表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

貴族探偵&怪盗シリーズ

婚約破棄代理人によるクソったれ貴族の破滅的な終わり方

作者: みずさだゆう

 王都の外れ。

 そこに私の事務所があります。


「暇ですねー」


 サライナ・サンプラチナはトレイを持ち、窓の外を見てため息を吐いています。

 彼女は私の事務所で働いていくれている従業員です。


「暇ということは世の中が平和な証拠です。ため息を吐くのはやめてはいかがですか、サライナさん」


「ロスターさんがそれでいいなら私はいいんですけど。でも、こうも暇だと感が鈍ったりしませんか?」


「それは鍛え方の差ですね。今度私が手解きをしてあげましょうか」


「いいんですか!」


「はい、構いませんよ」


 サライナさんは私の元に駆け寄ると、その愛くるしい顔を近づけました。


「本当ですか!? 本当ですよね。嘘じゃないんですね!」


「私は嘘をつきません。便宜上(べんぎじょう)の都合、依頼に左右する場合でない限りはですが」


「やったー! 約束ですよ、ロスターさん」


「はい」


 私はぬるくなってしまった出涸らしの紅茶を飲み干します。

 出涸らしですが味が染みていて美味しいですね。


「私の出番がなければ、世界はこれほどまでに平和で快適に過ごせるのですね。いいことです」


 悠然とした余韻に浸り、新しくティーポットから紅茶をカップに注ぎます。

 薄い色の紅茶が注がれて、ティーポットが軽くなりました。

 私は紅茶の香りに鼻腔をくすぐられ、平穏に浸りつつ紅茶を飲もうとした時でした。


「あの、こちらはホワイト探偵事務所であっているのでしょうか?」


「はい。お間違い無いですよ」


 如何やら平穏は高速で過ぎ去ってしまったようです。

 私は紅茶をテーブルの上に置くと、サライナさんに案内されたお客様をソファーに誘導します。


「えーっと、落ち着いているんですね」


「ええ。意外ですか?」


「はい。少々」


 私、ロスター・ホワイト、15歳が営むここホワイト探偵事務所は主に家族を専門に扱う探偵事務所。

 その依頼はさまざまで殺し以外のほとんどのことを請け負っていますが、今回はどんなご依頼でしょうか。


「私がロスター・ホワイトです」


「では貴女が有名なロスター・ホワイト辺境伯であられますか」


「はい。ですがここではロスターです。この探偵事務所にいる限り、私もお客様も皆等しい存在。そのように扱っております」


「なるほど。理解致しました」


 納得が早くて助かりますね。

 貴族の方の中には爵位しゃくい遠気にされる方もいます。そのような方には失礼ですが、大人しく帰っていただいておりますが、この方は如何やら気にならない方なのですね。


「それでは貴女のお名前は?」


「リサリア・ハーヴェストと申します。ナイジェル・ハーヴェスト伯爵の娘です」


 ハーヴェスト家と言えば伯爵貴族界隈では有名な部類だ。

 確か、服飾を営んでいた元市民が貴族の爵位を授かった。そのことから、市民達の間でも支持が極めて高く、今でも服飾系のブランドを立ち上げる起業家のはずです。


「ハーヴェスト伯爵ですか。私は実際にお会いしたことはございませんが、とても寛大な方だと伺っております」


「確かに父は寛大な性格の持ち主ではあります。しかし……」


 歯切れが悪いですね。

 家族でのトラブルでしょうか。生憎、家族間でのトラブルに関しては関わらないことを心情としているので、そのようなご依頼でしたらお力にはなれませんね。


「あの!」


「何でしょうか、リサリアさん」


「婚約破棄のご依頼は可能でしょうか!」


 ・・・今何とおっしゃいましたか。

 私はサライナさんと顔を見合わせました。


「婚約破棄ですか。またどうして」


「私はあの方のことを愛しておりません。父の勝手な自己満足のために、私が犠牲になるのはおかしいではありませんか!」


「確かにそうですね。ですが自己満足とは、些か軽率ではございませんか?」


 私はリサリアさんにそう尋ね返します。

 しかし本人は全く譲る気はないようで、ややこしい話になりました。


(誓約結婚は貴族界隈ではよくあります。本来女性は貴族の階級を独自に保有することはできませんが、結婚して婦人になることで同等の爵位を与えられる……その婚約をこちらから介入して破棄させる。恐ろしいことですね)


