殺したいくらいに愛してる
「あんたの想い人への気持ちを書き出してみるのよ。さあ早く」
実際彼氏を作っているサヤに比べ、スズカはどこまで信用できるのだろう?
そう思いつつも、ユズキはスズカに言われるがまま、ノートに彼への想いを綴ってみる。……これは何かの罰ゲームなのか? 恥ずかしすぎる。
『好き』
『かっこいい』
『優しい』
『美男子』
『声が好き』
『料理が美味しい』
『お嫁さんになりたい』
『好きすぎて胸がはぜそう』
『死ぬくらい好き』
『好きすぎる』
『胸熱』
『キュンキュン』
『好き』『好き』『好き』『好き』
「……ちょっとストップ」
「え、どしたの?」
急にノートをひったくられたので、ユズキは目を見開いて驚いた。
「あんた、もはや『好き』しか書いてないから。好きなのはわかったからもういい」
「あっ。ごめん」
ユズキは慌ててノートを見返した。本当だ、ほとんど『好き』で埋め尽くされてしまっている……。
「それだけあの男が好きなのね。じゃあもうそのままぶつけちゃいなさいよ」少し面倒臭そうにスズカは言った。
彼女の表情から見て、内心もうどうでもいいように見える。おそらく、突撃の手しかないと判断したからだろう。
「そもそも、どうせ類似恋愛なんだから好きにすれば? 深く考えたって頭が真っ白になったら意味ないでしょ」
「まあ、確かにそうかも……」
「アタシが見といてあげるから、とりあえず書き出した言葉を全部言っちゃいなさい。今日の放課後。いいわね?」
スズカはきっとこれを遊びか何かだと思っているに違いない。
もちろんのことこれはバーチャル空間であるから、実際に告白をしたところで何ができるわけではない。触覚はあるけれど快感はないわけだし。
サヤの言う通りで近くでずっと一緒にいるのがいいか、スズカの意見に従って突撃か。
しばらく悩んだが、きっとじれったいことは私には無理だろうとユズキは思った。きっとすぐにボロを出してしまうに違いない。それだったら最初から突撃したほうがいい。
「私、告白してくる」
「そうなさい」
スズカに背中を押され、ユズキはシンゴの元へ向かったのだった。
「シンゴくん」
――放課後の校庭。
取り巻きを押し退けて、彼の元へ行く。
憧れの彼はユズキにはいつでも輝いて見える。が、今日は一段とかっこよく思えた。
どうして自分がここまで彼に恋したのか。それはきっと、『彼』と似ていたからだろう。
思い出の『彼』と目の前の彼を重ねて、熱い恋情を向ける。
シンゴがこちらに気づいて歩み寄ってきた。「やあ、どうしたんだい」
多くの人が見ているこの場所はふさわしくないだろう。でも構わない。ユズキは周りのことなどちっとも気にしなかった。
「シンゴくん、伝えたいことがあります」
「……何?」
「私、あなたが好きです。結婚してください」
ユズキの顔が真っ赤になった。
感情を顕著に表すアバターの表情ではそれを隠すことすらできない。茹で蛸みたいな赤い顔のまま彼女は続ける。
「私、優しいシンゴくんが好き。声が好き、見た目が好き。何もかも全部大好きなんだ。お料理美味しいし最高だからお嫁さんになりたい」
呆然となる相手のことなど全く気にせず、叫んだ。
「私、あなたを殺したいくらいに愛してる!」
直後、抑え切れなくなったユズキは、彼の首を絞めていた。