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恋してしまった

 ――あれからユズキたちの部活はとても順調に活動を続けている。


 シンゴの派閥の子たちも引き込めたわけだし、友達はさらに膨れ上がる。料理を作り合い食べ合って、とても楽しい毎日を過ごしていた。


 しかしユズキは自分の心がそれだけでは満たされていないという事実に気づく。

 なぜか。その答えは極めて簡単なことだった。

 彼女はいつの間にか、シンゴのことが好きになってしまっていたのである。


 シンゴは同じ料理部に所属し、毎日会って話している。

 そのうちに彼の魅力を知り、ユズキはゾッコンになってしまったのだ。


 彼の声が好きだ。顔が好きだ。彼が作る料理が好きだ。彼の微笑みが好きだ。


 ……けれど、認めたくないけれど、これは全てVR――つまり仮想。

 実際のシンゴはもっとブサイクで、荒々しくて、吐き気のするような男かも知れない。本当の本当にまともな人間であればこんな場所にいるはずがないからだ。


 だがしかし、ユズキの胸はこんなに熱く、彼の顔を見るだけで胸がときめく。この感情を一体どうしたらいいのか自分ではわからなかった。


 彼になんと話しかけていいのかわからない。

 近くにいるだけで顔が赤くなってしまう。恥ずかしくて近づくこともできなくて、そんな自分が嫌になる。


 横目に見ると、あの臆病だったサヤが別の男子生徒とイチャイチャしていた。……すごいな、と思わず口から漏れそうになる言葉をグッと堪えた。


 ユズキは現在2500ポイントを持っている。入学してから三ヶ月でこの成績なのだから、きっと、一年以内には卒業してしまうだろう。

 長くここに留まっていたいわけではない。だからこそ思い残すことはないようにしたかった。


 気づけばユズキは、サヤに相談をしていた。


「……ひ、人に告白、する方法?」


「そう! 実は私、好きな人ができちゃったんだよね」


 ユズキが彼へ想いを寄せていることを伝えると、サヤは頷き、辿々しいながらもこんなことを言ってくれた。


「え、えっとね。うんと、あの……。ま、まずは、相手を好きにさせなくちゃ、ダメ……だよ?」


「どうやって好きになってもらうの?」


「ち、近くにいれば……おのずと好きになってくれる、から。とにかく、近くにいて、み、見てれば、いいと思う」


 弱々しい、けれど自信たっぷりな声。

 ユズキは彼女の言葉に力をもらえた気がした。


「ありがとう! そうしてみるよ!」


 とにかく、好きな人のそばにいることが大事。

 確かに考えてみればそうかも知れない。実際、サヤはそれで成功しているわけだし。


 そんな考えをしていると、ふとスズカと出会った。


「あ、スズカさん」


「聞いたわよ? あなた、あいつに恋愛相談してたでしょう」


 スズカは厳しい声で言った。

 もしかして見られていた? 思わず顔が赤くなるユズキ。

 そんな彼女に構わず、スズカは続ける。


「あの子の言葉を信用しちゃダメ。たまたま聞いたのだけど、あれって完全にストーカー思想じゃないの」


「ストーカー?」


「あんたは浮かれててわかんないかも知れないけどあんなのじゃ好きな男子のハートを掴めないわよ」


 ちょっと馬鹿にするように笑っていたので、ユズキは腹が立った。だがここはスズカの話に耳を傾けるべきだろう。「じゃあどうしたらいいの?」


「決まってるじゃない。告るのよ」


「こく、る?」


「いいわ。アタシをあんたの部活に入れてくれるなら、ちゃんと教えてあげる。どう?」


 ……ユズキは戸惑った。

 この意見もまた有用かも知れないと思ったからだ。


 確かに言われてみればサヤの意見はストーカー的思想な気もする。成功しているとはいえそれはたまたまからも知れないのだ。でもだからと言ってスズカの意見を丸呑みにしてもいいのだろうか?

 悩んだ結果、スズカに頼ってみることにした。


 ユズキはスズカを料理部の部員にする代わりに、スズカに恋愛サポートをしてもらうことになった。

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