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御心のままに、慈悲を祈れ  作者: 咲雲
第一章 花の王国の聖女
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捨てる神あればわたくしが拾います

一話に入るかと思ったら結構長くなりましたので、一旦キリのいい所で上げます。

次話は早めに更新します。


 今まで非公開だった工房を、特別に見学させていただけることになりました。

 案内役は例の近衛騎士様です。

 王族の護衛が本来のお仕事ですのに、わたくしに何度もお付き合いいただいて申し訳ないのですが、こういう裏側の事情に通じている方は人数が限られているそうでして……そうですよね。わたくしのお役目をご存知でフットワークが軽い方という条件でも、やはりこの方となりますし。


「これからはもう、隠す必要はありませんから」


 ほんの少しの苦さの混じる、けれどそれ以上にすっきりしたお顔の騎士様が案内してくださったのは、何の変哲もない中流階級の住宅が立ち並ぶ一角。

 服飾店に近い居住区画の、ごく一般的な民家に紛れて、その〝工房〟はありました。

 通りからの外観は本当にただの民家です。そのお宅にお邪魔させていただくと、外側からの印象以上に奥行きがあり、一番奥は小さな看板を掲げた工房になっていました。


 ――〝王家御用達〟――


 これと同じ〝民家〟が、本当に普通の民家に紛れて、少しずつ間隔をあけながら存在していたのです。

 いくつかの建物はそれぞれ背中合わせに配置されていて、裏口同士で行き来できるようになっており、そのひとまとまりがすべてひとつの工房でした。

 刺繍、レース、織物その他、他国よりも高いレベルの技術を持ちながら、彼らはずっと隠され続け、作品の出回る数も抑えられていた。その理由はもちろん、ロドリゴ大司教を始めとする教会派への警戒心です。


 もし王家が考えなしに大々的に売り出そうとしていたら、王家に力をつけさせたくないロドリゴ大司教とその一派によって早々に潰されていたか、あるいは職人が拉致され、神殿に監禁されて作品を生み出し続けるよう強要されていた恐れもあります。実際に過去、さまざまな国でそういう問題がたびたび起こっているのです。

 力のある聖職者以外に、有力貴族や王族だったケースもありますが、目をつけられた職人には悲劇しか待っておりません。


 工房を分散させ、民家に偽装させ、大司教達の興味をひかないよう、彼らはずっと慎重に振る舞ってきました。

 けれどこれからはどんどん表に出て、その名声も高まってゆくことでしょう。

 フロレンシアのみならず、世界中に。


「既に貴族はもちろん、国内外に販路を持つ商人からも多くの注文が入り始めているそうです」

「よろしゅうございました。お忙しくなるでしょうから、わたくしがのんびり見学させていただける機会は、これが最後かもしれませんね」

「そうですね。長年の憂いもなくなりましたし」


 近衛騎士様にじ、と見つめられてしまいましたが、わたくしはその視線に気付きませんでした。ええ、気付きませんでしたとも。


 ――だって、本当に存じ上げませんもの。

 あなた方の積年の憂いが、ある日突然綺麗さっぱり解消された原因なんて、わたくしノータッチですから。


 ロドリゴ大司教が消え、フロレンシア王都の聖アルシオン教上層部が、ごっそり入れ替わることになりました。

 聖法国から大勢の神兵とともに、新しい大司教様が派遣されまして、その方が異動命令を携えて来られたそうですがはてさて。


 いや、阿鼻叫喚でしたねえ。しかも、半数以上が降格もしくは聖位階の剥奪ときました。とりわけ後者は聖職者にとって死罪も同義ですよ。何があったんでしょうねえ……。


 正式に決まるまでの暫定トップだそうですが、新たな大司教様は勤勉そうで感じのよろしい方でした。

 わたくしも一度ご挨拶したのですが、「鼠避けの設置に少々失敗しまして」と謎の愚痴をこぼされました。謎なのにとてつもない共感を覚えました。もうあの方がここのトップでいいんじゃないでしょうか。


 さて、そろそろ夕暮れも近くなりましたので、小教会に戻るといたしましょう。

 我ながら足取りが軽く、気分がうきうきしております。


 実は、陛下や殿下に、あるお願いを聞いていただいたのですよね。




❖  ❖  ❖




「今晩は♪ さすが王都の仕立て屋さんはお仕事が早いですねえ、そのお召し物、とてもお似合いですよ♪」

「――これは、何が、どうなっているの……?」


 お城の兵に連れられて小教会にやってきたのは、鮮やかな赤銅色の髪と緑の目の、とある元貴族令嬢でした。


 はい、アマリア様です♪

 いらっしゃいませアマリア様♪

 お久しぶりですアマリア様♪


 礼拝堂に呆然と佇むその身を包むのは、豪華なドレスではなく、わたくしと同じ――そう、イメルダ修道院の修道服です。

 いやあ、もとの素材がよろしい御方ですから、装飾品や化粧っ気がなくともお世辞抜きにお美しくてお似合いですねえ♪


「これからはわたくしを師姉(あね)と思い、なんでも頼ってくださいね♪」

師姉(あね)って、……だから何故、わたくしが?」

「おや、お聞きになっているのではありませんか? あなた、公爵家からは籍を抜かれて、修道院行きを命じられたのでしょう?」

「……っ!」


 アマリア様がザッと青ざめ、唇を噛みました。

 恐怖と絶望、これから自分がどうなるのか、未来への不安……そんなところでしょうか。


「大丈夫ですよ、ご安心なさい。陛下にお願いして、あなたはわたくしの預かりにしていただきましたから。それが、そのお姿の理由です」

「えっ? な、何故?」

「それはもちろん――わたくしがあなたを、これでもかと、大いに買っているからです!」


 高らかに宣言しましたら、いつも優雅なアマリア様が「はっ?」と目をまるくされました。


「目的のためには手段など選ばなくてよと高圧的な雰囲気を醸し出しながら、その実、相手には一切の危害を加えない善良さ! 他人任せにはせず、常にご自身が最前線! 殿下に叱られ注意されてもめげずに何度も繰り返す、へこたれないあの精神力、あの根性、どれをとっても実に素晴らしい!! あなたこそ、神の道に進むべきなのです!!」

