闇を抱えた少女
ユズキがここへやって来た――否、閉じ込められたのは、更生のためだった。
彼女は、十五歳にして重大犯罪を犯した殺人鬼である。
友人を殺し、彼氏を殺し、そして母親にも手をかけた。実名は晒されなかったものの、世の中に『猟奇少女』として名を馳せたのだ。
ユズキ自身に言わせれば、あれは猟奇殺人なんかではない。
彼女は人を愛する度、その人の命を奪うのだ。……彼や彼女の最期を素敵に飾ってあげたくて、だから血に手を染めた。
初恋の人がいた。彼は……抱き合った時に、ナイフで胸を刺して殺した。
仲の良い友人がいた。トンカチで頭をかち割って彼女を殺した。
母親は本当に大好きだった。だから池に沈めて殺めた。
殺めることがユズキの愛情表現であり、恋し方。
なのに世の中はそれを『悪しきもの』と決めつけて、彼女を逮捕し更生施設に送り込んだ。
それがここ、『バーチャル学園』である。
もちろん他の生徒もユズキと同じような境遇の者たちだ。
例えばサヤはストーカー少女だし、スズカは金持ちなのをいいことに賄賂を渡しまくって悪事を働いた悪の令嬢だし。
窃盗犯、暴力少年、元ヤクザ……。そういった『心の闇』を抱えた者たちが皆ここへ集い、更生するまでの期間を過ごす。
基準として定められたのが点数だ。点数を満たせば更生したことになり、ここを出られる。
ここを出る、つまりログアウトすれば元の体に戻り、現実の生活をできるということ。多くの者がそれを目指して更生の日々を送るのがこの学園の役目だった。
ユズキも更生のため、努力に努力を重ねた。
こんなところで閉じ込められるのは嫌だ。今すぐ出たい。
だってユズキは、人への愛の向け方以外は、至って普通の少女なのだから。遊び、喋り、食べて寝る。平穏な生活が大好きで、だからこそ頑張っていたのに。
シンゴに恋をして、己の愛情が抑え切れなくなってしまった。
彼が好きだ。好きだ好きだ大好きだ。だから殺したい。殺めたい。彼の最期を見届けて、抱きしめてあげたい――。
告白した瞬間、ずっと堪えていたその思いは爆発して。
ユズキは彼の首を、締め上げていたのだ。
「やめなさいよっ」
スズカの声がする。
サヤがすぐ背後で腰を抜かしていた。ユズキの傘下の生徒たちも目を見張ってそれを見ていた。
けれどユズキは彼らのことなどどうでもよかった。
両手にある感触が気持ちいい。これは本物、まさに本物だ。
確かな『死』の感触を得て、ユズキはうっとりとする。
このままじっくり殺してやろうか? いいや一瞬で楽に逝かせてあげよう。きっとその方が彼も喜ぶだろうから。
しかしその時、後頭部に衝撃が走った。
「うっ」膝から力が抜け、ガクッと前のめりに崩れ落ちるユズキ。
何があったかわからないままに見上げると、彼が拳を固めてこちらを見つめていた。
……ああ、殴られたのか。
そのまま動けないでいるユズキを、スズカや他の生徒たちが取り囲む。
どうやら失敗したらしいことに気づき、ユズキは大きく落胆した。
「私の愛は、届かなかったんだ」
どうして? どうして見捨てるの?
私はただ愛したいだけなのに。あなたと一緒にいたいだけなのに。大好きなだけなのに……。
どうして? 一緒に料理したじゃない。一緒に笑ったことだってあった。あなたは私の部活の手伝いだってしてくれて、なのに……。
改めてシンゴに目をやる。
彼は憎悪の色を瞳に灯している。それはひどく冷たくて、少し悲しくなった。
「ここでは誰も殺せないんだ。今のだって殴ったんじゃない。ショックを与えただけだ。……くたばれ、殺人鬼め」
『正義の鬼』――シンゴが、冷静にそう言い放つ。
まもなく学園運営者たちがやってきた。