学校の屋上から飛び降りようとしている美少女に「どうせ死ぬならデートして」と言ったら「バッカじゃないの!」と怒られたけどデートには行くことになった件
午前六時。
俺、鈴島大我の朝は早い。
まだ親も寝ている時間に朝ご飯を食べ、家族が起きる頃には高校の制服を着て家を出た。
ワイシャツの襟が折れている事に気付いた俺は、襟を正してから空を見上げた。
「今日もいい朝だ!」
ルンルン気分で学校まで向かっていき到着した。
先生にばれないようにしながら、こそこそと階段を上っていく。
この時間に学校にいるのはいいけど、あそこに行くなんて言ったら怒られるもんな。
誰もいないことを確認した俺は、一気に階段を駆け上がる。
よし、この何の意味もない赤いコーンをどけて扉を開けば……。
「わあ、やっぱりここは空気がおいしい!」
絶景とまではいかないが、とても眺めのいい場所だ。
ここは学校の屋上で俺にとって、秘密基地のようなものである。
いつも通り空気を吸って、決まった場所に腰を掛けようと思ったがそこには誰かが立っていた。
しかもフェンスの外に立っていて、今にも落ちそうだ。
「あぶないっ!」
そう言うと綺麗なブロンドヘアが流れるようにして、彼女は振り向いた。
彼女は暗い顔をしてる。
俺に気付くと怒った顔をした。
「な、なんでここに人がいるの! ここは立ち入り禁止でしょ!」
「いやでも、君も入ってるじゃん」
「それは……」
彼女はバツが悪そうにして俯いた。
こんな綺麗な子、うちの高校にいたんだな。
それより、なんであんな危ないところにいるんだろ。
「あのさ、とりあえずそこは危ないから、こっちに来なよ」
「嫌だ……」
「なんで?」
「私は、これから死ぬの……だから屋上から出てって」
「えっ死ぬって……君が?」
「そうよ! 何か悪いの!」
「悪いも何も……」
俺は言葉に詰まった。
この綺麗な子はきっとこれから死のうとしてたんだよな。
だとしたら死なないでっていうのも意味は無さそうだし……。
そこで俺はひらめいた。
「あっじゃあ、どうせ死ぬならデートしてよ」
「な、何言ってんの!? バッカじゃないの!!」
「だってそんなところに立ってるってことは死ぬつもりだったんだろ?」
「そうだけど……」
「それならデートした後でも同じでしょ」
「うーん、嫌だ」
「なんで」
「だって死ぬ前に話した事もない人とデートなんて行きたくない」
彼女の言葉は正論だった。
そこで俺はまた少し黙って考えた。
うーんどうしたものか。
「……じゃあ俺も一緒に死ぬ」
「はっ!?」
「俺が死ぬのも勝手だろ」
「意味わかんない……」
「じゃあさ俺と一緒に死ぬのと、俺とデートに行くのどっちがいい?」
「それならデートの方がましだけど」
「じゃあ決まり! 今日の放課後、校門で待ってるから」
「えっちょっと! 今日行くの!?」
「だって休みの日とかにしたら、君が勝手に死ぬかもしれないだろ」
「わ、わかった……じゃあ放課後ね」
「おう!」
彼女と約束をして、その場を後にした。
一度も付き合ったことのない俺が、どうにか死ぬのを止めようとしてデートしようなんて言ったけど何処に行けばいいんだ。
いや待て、どうせなら彼女が今後死のうとしないためのデートにしよう。
こうして俺は、授業中も今日のデートについて考えていた。
放課後。
彼女は約束通り、校門で待っていた。
「あっごめん、待った?」
「さっき終わったばっかりだから大丈夫」
「あのさ誘ったあとで聞くのも変だけど、名前教えてもらっていい?」
「それもそうね。私は静城綾香、あなたはなんていうの」
「俺は鈴島大我、よろしく綾香!」
「いきなり名前呼びって……」
「今日はデートだからいいでしょ」
「そうだけど……」
「じゃあ行くよ」
彼女と手を繋ぎ、俺達はバスに乗った。
バスの中はガラガラで誰もいない。
綾香は不安そうに聞いてきた。
「これどこに行くバスなの?」
「まだ内緒かな」
「もしかして一緒に死にに行くの」
「いや、綾香が今後死にたくないって思うような場所に行くんだよ」
