バーチャル学園
彼女――ユズキは、この度バーチャル学園に入学した。
バーチャル学園とは、普通とは一風変わった学校である。
まず、近年完成したばかりの新技術、VRを使っていること。
実際の肉体は、言うなれば冬眠状態につく。そして脳内にケーブルを繋ぎ、そこで仮想空間にアクセスするのだ。
仮想空間は、どこまでも現実に近く作られている。
味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚。あらゆる感覚が、疑似的に体験できるようになっているらしい。
そしてユズキも、その学園の一員となり、バーチャルな世界にログインをした。
一度ログインしてしまえば、ほとんど数年はログアウトができない仕組みになっている。希望すれば年に一度現実世界に戻ることができるが、大抵の生徒たちはそれを望まないのだとか。
……入学式は、彼女にとってとても新鮮なものとなった。
見渡す限りの生徒たちは、他のアバターたち。
あれのそれぞれを操っている人間がいて、実質、中身は本当の人間なわけだ。ただ、見た目を選択することはいくらでもできるので、ほとんどの生徒が美男美女ばかりだった。
ユズキも大人っぽいお姉さんのアバターを使っているが、現実では高校一年生にしてはかなり子供っぽく見えると思う。ガリガリだし、何より背が低いから。
「でもこの姿ならいける。いける……!」
入学生は三十人ほどだった。
これがもしも普通の学校であればかなり少なく思えるが、ここは仮想世界。これだけ参加者が集まったのはむしろかなり多いのではないだろうか。
「――今日からあなたたちの担任になる、Aです」
クラスの紹介がなされ、ユズキたちの担任になる女性がそう自己紹介した。
しかしユズキは知っている。彼女は、現実の人間が操るアバターではなく、NPCなのだと。
「初めまして先生。一年のユズキです」
……とは言っても、挨拶しないと減点になるので一応しておこう。
この学校には点数が存在する。ある一定の点数を満たさない限り、永遠に卒業はできない。
ましてや減点をされたら留年と同義語。現在、ユズキの点数は当然ながら0だった。
今日から始まるバーチャル学園生活。
彼女は胸をときめかせ、新たな人生を謳歌する決意を……なんてしていない。
内心、深く深く、ため息を漏らしていた。