「もう一度お尋ねします。本当にいいんですね」


「はい。私には自分の店を持つ夢があるんですね。そのためなら、貴族の令嬢の身分すら捨てる覚悟があります」


 強い言葉です。

 目の奥に迷いはありませんでした。


「わかりました。そのご依頼、お引き受け致します」


「本当ですか!」


「はい。ただし」


 私がそう念押しすると、リサリアさんは顔を引き攣らせていました。

 しかし私はそこまで深くは介入する気はありません。

 それに何より、この依頼に私は興味がありました。

 せっかくの機会です。存分に使わせていただきましょう。


「どのような結末になろうと知りませんよ」


「わかりました」


「その返事忘れないでくださいね。では、貴女にも協力していただきましょうか。まずは、貴女のお父上に直接会って話がしたいです。できますか?」


「父に頼んでみます」


「わかりました。日にちが決まりましたら、ご連絡ください」


 私はそう言い述べると、リサリアさんを見送った。

 さて面白いことになった。

 人の人生を踏み躙るなんて冒涜的行為。存分に楽しませてもらいましょう。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 リバティー・ハーヴェスト。

 独自に集めた資料によると、確かに政略結婚せざるおえないネタが隠れていた。

 普通に調べても絶対に出てこない。私だからできるだけだ。


「何かわかったんですか?」


「まあね。ただ、これだけじゃ何とも」


「難しいですね。でも、そんな困ってるロスターさんも素敵です!」


「ありがと。困ってはないけどね」


 サライナは私に従順だった。

 まさに忠犬。今回も勝手に私の護衛と荷物持ちとして付いてきてしまった。

 ただし、サライナは護衛役にはもってこいの人間だと私も熟知しているので、その点に不満はないのだが。ただただウザいことを除けば。


「着きましたね」


「そうだね。じゃあ行こうか」


「はい!」


 私とサライナは荷馬車を降り、ハーヴェスト家の屋敷の前に来ていた。

 ハーヴェスト家は王都とは違う町にある。

 広大な土地に堂々と構えられた屋敷は、近くの町や村人からはかなり有名で、憧れの的でもあった。


「近隣の貧しい人達にも積極的に援助をしていて、特に将来服飾系に進もうとしている方々にはミシンを提供しているそうです」


「知ってる。調べたから」


「流石です」


「そんなことはいいから早く行こうか。いつどこで監視の目が光っているかわからないよ」


 私はサライナを連れて屋敷の門をくぐった。

 私達が来ることは既にリサリアさんが伝えているはずなので、すんなり入ることが出来た。


「ようこそお待ちしておりました。私、当家でメイドを務めさせております、ナーサと申します。こちらで旦那様がお待ちです。どうぞ」


「ありがとうございます」


 私とサライナはナーサさんの後に続き、案内された部屋に通された。

 そこは他の部屋とさほど変わらない外観をしていたが、おそらく中はさぞ豪華だろう。推測していたのだが、


「旦那様、ホワイト辺境伯がお越しになられました」


「そうか。入ってくれ」


「かしこまりました」


 ナーサさんは扉を開き、


「どうぞ」


「失礼致します」


 通された部屋に入る。

 するとそこは豪華絢爛と言った装いではなく、お互いの顔が見られるように配慮された足の低いテーブルとソファーが置かれているだけで、特に変わったものは何もなかった。


「ようこそ、ホワイト辺境伯。何もないところでさぞ驚かれたことでしょう」


「いえ、大変素晴らしいものでした。私の治める領地もこのようなところですので、懐かしく感じましたよ」


 リバティー・ハーヴェストは私達をソファーに案内した。

