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4-11.疑惑の密会

 超人二名の襲撃を受け、命辛々に逃げ出した直後ということもあり、屋敷の案内という名目ながらも、休める場所に移動する――という話から始まったはずだった。


「はーい、ここがビデオルームッ!」


 先頭を切って突き進むヒメノが廊下に面した扉を大きく開きながら、そう告げた。扉の上にはプレートが掲げられ、そこには『Video room』の文字が書かれている。入るまでもなく、それを見た段階で休めるような部屋ではないだろうと思っていたが、ヒメノの開け放った部屋の中身は、正にそういう部屋だった。


 端から端まで、一定の間隔で棚が並べられ、その棚にはみっちりとDVDなどの映像ソフトが並べられている。中にはVHSなども置いてあるが、それらの多様さよりも、それらしかそこにはないことの方にミトは驚きすらあった。


「あの、ヒメノさん? ここで休憩するんですか?」

「ううん、ちゃうよ? ここは道中の紹介」


 さっきから、このように言っては関係のない部屋の扉を開けること、既に七回目だった。


 古今東西の気になった楽器を並べたという楽器ルーム。小学生に流行りのTCGを集めたカードルーム。昆虫標本を壁一面に並べた昆虫ルーム。タイトルも知らないようなB級映画のポスターを掻き集めたポスタールーム。形から長さまで、様々な杖を壁に立てかけたステッキルーム。牛乳瓶の蓋だけで作ったアート作品を並べたミルクルーム。そして、今のビデオルーム。


 ヒメノ曰く、どれも屋敷の主人――つまりは恐怖さんの趣味であるらしいのだが、とにかく部屋というよりも倉庫や観賞用のファイルに近いイメージを持つ部屋ばかりで、落ちついて休める部屋は全くなかった。


 そのことでふと思い出すが、ババと対面したり、カザリの仕事を聞いたりした談話室の存在を知るまで、話があると言われた時に向かう部屋は個人に与えられた部屋だった。

 あれはつまり、これだけ広い屋敷でありながら、人が集まって話せるような場所は限られているという意味かもしれないと気づき、ミトは何だか恐ろしくなる。


 もしかして、恐怖さんとはこういう意味合いかと思いながら、ミトとカザリは困惑した表情のまま、ヒメノの後をついて歩き始める。


「えっと、そこがミトくんの知らん怪人の部屋で、その向こうにあるのが大浴場やね。せっかくやし、お風呂でも入ってく?」

「いやいや、ヒメノさん。そんな急にお風呂って……ん?」


 ヒメノの急な提案を諫めようとした時、ミトはヒメノがさらっと大事なことを言っていた気がした。


「今、何て言いました?」

「だから、そこが大浴場やって。覗いたらあかんで?」

「の、覗きませんよ!? い、いや、そうじゃなくて、その前……」


 ミトがヒメノの口走ったことを聞き出そうとした時のことだった。ミト達の正面から特徴的な見た目をした人物がこちらに歩いてきて、その姿を見つけたカザリがぎょっとした表情を見せる。


「おやおや、これは皆でお散歩中かい?」


 シルクハットの下から覗かせた口元を大きく開くように笑い、恐怖さんがそのように聞いてきた。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 ヒナコに声をかけたヤクノはその足で、談話室を訪れていた。その中に入って、そこに置かれた椅子に腰を下ろすと、早速、ヒナコの方からヤクノに質問を投げかけてくる。


「それで、話って何なん?」

「ヒナコさんは、花厳あやめをどう見ましたか?」

「どうって、どういう意味?」


 ヒナコが冷たい眼差しを向けながら、ヤクノの言葉を待っている。その視線にヤクノはゆっくりと言葉を考えながら、自身の感じた疑問を口にしていく。


「花厳あやめ、というよりも、それを追跡してきた二人の超人の行動が少し不可解なものでした」

「と、言うと?」

「まず、俺達はババの考えた馬鹿な策に乗る形で、花厳あやめと接触したのですが、超人二人はその時点で花厳あやめと、それと接触したミトのことを把握していたようでした」


 ヤクノはミトがカラオケ店で二名の超人と接触し、そのことを伝えてきた後のその超人達の言動を思い返す。二人の超人は最初から花厳あやめを尾行し、あの場所を訪れたようだった。