「はぁっ!? ちょっ、待っ――な、何故そうなるのよ!? そもそもわたくしは罪など犯していないわっ!! あなたにも一度だって危害を加えたことなどないのにっ、陛下にそれをお伝えしてよっ!!」


 エルナン様とセリオ様が、俯いたり目を逸らしたりしていました。

 ええ、あなた方はこの場にはおりませんでしたし、なんにも聞こえなかったでしょう、わかっておりますよ。


「お伝えするまでもなく、ご存知でしょう。陛下も、殿下も。もちろん、あなたのお父様も」

「えっ?」

「あなたはわたくしが司教であるとご存知で、心から敬意を払ってくださっている。最初にお会いしてからずっとです」

「あ、当たり前でしょう!? だって……」

「そのように教えられ、それを忠実に守ってきた。――王侯貴族は、聖職者の次に神々と関わりが深い。民の代表であるがゆえに、長い歴史の中、恩恵を享受することもあれば、増長して罰せられることもあった。ならず者と呼ばれる無知で哀れな方々と違い、きちんとした教育を受けてこられたあなた方は、神のしもべを害する行為に強い忌避感を抱いている、それが普通です」

「そ、そうよ……さんざんそう訴えているのに、誰も耳を貸さないのよ……どうして……」

「ですから、あなたがそういったことにちゃんとした方だと、皆様承知の上なのですよ。にもかかわらず、何故かあなたはあっさり断罪され、そして修道院送りとなった。ただし、処刑すべきという声はあがらなかった。ご身分に考慮したというなら、貴族牢に生涯幽閉という方法もありますよね。けれどそうはならなかった」

「そ……れって……」


 アマリア様はますます蒼白になり、ふるふる震え始めました。


「まさか――、まさかわたくしが誰にも庇ってもらえなかったのって――あの夜会のあれは――最初から根回しがされていたの……!?」

「あなた、察しがよろしいですね? 根回しなんて発想が正しく出るあたり、冷静になればあのふんわりお嬢さんより、遥かに巧く立ち回れるはずでしたのに。実に惜しいです」

「……嘘!! どうして!? 何故わたくしが!?」


 受け入れ難い現実に直面したせいか、頭を抱えてパニックになっておられます。

 まあそうでしょうね。つまり、陛下や殿下やお父上、そのほか大勢の協力者の方々が、寄ってたかってアマリア様を追い詰めたことになりますからね……それも、無実の罪で。


「至極単純な話ですよ。まず、王太子殿下に大切に扱われるお嬢さんに、婚約者たるあなたが敵意を抱くのはごく自然なことです。なのですが、あなたは対応に失敗しました。ほかでもない殿下ご本人から、何度もご指摘があったのに、改めもしなかった。ご自分は正しいと、その一点にこだわって」

「だ、だってそれは……わたくしは間違ってなんていないわ!」

「ええ、ですから、あなたの主張自体に間違いはありませんでしたが、対応がまずかったのです。王太子妃教育を何年も受けてこられたあなたには、そこそこ周りが見えていたはずですよ。あなたを中心として公爵令嬢派、あの聖女ユイカ様を中心として聖女派ができあがり、それがそのまま王家派、教会派となって、王宮を割る争いの旗印にされかけていたことを」

「そ、それは……」

「ですがあなたは、それを重く受け止めず、気付いてからも放置しておられた。――ご自身が勝つつもりでおられたから、でしょうか?」


 敗北を想像できなかった、とも言えるでしょう。なんだかんだで、厳しく教育される一方、あらゆる面で守られ、優遇されていた公爵令嬢だったのですから。


「だ、だって……当然でしょう!? 負けるわけにはいかないもの! わたくしの前で殿下に慣れ慣れしいのは論外だったし、何より、あの聖女は……」

「ロドリゴ大司教の息がかかっていた?」

「そうよ! あんな、聖者のふりをした汚らわしい者どもの手先を、殿下のお側に置いておくわけにはいかないわ! あの娘に殿下を利用するつもりがなかったとしても、背後にいる輩はそうではないもの!」

「そうして、あなたは人前ではっきり敵意を示し続けた。その結果、得をしていたのはどなただと思われます?」

「……得?」


 きょとんとするアマリア様の反応を見て、ああ若いな、と思いました。

 あのユイカ様とは別の方向で、この方もまた若くて、幼い。

 

 王太子殿下は十八歳。

 そしてアマリア様は――まだたったの、十六歳なのですよね。

 お二人とも外見は大人びておりますけれど、まだまだ本当にお若いのです。


「ロドリゴ大司教ですよ。たとえどちらが勝って負けようとも、あなた方が割れて争うほど王家の力が、求心力が削がれ、あの御仁が得をする結果になっていた。――利用されていたのは、あなただった。王家の力を奪うために、あなたが利用されていたのです」




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