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1-11.犬と犬と猫の腕

 高笑いするパペッティアがミトの視線に気づいて、不愉快そうに眉を顰めた。


「何だ、その目は?」


 そう呟いたかと思えば、神経でコシバと繋がった指を動かし、その刺激を受け取ったようにコシバがミトにゆっくりと近づいてくる。


「怒るのも勝手だけどさ。怒ったところで怪人にできることなんてないんだよ。さっさと悶え苦しみながら、死ぬ姿を俺に見せろよ!」


 滲み出るような笑みを口元に浮かべ、パペッティアが声を荒げた直後、その声に反応するようにコシバが動き出した。


 既にハサミを失い、素手になったコシバだ。流石のミトも脅威とは感じない。

 接近するコシバを拒絶するように、ミトは右手を伸ばした。


 その瞬間、ミトの右腕が肥大化し、色合いが変化したかと思えば、そこから、巨大な犬の頭が飛び出し、迫るコシバに頭突きを噛ました。

 コシバの身体が背後に吹き飛び、背中から壁に激突している。


 良く見れば、ミトの右腕から飛び出した巨大な犬の頭は()()()()()のものだった。


 その様子にパペッティアが舌打ちをしてから、倒れ込んだコシバを見下ろした。繋がった指を動かせば、ぶつけた背中のことを忘れたようにコシバが起き上がろうとする。


「酷いことするね。同僚じゃないの?」


 ニタニタと笑みを浮かべながら、パペッティアがミトの動揺を誘うように聞いてきた。


「酷いことをしているのはどっちだよ!?」


 ミトが反論するように叫んだ瞬間、ミトの声に呼応するようにチャッピーの頭が動き出し、起き上がりかけたコシバに、更に頭突きを噛ましている。


「ああ、ああ、大変だ。このままだとこの人、()()()()()()()()よ」


 残念そうに呟いたパペッティアの声が耳に届き、そこまで怒りに震えていたミトの動きが止まった。


「殺される……?」

「ああ、もしかして、()()()()()()と思ってた?」


 そう呟き、パペッティアが再び楽しそうに笑い出し、ミトはまさかとコシバや動物達に目を向ける。


「そう。その想像通りだよ。ここにいる人も動物も、誰一人として()()()()()()。言っただろう?ただ操られているだけさ」


 死んでいない。


 その一言からミトは施設に入った直後、蹴り飛ばしてしまった犬のことを思い出した。

 確かにあの犬はまだ息があった。


 あそこからパペッティアの操るコシバや動物達に襲われ、それらは勝手にもう助からないと思い込んでいたが、コシバも他の動物もあれと同じ状況なら、ここでミトは攻撃できない。


