 ミトの中に湧いてきた疑問は解消できていないが、それを解消するだけの時間はここにはないようだ。


 そう思っていたら、パペッティアが再び片手を持ち上げて、今度はミトではなく、少女の方に指を向ける。


「無理矢理割って入ったからには、覚悟くらいはできてるんだよな!?なあ!?」


 パペッティアが叫び声を上げた直後、掲げられた指先から神経が勢い良く飛び出す。


「危ない!?」


 咄嗟にミトは叫んで、神経から少女を守るために動こうとしたが、その動きを阻むように少女はミトの前に飛び出し、飛びかかる神経の前に立ち塞がった。


「何っ……!?」


 少女の動きに困惑し、思わず理由を聞こうとしたミトの言葉を遮るように、バチンという激しい音がして、少女に近づいていた神経が弾かれている。


「痛っ!?」


 伸ばした神経と繋がる手を押さえながら、再びパペッティアが悶えるように叫んだ。


 さっきに続いて今も、パペッティアの神経を拒絶した少女の手段が理解できず、ミトは驚きで丸くした目を少女に向ける。


「何をしたの……?」

「私、()()()()()だから」


 少女はぽつりと答えたが、その返答に食いついたのはミト以上にパペッティアの方だった。


「静電気だぁ!?そんなレベルじゃないけども!?心臓が悪かったら、死にそうなくらいの電気を垂れ流して、何が静電気だぁ!?」


 余程痛かったのか、血走った目を少女に向けるパペッティアを完全に無視し、少女は着ていたパーカーをぎゅっと握り締めた。


「これ着てないと痺れちゃうくらいだから。あんまり触らないでね」


 やや困ったように、やや照れたように、少女がそう呟く姿を見て、ミトは戸惑いを抱えたまま首肯する。今はそれどころではない気もするが、自然と頭は縦に動いていた。


「おいおい!?無視か!?無視ですか!?気に食わないですね!?」


 パペッティアが怒りで早口になって捲し立てながら、両手を掲げて周囲の動物や倒れて気を失ったままのコシバに神経を飛ばした。


 それも今度は一本ではない。一匹の動物や一人のコシバに対して、数本の神経が繋がっている。


「電気だか何だか知らないけど、分散したら痛みは減るからねぇ!?これでもう、こっちは止められないねぇ!?」


 怒りから情緒がおかしくなったのか、パペッティアは笑いながら怒号に似た声を発していた。


 元からその気はあったが、今のパペッティアは明らかに狂人としか表現のしようがない状態だ。その振る舞いにミトはそれまでと違った恐怖を覚え、足が竦みそうになる。


 その一方、少女はパペッティアを一切、気にかけていない様子だった。


 パペッティアがコシバ達に神経を飛ばす様子を見ると、即座に近くに落ちていたハサミを手に取って、ミトに近づいてきた。ハサミをミトに手渡しながら、耳元で囁くように伝えてくる。