 サライナまで案内してくれたことには驚いたが、流石は寛大な心を持っている貴族だ。


「それで、早速ですが本日こちらに参られた経緯をお聞かせ願えますかな」


「話は貴方の娘さんに通していますので、詳しくは娘さんから聞かれては如何ですか?」


「実はその件について、一つお聞きしたいことがございます」


「何でしょうか?私に答えられることでしたら、お答え致します」


「ありがとう。では、一つ……」


 ここで何を言われるのか。何を聞かれるのか。大体は見当がつく。

 それは、


「(私と会談とはどのような風の吹き回しでしょうか?)」


 やはりそうか。

 確かにそう思うのはもっともなことで、私とハーヴェスト家とは何も面識がない。

 爵位も私が侯爵なのに対し、彼は伯爵。身分も違うのだ。

 それは何も知らない彼にとっては、些か疑問に残ることだろうなと、推測できる。


「以前からお噂は私の耳にも入っています。市民から貴族になった。私と同じ境遇のようでしたので、一度お会いしたいと思っていたのです」


「それででしたか。しかし、うちの娘との面識はないはずでしたが」


「実はハーヴェスト家の令嬢からご依頼を受けまして」


「ご依頼? 一体どのようなものですかな」


「それはお教え出来ません。依頼人との秘匿事項(ひとくじこう)ですから」


 おっと顔色を変えたぞ。

 如何やらよく思っていないみたいですね。それにこの方は、かなり用心深いようです。では一つ、核心に迫ることを追求してみましょうか。


「ハーヴェスト伯爵」


「リバティーで構いませんよ、ホワイト辺境伯」


「では私のこともロスターとお呼びください。リバティー伯爵。貴方、経営の方はうまく行っているのですか?」


「ええ順調ですよ」


「そうですか。では、とある貴族の方が経営方針に関わっている噂と言うのは本当ですか?」


「はい?」


 顔色が変わった。

 明らかに頬の筋肉がこわばっていて、目つきも鋭くなる。これは私のことをよく思っていない顔だ。


「どこでそのような根も葉もない噂を耳にされたのですかな?」


「それはお教えできませんね。こちらにも、順守しなければならない約束事があるのですよ」


(私がその噂を調べ上げたとは言えないね。まあ、言う気もないのだけど)


 リバティー伯爵の顔色が徐々に悪くなります。

 顔色は青白くなっていき、これは余罪ありですね。

 もう結構です。


「失礼致しました」


「あぁ、すまないロスター辺境伯。どうやら体調を崩してしまったみたいだ。会談はまた今度」


「お体お大事に」


 リバティー伯爵は部屋を退出しようとした。

 そんな時、私は一つ気がかりに感じたので、この際聞いておくことにしました。


「リバティー伯爵。貴方は、自分の娘さんのことをどう思っているのですか?」


「そんなこと聞かれるまでもない。私は娘のことを愛している」


「家族としてですよね」


「もちろんだとも」


 なるほど。

 これは向こうに問題があるみたいだ。


「サライナ」


「はい」


「わかっていると思うけど、頼むよ」


「お任せください!」


 サライナは笑顔で答えた。

 さてと、もう一度私が一肌脱ぎましょうか。おそらくこれだ解決するはずです。

 私は、出された紅茶を一口。

 甘いですね。


 穏やかな気持ちで、紅茶を飲み干した私。

 急ぎ帰路に着き、準備に追われそうですねと、心の奥でそう思いました。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

私はサライナを連れて、パーティー会場に潜入していました。

 パーティーの会場に集められていたのは、界隈でも有名な貴族たちばかりで、そこにはリバティー伯爵の姿もありましたが、その令嬢で今回の依頼主のリサリアさんも来ています。