「なにそれ、そんな場所って……」
バスを降りて数分で目的地に到着した。
綾香は怖がりながら口を開く。
「あるみたいね」
橋から人が落ちていくのを見ながら、綾香は今にも帰りたそうにしている。
「ここのバンジージャンプは一緒に飛べるらしいよ」
「一緒でもこんなの飛べるわけないっ!」
「でも今朝まで綾香は、あんな高いところから落ちようとしてたんだよ」
「そうかもしれないけど」
「これもいい機会でしょ、今日で死のうとした君とはおさらばしよう!」
そう言いながら、手を差し出すと彼女は嫌がりながらも手を取ってくれた。
手続きをした俺達は、命綱をつけて何度もチェックされたあと飛ぶことになった。
綾香は俺の事を強く抱きしめている。
さっきまで俺も怖かったが、それ以上に綾香が怖がっているからそこまで怖くなくなっていた。
それに綾香の胸があたっていて、俺は違うところで緊張していた。
俺達はあと一歩で落ちるところに立つと、係の人がカウントダウンをする。
「三、二、一……バンジー!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ」
「うおおぉぉぉぉぉおおお」
俺と綾香は出した事もないような声で叫びながら落ちていった。
体感は長く感じたけど、実際は数秒の出来事。
浅い川に落ちていくギリギリで、上に跳ね返るようにして上がっていく。
ぶらぶらと宙づりになりながら、落ち着いてきた俺は抱きついていた綾香を見ると泣いていた。
「怖かった?」
「ごわがったよぉ」
「でも死ななくてよかったでしょ?」
「ぅ、うん……あ、あのまま、ひぐっ、死んでたら落ちる寸前で……後悔してたかも」
「それが分かってくれたらならよかった」
バンジージャンプが終わる頃には夕方になっていた。
俺達は帰りのバスに乗り話していた。
「そういえばさ、綾香はなんで死のうと思ったの?」
「学校でいじめられてたの……あっでも悪口とかじゃなくて、無視されて空気みたいな感じ」
「そうだったんだ……」
「最初は同級生の男の子が話してくれたりしたんだけど、その男の子の彼女がクラスの中心みたいな感じで……私の事を無視しようって言ったみたい」
「そういうことか……じゃあ今度からは俺が話し相手になるよ」
「えっいいの!!」
「うん、俺も話す人いないし」
「えっもしかしていじめ?」
「違うよ、入学して二年生になったいままで誰とも話してないだけ」
「なんだ陰キャなだけか」
「なんだよ、陰キャで悪かったな」
「うそうそ! 冗談だよ、それより私達同じ学年なんだね」
「えっ綾香も二年生?」
「うん!」
同じ学年なのか、なんだか嬉しいな。
そのあとは他愛もない話をしながら、あっという間にお別れの時間がきた。
「じゃあまた明日!」
「おう!」
そう言ってそれぞれの家に帰っていった。
翌日。
テレビで見たくないニュースが流れていた。
「速報です。今朝、女子高生が学校の屋上から飛び降りをしたようです。意識不明の重体で、身元は不明だという事です」
俺はそのニュースを見た瞬間、何も食べずに学校へ向かっていた。
走って走って、全力で走って学校に着いたが、騒ぎにはなっていない。
疲れ切って廊下に座りこんでいると、しばらくして誰かが話しかけてきた。
「こんなところでなにやってるの?」
「えっ」
俺は見上げると、そこには綾香が立っていた。
経緯を話すと彼女は、落ち込んだ様子だ。
「……その子の前にも大我みたいな人が現れたらよかったのにね」
「……そうだね」
「あの時さ……止めてくれてありがとね!」
「うん!」
「これからも大我がよかったら、一緒にいてくれると嬉しいな」
「それって恋人として?」
俺が茶化すように言うと、彼女は呆れたように言った。
「まずは友達からでしょ!」
「だよね」
「ほらもうすぐ授業始まるから行くよ」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はいっ!」
とりあえず彼女が死ななくてよかった。
でもこの感じだと俺は綾香に尻に敷かれそうだな。