「その後、カラオケ店でミトに接触し、再び花厳あやめを確認するまで、あいつらは動く気配がありませんでした。ですが、もしも、そこに至る前に姿を確認したのなら」

「その時点で襲ってくるはずやのに、何故か、()()()()()()()()

「それだけではありません。ミトに対して、花厳あやめの写真を見せて、こちらの逃走を促す動きを見せてきました」


 ミトと接触した際、自分達が超人であると悟らせる行動を一切起こさなければ、ミトは二人が超人であることに気づかず、ヤクノ達は必然的に超人が迫っている事実を知らないまま、二名の超人に捕らえられていたか、殺害されていただろう。

 それが可能な状況にありながら、何故かバトルシップとタイタンはそれを捨て去る行動に出た。


()()()()()()()()。そう考えとるわけか?」

「その可能性も捨て切れないかと」


 疑いの気持ちは持ちながらも、ヤクノは断定できずにいた。それらの可能性を考慮したら、バトルシップとタイタンがカザリを含むミト達を意図的に逃がしたように思えてくるが、そうだとしたら、あの路地でミト達を襲ってきた時の行動が分からない。

 あれはヤクノがいなければ、確実にミト達を始末できていた行動のはずだ。逃がす行動との整合性が取れない。


「ただ、その後の攻撃は正しく、こちらを殺しにかかるものでした。逃がしたと考えると、その部分が引っかかります」


 ヤクノが気づいた疑問を口にすると、ヒナコは聞いた話から、考えをまとめようとしているのか、難しい顔をしたまま俯いていた。


「私もね。あの子のことは少し気になったんよ」

「花厳あやめですか?」


 ヤクノの問いにヒナコは頷きながら顔を上げ、思い出すように僅かに視線を上に向ける。


「超人に追われて、ようやくここに逃げ込んだら、ちょっとは落ちつくもんやろう? それが何やあの子、どこかまだ気ぃ張った顔をしとった。そこが気になったんよ」

「気を張った……やはり、もう一度……」


 ヤクノがそう言いかけたところのことだった。


 不意に談話室の扉が勢い良く開かれたかと思うと、飛び込むようにババが入ってきた。


「おい、ヤクノ!?」


 そう叫びながら、ババは両手を構える。その手には、特注の手袋が嵌められている。


「やっぱり、ヒナコさんを狙ってやがったな!?」

「はあ? 何のこと……」


 ヤクノが聞き返そうとした瞬間、ババの拳がヤクノの顔に迫ってきた。ヤクノは寸前のところで回避し、自分に殴りかかってきたババを睨みつける。


「何しやがる……?」

「それはこっちの台詞や!? あんだけ興味ない振りしといて!? もう何もできんように、ここで殺したる!?」


 ババが拳を振り被り、それをヤクノは避けながら、もう片方の拳を掴むように手を伸ばす。その動きに気づいたババが下がろうとし、置かれた椅子に足を取られて、その場に盛大に転がる。


 その隙にヤクノがババの喉を狙うように手を伸ばそうとした時、横から手が伸びて、ヤクノの首元に指が触れた。ヤクノがピタリと動きを止めて、ゆっくりと目を横に向ければ、ヒナコが右手の小指をヤクノの首に当てているところだった。


「はい、そこまでにしい。こんなところで喧嘩するとか、お前らいっぺん死にたいんか? ……おっと、失礼。汚い言葉が出てしもた」


 ヒナコの怒声を受けて、ヤクノとババは大人しく拳を下げて、ゆっくりと身を起こす。それに伴って、ヤクノの首元に当てられていたヒナコの指も離れ、ヤクノは緊張から解放されたようにゆっくりと息を吐き出す。


「今日はそのまま部屋で頭冷やし。次、こんな狭いところで喧嘩始めたら、その時は分かっとるやんな?」


 ヒナコが小さく口元に笑みを浮かべ、ヤクノとババは不本意ながらも、小さく首肯することにする。


 そのまま二人は無言で談話室を後にし、お互いに目を合わせることなく、それぞれの自室に帰るために歩き出した。

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