 元から、殺すほどの攻撃をする気持ちはなかったが、そこまでいかなくても、足を止めるだけの攻撃でも、僅かに残った命を奪ってしまうかもしれない。


 その恐怖に怯え、ミトの頭に冷静さが戻ってきた直後、パペッティアが再びニタニタと笑みを浮かべ、両手を広げた。


「さあ、それで、君はどうする?」


 そう声を上げた直後、パペッティアの周囲から、コシバと同じように神経で繋がった動物達が姿を現す。


 それらは全てまだ息があって、パペッティアの支配下に置かれ、ミトを襲ってくる状態だ。


「殺さないと、君が殺されちゃうよ?」


 そう呟き、パペッティアが楽しげに上げた笑い声を合図に、動物達が一斉に走り出してきた。


 向かう先には当然、ミトが立っている。


「こ、来ないで!?」


 そう叫びながら、ミトは右腕を思いっ切り引っ張って、逃げるように走り出した。


 チャッピーはミトに引かれるまま、移動を開始してはいるが、その視線は周囲の動物に目を向け、威嚇している状況だ。


「ダメだ!チャッピー!」


 今のチャッピーが攻撃したら、あの動物達を殺してしまう。

 その気持ちから、ミトはチャッピーを制し、チャッピーもそれに従う意思を見せるように、唸っていた声を静めている。

 取り敢えず、これで動物を攻撃してしまう心配はなくなった。


 そう思ったのも束の間、一匹の犬がミトの前に現れ、ミトに飛びかかってきた。

 チャッピーを止めるために意識を割いたことで気づかなかったが、先回りされていたらしい。


「うわっ!?」


 ミトは慌てて犬を避けるが、襲ってくる動物は一匹ではない。


 避ける動きの隙を狙うように、他の動物達も一斉に飛びかかってきて、ミトの首や手足を正確に狙ってきた。


「やめて!?」


 ミトが懇願するように叫び、飛びかかる犬を押しのけるように左手を動かした瞬間のことだった。


 今度は左腕が肥大化し、わん太郎やチャッピーの時のように変化したかと思うと、飛びかかってくる犬を一気に押し出していた。


 見れば、それは巨大な()()()()()の頭だ。


「ブ、ブリちゃん……?」


 ミトが驚きながら呟くと、ブリジットは鳴き声を一つ上げ、ミトに迫る動物を蹴散らすように頭を叩きつけ始める。


「ま、待って、ブリちゃん!?そんなことをしたら死んじゃう!」


 ミトがそう訴えても、チャッピーとは違って、ブリジットが止まる様子はなかった。右に左に頭を振り回し、迫る動物を薙ぎ倒している。


 その光景に遠くから舌打ちの音が届いた。

 音の発生源に立っているのはパペッティアだ。


「思っているよりも、その腕は厄介だな。ちょっと静かにしようか」


 そう言いながら、パペッティアは手を上げて、指先から神経を飛ばした。


 その先にはミトの言うことを聞いて、大人しく待っていたチャッピーの頭がある。


「チャッピー!」


 ミトが咄嗟にそう声をかけるが、チャッピーが動くよりも早く、神経をチャッピーの頭に到達していた。


 そこに神経が繋がったかと思えば、チャッピーはゆっくりとこちらを向いて、焦点の合っていない目でミトを睨みつけてきた。


「チャッピー!?」


 そう叫んだミトの声を合図にするように、チャッピーが一気に動き出し、ミトに頭だけで迫ってくる。


 頭突き。その威力はコシバが食らう様子を見ていた。


 思わずミトが迫るチャッピーの頭に身構えた瞬間、その動きに引かれるようにブリジットの頭が移動し、チャッピーの前に飛び出した。


 ゴンと鈍い音が鳴って、チャッピーの頭が停止する。

 その中ではブリジットが唸るような声を漏らし、ミトはこれまでの経験から、そこで何が起こるか、すぐに察した。


 ()()だ。


 ミトがそう思った時には遅く、ブリジットがチャッピーにのしかかるように頭を伸ばしていた。チャッピーはそれを拒絶するように頭を振り上げ、ブリジットの顎にぶつかっている。

 それがブリジットの怒りを増したようで、ブリジットは大きく唸り声を上げてから、チャッピーに勢い良く噛みついた。チャッピーが悶えるように鳴き声を漏らし、噛みついたブリジットを振り払うように頭を揺すっている。


 その光景を前にし、パペッティアは驚いたように目を丸くしながら、ニタニタと笑みを浮かべていた。


「おいおい、これは想定外だが、中々に良いショーじゃないの!」


 チャッピーとブリジットの喧嘩をショーとして楽しむ様子のパペッティアにミトの怒りは沸き立ったが、今はその怒りを発散している場合ではなかった。


 チャッピーとブリジットの喧嘩を止めないといけない。


 そう思ったミトが思いっ切り引っ張られる腕を手元に引き寄せながら、叱るように二匹に声をかける。


「やめなさい!」


 しかし、状況は変わらない。


 チャッピーとブリジットは相変わらず、絡み合ったままだ。


「いいから、やめなさい!」


 更にミトは声をかけるが、二匹が止まる様子はない。


 それを見たミトが大きく息を吸い込み、腹の底から声を出した。


「やめろ!」


 その声が響き渡った瞬間、チャッピーとブリジットがピタリと動きを止め、静かになったと思った直後、姿を隠すようにミトの腕が元に戻った。


「お、収まった……?」


 ほっと安堵し、ミトがそう呟いたのも束の間、ミトは強い衝撃に襲われ、その場に倒れ込んだ。


 見れば、さっきまで倒れ込んでいたコシバがミトの上に乗りかかっていた。


「コ、コシバさん!?は、離れてください!?」


 そう言いながら、ミトは必死にコシバを押し返そうとするが、コシバは離れる素振りを見せてくれない。

 それどころか、がっちりとミトの両腕を掴んで、動きを止めようとしてくる。


「よしよし、いい子だ。これでもう抵抗できない」


 パペッティアの呟く声がいつの間にか、ミトの近くから聞こえてきた。


 ゆっくりと接近しながら、パペッティアが手をミトにまっすぐ向けてくる。

 必然的に()()()()()()()()()()()


「何をしようとして……?」

()()()()()()()()()だよ」


 パペッティアがニンマリと笑みを浮かべ、ミトが言葉を発するよりも先に、指先から神経を飛ばした。


 その直後のことだった。


 部屋の中を一瞬、()()()が通過したかと思えば、コシバが気を失ったかのように倒れ込み、ミトに神経を飛ばそうとしていたパペッティアが苦痛に顔を歪めながら、ミトから離れていた。


「痛っ……!?」


 思わず苦痛の声を漏らしながら、パペッティアはミトに向けていた手を押さえている。


「何だ……?何しやがった!?」


 パペッティアがそう叫んだ瞬間、ミトのすぐ近くから声が聞こえた。


()()……()()()()()()()……」


 ぼそぼそと呟くように聞こえた声に引かれ、ミトがゆっくりと顔を上げる。


 そこには、恐怖さんの屋敷で逢った()()()()()()()()()()が立っていた。

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