部活
「料理部ですって? 何それ」
スズカは形のいい眉を顰めてそう言った。
彼女のアバターはかなりの美形に作ってあるが、実際の体はどうなのだろう。もしかして見た目最悪のブスだったりはしないだろうか、とユズキはぼんやり思った。
それはいい。話を戻そう。
「スズカちゃんって、美味しいもの好きでしょ? だから一緒に作りたいなあって思って」
そう言うと、スズカは困ったような顔をした。
「でもアタシ、吹奏楽部を作るつもりだったのよ。それは諦められないわ」
「うーん。吹奏楽部は面白そうだけど、みんなが吹けるわけじゃないでしょ?」
「そんなことを言ったら料理ができる子の方が少ないわよ。現にアタシも食べるのは好きだけど作るのはやったことないし」
スズカへの協力要請は無理だったらしい。
第二派閥のリーダーである彼女を引き入れられれば心強かったのだけれど……そうはうまくいかないものだ。
ユズキは頭を悩ませた。
確かにスズカの指摘通り、料理に興味があるのは少数だろう。
ひとり親家庭であったから料理を作ることが多かったこと、母がいつも美味しいと言ってくれるのが嬉しかったこと。
そんなことから、ユズキは料理を作るのが幼少の頃から大好きだった。そしてそれは今も変わらない。
せっかくの学園生活、楽しいことがしたいものである。が、生徒の自由行動は完全には認められていなくて、今は料理を作ることができないでいた。
だからユズキはどうしても料理部を立ち上げたいのだ。料理仲間ができたらそれはそれで嬉しいし。
自分の派閥とスズカの派閥の子に声をかけると、五人くらいは集まってくれた。
でもこれではスズカの吹奏楽部にはとても敵わない。部活が選ばれる基準は賛成した人数であり、そして、事実上スズカと対立勢力であるユズキは、もしも選ばれなかった場合、何の部活にも入れなくなってしまう。
悩みに悩んでスズカは、今までコンタクトを取ってこなかった最大勢力のリーダー――シンゴに接触することに決めた。
シンゴは、クラスで一番の人気を誇る男子生徒である。
成績優秀、性格は極めて紳士的。女子男子関係なく人気であり、取り巻きとも呼べる生徒たちは十人以上。
取り巻きたちのせいで今まで接触できなかったのだが、たまたま彼が一人でいたので、思い切って呼びかけることにした。
「シンゴくん」
「ん? ユズキさん。どうしたんだい」
ユズキは料理部へ彼を誘った。
もちろん断られる可能性はあったし、そうなったらユズキは諦めるしかないだろう。
が、
「それは面白そうだな。ちょうど俺は何の提案をしようかと迷っていたところだった。君の案に乗じたいと思うんだが」
一発で、かなりいい返事がもらえたのだった。
「本当!? ありがとうシンゴくん!」
ユズキは思わず大きな声を出してしまい、自分で恥ずかしくなった。
こうして最大の協力者を得られた彼女は、スズカや他の提案者と大きな差をつけ、『部活選挙』で見事選ばれることとなる。
点数も一気に300点アップし、結果は最高なものとなった。
一方スズカはというと、減点になってしまったらしい。……ユズキに負けたくないと周囲の子たちに賄賂を使って協力要請したんだとか。まあ賄賂と言っても現金ではなくお菓子を奢るとかだが、それでも反則は反則。
「なんでアタシが負けるのよ!」と顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
可哀想だがルールなので仕方ない。
無事に料理部は結成され、多くのメンバーが集まった。
その中には彼――シンゴの姿もある。
「よし。じゃあ、やろうか!」
ユズキは彼らと一緒に、美味しい料理を作るべく部活動を開始したのだった。