「凄く豪華なパーティーですね」


「そうですね。おかげで容易に潜入できました」


 私はフリルのついたドレスを着て参加し、サライナは動きやすいオレンジ色を主体としたタイトなドレスを着用していました。


「私もそちらのドレスのほうがよかったのですが……」


「駄目ですよ」


「どうしてです?」


「可愛くないからですよ。せっかく背も高くて色白な肌が隠れてしまうのは、もったいないじゃないですか」


「もったいないですか」


 その考えは私にはよくわかりませんね。

 しかし満足していただけて結構です。

 そんな中、


「これはホワイト辺境伯」


「お初にお目にかかります、コンポート伯爵。突然の参加と無礼お許しください」


「いえいえ。私も一度お会いしてみたかったのです。ようこそわがパーティーへ。ご感想は?」


「賑わいのあるパーティーなことで。素敵だと思います」


「あはは。それはありがたきお言葉。しかし貴女の方が、もっと素敵ですよ」


 くさい言葉だ。

 私にはまるで響かなかったが、サライナは悔しそうに魔法を使おうとする。

 瞬時に気づき、咎める。


「それにしても女性にして貴族の爵位を有しているなど、何と凄い。尊敬いたしますよ」


「それはありがとうございます」


「今度お茶でもいかがです?」


 サライナからの視線が痛い。

 全身を貫く槍ようだった。


「いえ、ご遠慮させていただきます」


「そ、そうかい?」


「はい。申し訳ございません」


 貴族というのは大変だ。

 私はサライナの圧に負け、つい断ってしまった。

 だが、これでいい。私の目的はあくまでも婚約破棄なのだから、これ以上関わりを持つことはないのだ。


「それでは失礼するよ。ハーヴェスト伯爵」


「これはこれはコンポート伯爵。娘がお世話になっております」


「いえ。リサリアは?」


「今呼んで参ります」


 リバティー伯爵もいますね。

 これは情報を佳境で揃えるチャンスです。

 さてと、おや?


