3話
「お連れ様は、別の意見をお持ちのようですが?」
俺、復活。
走馬灯を眺めているうちに元近衛騎士の兄さんが前に出ていて、
「我々には身に覚えがありません」
「シラを切るでないわッ!!」
みたいな攻防があったんだが、何故かその兄さんが俺に目ヂカラを込めた視線を寄越してきた。
(あっやめろよ、そんなことされたら俺がラスボスな修道女様に認識されてしまうじゃないか!)
案の定、綺麗過ぎて凍りつきそうな極寒の瞳が、すうーっと俺に……って待てよ。
これはもしや、死亡フラグ回避選択肢では?
デッド・オア・アライブの分岐点。ここで間違えたら終了確定。
レベル推定?????の謎の修道女様からプチッと潰されないよう、俺は全力で降って湧いたチャンスを掴むぜ!
「この人の言う通りだぜバルトロ。この人達は裏でコソコソ悪事働くような小悪党じゃないって」
これは出まかせじゃなく事実だ。犯罪者は俺の【鑑定眼】で、身分とか職業とか備考欄みたいなところにバッチリ書かれるんだよ。つっても、スキルがバグるような鑑定結果の出る奴にデカイ悪事を働かれたら、誰にも捕まえられそうにないけどな。
大事なのはそこんとこじゃなく、いかに「俺はあなた方に因縁つける気なんてまったくありませんから、むしろ反対意見ですから」と印象付けることだ。俺の身の安全のためにな。
「むぅ。しかし……」
おっ?
よしよし、こいつの聞く耳も復活してきたな。
相手の兄さんが感情的に反発せず、終始冷静でいてくれたのもそれなりに効いているんだろう。
「『むぅ』じゃねーよ。俺はそういうのに鋭いって知っているだろ? それとも、俺を疑うのか?」
「ぬ」
バルトロみたいに感情的な奴はヒートアップしやすいし、一度カッカさせちまったら、せっかく途中で自分の勘違いを自覚してくれても、「断じて撤回なんぞしてやるか!」みたいに、いらんクソ意地を発揮して意思疎通ができなくなる。
こういう時は騒がず焦らず、落ち着いて、だ。
それから、結論を後回しにせず、最初の内にはっきりシンプルにこっちの意思を伝えたほうがいい。じゃないと、いつの間にか俺が相手の言い分を肯定したことになっちまうからな。姉貴関連のストレスフルな環境で培った過去の数々が、ここにきて微妙に役立っているのがなんとも皮肉だけど……。
(ついでに、こいつには情を刺激する訴え方が効果的だ。感情的なのはこいつの欠点だけど、情の深さは美点でいいだろ)
ただし、単純バカだから情に流されたり、騙されたりしやすいタイプなんだよな。今日のこれ、誰かがこいつにいらねーこと吹き込んだクサイし。
巻き込まれたのは俺なのか、バルトロのほうなのかはわかんねー。
どっちにせよ嫌な感じだ。
「とりあえず、こんな所でずっと立ち話もあれだし。場所移動して、あちらさんの話を聞くだけ聞いてみようぜ。その上で心配事があるんなら、そん時に尋ねてみりゃあいい」
「ぬ……貴殿の言う通りであるな。ここでは往来の邪魔になる。場所を移そう」
そうそう、やっと気付いてくれたか!
もー、さっきからずーっと、通りすがりの皆さんの目が痛いのなんのって! こんなに近けりゃ他人のフリも無理だし、マジ泣くかと思った!
「悪いけど、もう少しだけ付き合ってもらえます? 既にさんざん引き止めといてこんな質問あれだけど、この後の都合は大丈夫かな?」
「…………」
ナンパじゃありませんよ? むしろバイバイしたい気持ちでいっぱいですから!
ただ、それだとさすがにバルトロ君が納得してくれそうにないし、衆人環視の中、濡れ衣で呼び止めちゃったこいつの立場的にもまずいんですよ。完全に本人の自業自得なんですけど、ほんとすみませんね。形だけ、ちょっとお話するだけですから。
元近衛騎士の兄さんが氷の修道女様に視線で確認し、氷の修道女様が気の強そうな修道女さんと顔を見合わせた。
「まずは宿をとり、その後に食事をする予定でおりました。宿泊先を探す時間をいただけるのであれば問題ないのですが、先にこの娘に食事をさせてもよろしいでしょうか」
「お、お師姉様、わたくしはまだ大丈夫です」
「いいえ、お腹がすいているでしょう。いつも言っておりますけれど、空腹は恥ずべきことではありません。わたくし達と違ってあなたはか弱いのですから、しっかり食べねばなりませんよ」
「――うわ、すみません、食べる前だったんですね! なあバルトロ、近くの店で食べながら話さねえ? 駄目か?」
「う、うむ。いや、構わぬ。我がオススメの店がこの近くにあるから丁度よい、我々もついでに腹を満たすとしよう」
こらこら何言ってくれちゃってんのバルトロ君、さあこれから尋問しますよって方々にオススメの店を紹介してあげて、さらに一緒に食べようとかさー。
なんてな。
時々しょっちゅう他人のフリをしたくなるのが困りどころだが、つまるところ、こういう奴なんだよ。
子爵位を持っている由緒正しいお貴族様の割に、俺のこういう口調に眉を顰めるでもなくふっつーに返してくるし、とにかく話しやすい。どこぞの子爵家のご子息様とか呼ばれている連中のほうが、よっぽど偉そうにしているぐらいだ。
今は、お腹すかせた女の子に我慢させちゃって悪かったな、みたいに反省しているところだろう。
じゃあなんで今日、俺はこいつに耳を貸してもらえず、暴走を許しちまったのかって?
とうにヒートアップしてるイノシシ野郎と意思疎通できなかったからだよ。
(あ、何やら、修道女様の御一行から呆れた気配が。……き、気にしないでくれると嬉しいかな?)
治安を維持する騎士を名乗っておきながら、こいつが駄目駄目に見えるのは百も承知だよ、でも違うんだ。単にあんたらに対する疑惑は、俺の説得が功を奏して薄れたんだ。それだけのことなんだ。
第一、バルトロは今日、非番なんだからな。そうじゃなきゃ部下の騎士が一人か二人は同行していて、もっと大ごとに……は、ならなかったか。むしろ、暴走前にあいつらが止めてくれたかも……いや、もう過ぎた話だ。
ともあれ、危機は脱した。そうであって欲しい。
あとはメシの間にバルトロが失言しないかだが、カッカしていない時のこいつは意外と失言はしない。
しかし、ことはラスボス級の接待。逆鱗が不明な以上、いつでもフォローできるようにしとかなきゃな。
俺がそんな決意と覚悟を固めていると、人波の向こうから「旦那様~っ」と変声期前の男の子の声が聞こえてきた。
「ん? ありゃ、あの子、おまえんとこの下働き君じゃね?」
「お? そうだな。どうしたのだフリオよ?」
「だ、旦那様、申し訳ありません、すぐお戻りくださいっ」
「は?」
よほど大急ぎで駆けて来たのか、ぜいぜい息がつらそうだ。
「お城から使いの人が来て、早急に登城するように、だそうです」
「なんと!」
「それからあの、ちょっとした行き違いが、あったみたいなんですけど。修道女様が二人、お客様で来るから、お会いしたら失礼なきように、てことでした」
「――――……」
「…………」
「…………」
「…………」
…………。
「それ、先に聞きたかったよな」
「……うむ」
ていうか、ちょっとした行き違いで済むか?
誰だ伝達ミスした奴。
出てこい。
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