「私が動きの邪魔するから、これで切って回って」


 少女の言葉を聞いたミトがハサミを手に持って、パペッティアの指先から伸びる神経に目を向ける。


 確かにあれさえ切れれば、コシバ達の動きが止まることは証明済みだ。それを邪魔するコシバ達の動きが少女の電気に阻まれるのなら、それも可能かもしれない。


 ミトはハサミを持つ手に力を込めて、少女の提案を飲むように首肯した。

 それを見た少女がミトを守るように、コシバ達の前に立ち塞がる。


「やるよ……」


 少女がぼそっと呟いて、両手を勢い良く突き出すと、そこから眩い光と共に電気が飛び出した。

 電気はパペッティアと神経で繋がった動物達にぶつかって、動物達の動きを一時的に止めている。


「ああ、うざい!?」


 そう叫んだかと思えば、パペッティアが指先を細かく動かし、本当にマリオネットを操るように動物達を走らせ始めた。

 少女に飛びかかるように犬や猫が飛び出し、逃げ場を潰すように鳥が少女を上空から襲っている。


 その動きにも少女は表情一つ変えることなく、ひらりと身を翻して、後ろに逃げるように躱していた。犬や猫を華麗に躱す様は踊るようだ。


「ああ、もう!足から潰せ!」


 そう叫びながら、パペッティアが指先を動かすと、犬や猫の軌道が明らかに低くなった。少女の足元に絡みつくように飛び回り、少女も流石に面倒そうにしている。


「流石にしんどい……」


 少女の動きが少しずつ制限され、逃げる速度が明確に遅くなってきたタイミングで、犬や猫を掻き分けるようにコシバが飛び出した。

 少女の身体に掴みかかるように飛びかかって、ついに少女は体勢を崩してしまう。


「あっ、やっちゃった……」


 コシバと共に倒れ込み、尻餅をついた少女を取り囲むように動物達が移動してくる。

 その光景にパペッティアは満足そうに微笑んでいた。


「はい、おしまい」


 そう宣言し、パペッティアがコシバ達を仕掛けるように指先を動かす。


 その動きに連動し、コシバ達が動き出すよりも先に、少女は拒絶するように両手を伸ばし、そこから電気を拡散させた。

 四方八方に飛び出した電気が動物達の身体にぶつかって、パペッティアの神経を痛めつけていくが、当のパペッティアは顔を歪める程度で、さっきのように怯むことはない。


「これだけ分かれたら、痛みも分散して耐えられるようになってんの!それはもう無意味だから!」


 苦しみの底から笑みを浮かべながら、電気など意味がないと言わんばかりにパペッティアは指先を動かした。

 その動きに従って、動物達が少女に飛びかかろうとする。


 その直前だった。


 ミトは手に持ったハサミを掲げながら、少女に向いた動物達の背後に立って、繋がる神経を断ち切った。


 神経を切断した瞬間、遠くにいるパペッティアが痛みに悶える声を漏らしている。


「痛っ!?痛っ!?おいおい、痛いんだけど!?何してんの!?」


 信じられないと言わんばかりにパペッティアが吊り上がった目を見開いて、ミトをまっすぐに睨みつけてきた。


 その視線に怯みそうになるが、動物達がミトを見る前が勝負だ。ミトは急いで手を動かし、パペッティアと繋がる神経を順番に切っていく。


「やめろ!?」


 それを止めるためにパペッティアが指先を動かし、まだパペッティアと繋がったままだったコシバが動き出した。


 ミトに掴みかかるように飛び出し、ミトが思わず身構えた瞬間、横槍を入れるように閃きが目の前を通過した。


 どうやら、少女の放った電気のようだ。


 光はコシバに着弾し、コシバの身体を強く震わせながら、コシバと神経で繋がったパペッティアを痛みで悶えさせている。


「本当にもう……!?それ嫌い!?」


 そう叫んで、パペッティアは指先を動かそうとしていたが、その前にコシバの動きが止まったことを確認したミトのハサミが神経を切断していた。

 パペッティアが再び痛がるように声を出し、それから、完全に開き切った目でミトを睨みつけてくる。


「怪人如きがさ……何してくれてるの!?」


 怒りに打ち震える声を出しながら、パペッティアは腕を上げて、今度はコシバや動物ではなく、ミトに指先を向けてきた。


 さっきも見た光景だ。

 操られると思い、咄嗟に逃げようとしたミトの背後から、ふと囁くような声が聞こえてきた。


「怯えないで……」


 その声に耳を傾け、パペッティアの指先から飛び出した神経に怯むことなく、ミトは立ち向かうように両腕を上げていた。


 その行動にパペッティアが何かを確信したのか、口元にニヤリと笑みを浮かべた直後のことだった。


 ミトの背後から、ミトを囲うように電気が飛び出し、飛んでくる神経を遮った。


 バチンと激しい音が鳴って、神経を伝う痛みに怯んだパペッティアが、即座に状況を理解したのか、思わず声を漏らす。


「しまっ……!?」


 その時には既に遅く、ミトの掲げた両腕から、チャッピーとブリジットの頭が飛び出していた。


 まっすぐに飛び出した頭は一度も迷うことなく、前方に立っていたパペッティアの身体に正面から衝突する。


 その衝撃にパペッティアの身体は吹き飛び、部屋の壁に背中を強く打ちつけていた。


「あがっ……!?がっ……!?」


 空気の漏れるような音を口から漏らしながら、パペッティアは焦点の合っていない目で、必死に前方の様子を窺うように見ていた。

 ミトを探しているのか、それとも、ミトの腕から飛び出したチャッピーやブリジットを探しているのかは分からない。


 ただ周りをまだ認識できていないのなら、今の内に意識を刈り取らないと、再び酷いことになる。


 そう思ったミトが腕を力強く引きながら、大声で叫んだ。


「チャッピー!ブリちゃん!行け!」


 その叫び声に反応し、チャッピーとブリジットの頭が倒れるパペッティアに向いた。


「あぐっ……ああぅ……?」


 ミトの声が聞こえたのか、チャッピーとブリジットの見る先で、パペッティアも反応するように声を漏らす。居場所の定まっていなかった目がゆっくりと落ちついて、現実にフォーカスを合わせ始めている。


 それを待つことなく、その前でチャッピーとブリジットの頭が勢い良く動き出し、パペッティアに迫っていった。


「あっ……ああ……?」


 そして、パペッティアの瞳が現実を捉えた瞬間、その身体を押し潰すようにチャッピーとブリジットの頭が激突した。

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