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4-10.セーフルーム

 その後、バトルシップとタイタンの追撃を受けることなく、ミト達は無事に恐怖さんの屋敷まで帰ることに成功していた。転がり込むように屋敷の中に雪崩れ込み、ミト達はそこで待っていたサラさんに出迎えられる。


「お帰りなさいませ」

「ただいま」


 ソラがサラさんに返事をする一方、カザリは辿りついた屋敷の仰々しさに驚いた様子だった。怪人の一般的なイメージからすれば、その怪人が隠れている場所は、陰鬱そうな地下とかだと考えていたのだろう。ミトも知らなければそう思っていたはずだ。


 元気そうなソラやカザリとは対照的に、ヤクノとババは屋敷に入ったところで、へたるように座り込んでいた。

 二人はタイタンや希望の化身と正面からやり合って、疲労が溜まっている状態のはずだ。この様子も仕方ない。


 そう思っていたら、玄関付近の騒ぎを聞きつけたのか、屋敷の奥から人が歩いてくる。


「おおー、無事に帰ってきたんか?」

「それで、どないやったの?」


 そう聞きながら姿を見せたのは、ヒメノとヒナコの二人だった。


「ヒ、ヒナコさん……!?」


 ほんの数秒前まで、電池が切れたように座り込んでいたはずのババが慌てて立ち上がり、何でもないと言わんばかりにヒナコに近づいていく。


「無事に任務を達成しました! 彼女が花厳あやめさんです!」


 ババがカザリを手で示し、ヒメノとヒナコの二人に紹介すると、カザリは怪訝げに二人を見ながら、ゆっくりと頭を下げた。


「ふーん……連れてきたってことは、大丈夫って判断なんやね?」

「それはもちろん」


 ヒメノの確認にババは頷き、カザリに近づいていく。ヒメノの鋭い視線に晒され、カザリは戸惑いの表情を浮かべ、今にも逃げ出しそうなほどに足を後ろに下げている。


「いやいや、なら、ええんよ。ようこそ怪人組合へ」


 ヒメノがカザリの手を取りながらそう告げると、カザリは驚きながらも安心したのか、ゆっくりと笑みを浮かべて、ヒメノに挨拶していた。


「それで、何があったん?」


 カザリとの対面を済ませたヒメノがヤクノに目を向け、ヤクノは溜まった疲労を吐き出すように大きく息を吐く。


「彼女は超人の追跡を受けていました。その超人を振り払うために戦闘に発展。逃走に専念することで何とか振り切りました」

「ほう……? どんな超人やった?」

「バトルシップとタイタン。そう名乗ってました」

「超人が? 自分から名乗ったん?」


 ヤクノが首肯すると、ヒメノは怪訝げに眉を顰める。その対応はミト達も驚いたものなので、当然と言える反応だろう。


「力は見たん?」

「タイタンという超人は手足を巨大化させてきました。その名前のように全身を大きくできる可能性があると思います。もう一体のバトルシップの方は……」


 そこまで言い、ヤクノが口籠ると、ヒメノは苛立ちを募らせるように鋭い視線をヤクノに向ける。


「何や? はっきりと言わんか?」

「リーゼントを巨大化させてきました」

「何て?」

「リーゼントを巨大化させてきました。それで俺達の逃走経路を潰してきました」


 ヒメノがヤクノから目を逸らし、こいつは大丈夫なのかと確認するような目で、ミトとソラを見てきた。


 が、ヤクノは何一つとして嘘を言っていないので、ミトとソラは揃って首を縦に振る。


「えっ? ホンマなん?」

「それだけではなく、巨大化したリーゼントの中から、中身のない鎧が出てきました。西洋の騎士が着ているような鎧です」

「あかん……もう何言っとるか分からんようになってきた……」


 実際の状況を知らないヒメノは非常に混乱している様子だった。実際の状況を知っているミトでも、言葉だけで聞いたら意味が分からないと思うのだから、それは当然の反応と言えるだろう。

 だが、ヤクノは何も嘘を言っていない。


「バトルシップはその鎧のことを希望の化身と呼んでいました。その鎧は自己修復能力と、触れた他人の傷を癒す治癒能力を持っていました」

「よう、分からんけど、厄介そうってことだけ分かったわ」


 ヒメノが理解できる範囲で、一応の納得を得ようとする中、ヤクノの話に割って入るようにババが大きく手を広げ、ヒナコの前でアピールするように声を上げた。


「何と! その鎧を破壊したんが、この俺です!」

「ああ、そうなんやね。がんばった、がんばった」

「適当!?」


 ヒメノの子供をあしらうような対応にババは不満を叫び、ヒナコに必死にアピールしようとしていた。


 だが、当のヒナコはババに興味がないようで、ババの話に適当な相槌を返しながら、皆の様子を戸惑った感じで見ているカザリをじっと見つめている。


「まあ、命辛々逃げてきたってことやもんね。それなら、ええでしょ」


 ヒメノが話をまとめるようにそう宣言し、ミト達の方に目を向けてくる。


「ほな、カザリさんを受け入れるとして、屋敷のことを何も知らんのもあれやと思うから、連れてきた四人で案内してあげ。その間にサラさんが部屋の準備を済ませてくれるはずやから」


 ヒメノがサラさんに目を向けると、サラさんは軽く会釈し、そそくさと屋敷の奥に歩き始めた。ミトは自分がカザリを案内できるのかと不安に思うが、ソラやヤクノもいるなら、問題ないだろうと思ったところで、ヤクノとババが同時に声を上げる。


「いや、すみませんけど、俺は無理です」

「俺も、あんま言いたないけど、ちょっときついですね」

「ああぁ? 何や?」


 ヤクノとババが揃ってギブアップを宣言すると、ヒメノは怒りの籠った目を二人に向ける。それを見たミトが慌ててヒメノの前に立ち、二人を庇うように手を伸ばす。


「二人は! 超人から逃げるために頑張ってくれたので、今日はもう休ませてあげたいです!」

「ふ~ん……? そうなん?」


 ミトの言葉を受けて、ヒメノが確認を取るようにソラやカザリを見る。二人は首肯し、ヒメノは仕方ないと言わんばかりに溜め息をつく。


「なら、ミトくんとソラだけやったら大変やと思うし、私もついていくか……カザリさん、見回るか休むか、どちらにしても、ついてきてくれるか?」

「は、はい。それはもちろん」


 カザリが返答し、ミトとソラ、ヒメノの三名はカザリを連れて、屋敷の中を移動することが決定した。


 その後ろで座り込んでいたヤクノが身を起こし、こっそりとヒナコの近くに移動する。


「ヒナコさん、いいですか?」

「何や? どうしたん?」

()()()()()()()()()()()()()()()が」


 その一言を聞いたヒナコが怪訝げに眉を顰め、小さく「分かった」と答えながら頷いていた。

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