「ほら、リサリア。コンポート伯爵がお呼びだ」


「はい、お父様」


 リサリアさんがやって来た。

 すると、空気が一変した。

 厳密にはリサリアさんを凝視する視線を捉えた。


「サライナ」


「はい」


「あの左奥の貴婦人。今視線を動かしたね」


「そうですか?」


「うん。おまけに右足が開いたね。腰の位置がさっきより高い」


 その貴婦人の名前は、確かミセラント・トマスジャー伯爵夫人。元は農園で財を成した伯爵家の出で、トマスジャー家に嫁いだはず。しかし何故ーー


「ナイジェル様」


「リサリア、最近会わないでどこに行っていたんだい。心配していたんだよ」


「申し訳ございません。服飾の見聞に出ておりましたので」


「そう言うことは先に言っておいてもらわないと困るよ。君は大切な者なのだからね」


 おや、ぼろを出した。

 それに視線の動きが明らかにおかしい人物がいる。

 ミセラント・トマスジャー伯爵夫人だ。


「サライナ。ミセラントさんを確保だよ」


「えっ!?」


「今の動きではっきりした。多分あの人がそうなんだよ」


「何がですか?」


「よく見て。夫人の左薬指。第二関節だけが妙に細くなっているでしょ。アレは指輪の痕だね」


「わかるんですか?」


「まあね」


 もっとも確証に至ったのは別にある。

 それは本人に追求するとして、後はーー


「いいかい。君は私の大切な妻になる存在だ。こんなところでうつつを抜かして貰っては困るんだよ。その自覚はあるかい?」


「はい」


「はぁー。少し言いすぎたね。すまない」


「いえ。その……」


「悪いけど、私は次の方に挨拶をしなくてはならないんだ。すまないね」


 コンポート伯爵は去ってしまった。


「なんて人ですか。魔法で懲らしめてやりましょうか」


「やめておいた方がいい。それよりいい方法がある。今回の依頼、何でもありだからね。準備はできていますか」


「はい。もちろんです」


「流石だね。それじゃあ、今日結構しようか」


 私は不敵な笑みを浮かべた。

 それからコンポート伯爵が1人になるのを待つと、私は夜もふけると、彼前に姿を現すことしました。



 夜もふけ、貴族達が帰路に着く頃。

 ナイジェル・コンポート伯爵は夜の静かさと優越感に浸りながら、赤ワインを飲んでいた。


「ふぅ。あの女も大概だ。自分がどんな立場でここにいるのかわかっているのか」


 舌打ち混じりに吐露する。

 それは完全に本音で、嫌味に似ていた。


「それにホワイト辺境伯だ。あの女は私の誘いを断った。女の分際で単身侯爵の爵位を持つからと言って、デカい顔しやがって。今度会った時……」


「今度が何ですか?」


「なぁっ!?」


 ナイジェル・コンポートは背後を振り向く。

 すると窓際のカーテンが揺れていた。

 月明かりが蒼くなる。そして蒼い月明かりを受け、佇んでいたのは、


「どうも夜分遅くに失礼いたします、ナイジェル・コンポート伯爵。つきましては、貴方にリサリア・ハーヴェスト伯爵令嬢との婚約を破棄していただきたく参らせていただきました」


「な、何を言っているんだ!?」


「そう思われるのも無理はありません。しかし必ず破棄していただきます。こちらには、貴方の策略は既にお見通しですのでね」


 ロスター・ホワイト辺境伯。

 私は笑っていた。何者も欺くように、その場で揺蕩う白波のようにーー


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 私がそう告げると、ナイジェル・コンポートは慌てるでもなく白を切った。


「ふっ、ふはははは! 何を言い出したかと思えば。婚約破棄? 無理なことを言わないでくれるかな。すでに当家との間で婚約は成立している。今更婚約破棄など……」


「既にハーヴェスト家は婚約を破棄させてもらう手紙を送っているはずですよ。これが証拠です」


 私はハーヴェスト家が出した手紙の控えを差し出した。

 するとコンポート伯爵は苛立ちを覚えたのか、私に怒鳴り散らかす。


「こんなものが何になる! 私は認めていない」


「そうですか。では認めてもらいましょうか」


「証拠でもあるのか! 何か決定的な証拠が!」


「ええ、ありますよ。貴方の目的は、ハーヴェスト家のもつ名誉と技術を盗むことですね」


「な、何のことかな?」


「とぼけないでいただきたい。コンポート家の元は服飾系を営んでいた。その染み付いた経歴が、デマカセと知りながらつい口から出てしまい、貴方が王族の仕立て屋になっている事実。私が知らないとでもおおもいで?」


 するとコンポート伯爵は固まってしまった。

 そろそろフィナーレだ。


「追加です。貴方はリサリア伯爵令嬢のことを妻ではなく初め、“者”と呼んでいた。これは興味がない、ただの道具だと言うことですね」


「何を馬鹿な。私は彼女を!」


「愛している。というのは真っ赤な噓のはずです。何故なら、貴方は既に別の伯爵夫人。ミセラント・トマスジャーさんと婚姻関係にあるはずです。違いますか」


「どこにその証拠が」


「証拠なら、貴方の指についているじゃないですか」


 コンポート伯爵の指には、しっかりと指輪がしてありました。

 それを見つけると、すぐに隠すような仕草を取りますが、すでに証拠はばっちりと押さえています。


「もっとも、ミセラント伯爵夫人は容疑を認めています。そして貴方がミセラント伯爵夫人を仲介として、ハーヴェスト家が抱える経営不振に目を付けた貴方はハーヴェスト家に取り入るため共謀した。そこまでネタは上がっています」


