学園生活
昼は学園に通い、夜はそれぞれに設けられた個室で寝泊まりをする。
そんな日々がしばらく続いて、ユズキはVR世界に少しずつ慣れて来た。
動かすのが難しかったアバターも、かなり思い通りにできるようになった。五感も使いこなせるので意識しなければ現実とそう大差ない。
最近の科学技術は本当にすごいものだと感心してしまう。
そして学園生活の要、勉強と友達関係もうまくいっていた。
勉強は常に『優秀』のB評価。『最優秀』のAには達せていないが、点数はすでに300を超えている。
友達は、サヤ、アカネ、ユカ、サクラコ……。気の弱い女子たちが集まり、クラスの中である三大派閥のうちの一つになった。
クラス内第二派閥のスズカ組ともすでに親しくなっている。スズカというのは、ちょっと傲慢であるが成績優秀な女子である。
スズカとは最初、点数の観点から対立関係にあったのだが、ユズキの方からアクションを起こし、同一の趣味やら話題を見つけて、仲良くなったのだ。
正直自分の傘下に置いている子たちより、スズカの方が気が合う。
「スズカさん。今日、『期間限定シュークリーム』食べに行かない?」
「え、シュークリーム? もちろん行くに決まってるじゃないの」
スズカの派閥の子たちともそれなりに関係を作り、そこでもまた点数を上げていた。
バーチャル学園での日常生活は、すごく順調に行っている。
しかしユズキは、少し物足りないと思っていた。
せっかくの青春だ。どうせなら、もっと楽しんで生きたい。
すでに状況はある程度安定している。そう急ぐことはないのではないだろうか。
今度の目標は、すでに定まっていた。
バーチャル学園で許されている行為の一つ、『部活』を自ら立ち上げること。
しかしそれは現実世界の学校と違ってそう簡単な話ではない。
クラス全員が部活の案を提案し、そのうち選ばれるのがたった一つだけなのだ。そしてそれに参加できる人数も限られているから、その案に乗じていない限り参加はできない。
つまり『部活選挙』のようなことを行うのである。
ユズキはそれと無関係でいようと最初は考えていたが、それを変更して自ら部活案を出す方向で決めた。
ここには様々な生徒たちの思惑が絡む。
生徒たちの多くは、何かしら自分のしたい部活があるはずだ。一番多いのは運動部、次に美術部。
でもユズキには、どうしてもやってみたい部活があった。それは……、
「料理部を作りたい!」
マイナーな部活で決定した。
あとは派閥の子たちへの根回し、スズカへの協力要請。
スズカが乗ってくれるかどうかは怪しいところだが、これは賭けるしかない。
とにかく意向を伝えなくちゃ、と、NPC先生(あだ名)の元へ走っていった。