「ま、まさか……」


 チェックメイト。

 勝負ありですね。これ以上何を言ってもこの方が私の言葉を覆すとは思えません。


「それでは婚約破棄、認めていただけますね」


「し、仕方ないのか……」


「はい。それではこちらにサインを」


 私は婚約破棄の証印を貰おうとしました。

 しかしコンポート伯爵は紙を受け取るや否や、ビリビリに破り捨てました。


「こんなもの認めるか。私は、私には嘘を真実に変えなければならないんだ」


「やっと本性を現してくれましたね。いいでしょう。では本格的に潰させていただきますね」


 私はもう一枚別の紙を見せました。

 それは明日配布される新聞の内容です。


「これまで貴方がやってきた悪事が明日の朝刊ですべて暴露されます。もちろん王族の方々の耳にも」


「なに!?」


「でもご心配なく。貴方の家族は既に見限っておられるので、社会的に死ぬのは貴方だけですから」


 教えると、コンポート伯爵は、顔色を悪くしてしまいました。

 しかし憤慨(ふんがい)するようで、私に対して飲んでいた赤ワイン入りのグラスを投げつけました。


 パリィン!!


「危ないですね」


 私は投げつけられたガラス片を踏み潰しました。

 すると、コンポート伯爵はそのまま逃げようと試みますが、それすら許さない私は、


「これは肉体的な死すら与えなければいけませんね」


「やってみろ。女の足で、私に追いつけるわけがない」


「はぁー。差別的な発言。やはり、貴族とは救いようがありませんね」


 私はコンポート伯爵に瞬時に近づくと、顔面を殴りつけました。


「ぐはぁ!」


「“女の足”私には関係ないお言葉ですね」


 私はその一言を言い述べると、その場から姿を消しました。

 さて、これで依頼は達成ですね。


 私はコンポート伯爵の指に血を付け、本物の婚約破棄の用紙に押し付けます。

 犯罪ではありますが、近いうちにこの結末にはなっていたはずですので、関係ないはずと勝手に銘つけました。

 


 それから1週間が経過しました。

 私はサライナが入れてくれた、紅茶をストレートで飲むと、新聞を片手に読みました。


「やはり捕まりましたね」


「そうですね。でもまさか、賄賂(わいろ)まで渡していたなんて……」


「貴族の間で賄賂は当たり前のようにやり取りされていますよ。私はしませんが」


 少しこの紅茶ぬるいですね。

 ですが無事に婚約破棄に至ってくれてよかったです。痛たたたぁ。


「その手首、何かあったんですか?」


「まあね。でも心配しなくてもいいよ。これはくそ野郎を潰すための、立派な勲章(くんしょう)何ですから」


「はぁ?」


 手首の怪我はこの間の戦闘によるものですが、口が裂けても言えません。

 何故なら、話せばサライナが地の果てまで追いかけて、半壊した顔がなくなるまで痛めつけてしまうからです。


「ざまぁみろ。とでも言っておきますかね。おや?」


 私が紅茶を飲もうとした途端、事務所の扉が開き、そこにいたのは依頼主のリサリアさんでした。


「これはリサリアさん。お元気そうでなによりです」


「その件はありがとうございました。無事婚約は破棄され、父も冷静を取り戻したようです」


「一段と仕事に精を出しておられるようで、何よりです。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」


 私はそう尋ねました。

 すると、


「つきましてはお願いがあって参りました」


「お願い?」


「はい。私にここで働かせていただきたいんです。そして」


「?」


 話が急展開している。

 私は置いてけぼりを食らった。


「ロスターさんのお洋服を仕立てさせてください」


 私は飲もうとしていた紅茶入りのティーカップを落としてしまった。

 まさかあんなフリルのついた服でしょうか。


「それは結構なことですね」


「だって、私はロスターさんのことが」


「私が如何したんですか?」


 そう尋ねたところ、サライナが間に入った。

 なんだか嫌な予感がする。

 私は顔を顰めながら、新しいティーカップを取り出すと、紅茶を入れてゆっくりと飲むことにしました。


 

 

 

 



少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねなども気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