第72話 王の誕生
「――いたぞ。リザードマンだ」
アマゾネスの国に一泊した俺は、翌日ツア・アマルの先導に従って密林を進み、リザードマンの巣と思わしき場所にたどり着いた。
「何か食べてるね。お魚かな?」
「――ああ。恐らくヴァジカセだ。ナマズの一種だな」
リザードマンは火を使わない。生でそのまま食べている。
「男よ、どうするのだ?」
「奴等を皆殺しにした場合、他の群れが報復しに来るといった事はあるか?」
「それはない。奴等は少数でしかまとまる事ができない。――だからこそ我等はこれまで戦ってこれたのだ。奴等すべてが一つの群れとなっていたら、我等はとっくに滅ぼされている」
「そうか……どちらにせよ、奴等は殺さねば調査ができない。――ここから遠距離攻撃で仕留める。――ノエミ、アリス」
ノエミは詠唱を始め、アリスは俺と手をつなぐ。
「<閃光弾>」
ノエミの杖から小さな光の球が発射され、リザードマンたちの前に到達すると、激しい光を放った。
「――今だ! <魔力付与>」
――バアッシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!
高い耐久力を誇るリザードマンだが、バタバタと倒れていく。
奴等の目がくらんでいる内に殲滅できそうだ。
仮に視力が回復したとしても、遠距離武器が投石と投げ槍しかない奴等に抵抗する術は無い。
「――よし、片付いたな。では早速調査開始だ」
俺は呆気に取られているツア・アマルを放って、リザードマンが食べていた魚を調べる。
「やはりヴァジカセだ。――しかも、肝まで食べている」
「何だと? 我等は勿論、リザードマンもその魚は食わん。毒があるのだ」
ヴァジカセの肝には、わずかではあるがヒワネ豆と同じヒアイ毒が含まれている。
これは、ヒワネ豆を食べる水鳥を捕食しているせいだ。
「いや、だからこそ食べたんだ。耐性を獲得する為にな。――俺と一緒だ」
死なないように少量から摂取していくのだが、致死量は人によってまちまちだ。
うっかり死んでしまう者もそれなりにいた。
生き延びたとしても、呼吸障害の症状が出るので非常に辛い。
それを何カ月も繰り返す事で、完全な耐性を獲得できる。
「奴等にそんな知恵があるというのか?」
「基本的には無い。――だが、稀に賢い個体が産まれる事がある。恐らくそいつが、この方法を発見し、そして広めた」
それはつまり……。
「――ツア・アマル。非常にまずいぞ。リザードマンにキングが誕生している」
* * *
ここは女王専用の浴場。
女王とミリヤ・ミリナは、竹でできた寝台の上に裸でうつ伏せで横たわり、配下の者二名にマッサージをさせていた。
「――ミリヤ・ミリナ。あの男がうまくやり遂げたら、睡眠薬を飲ませ捕らえよ。あやつは良い種付け男になる」
「……インドラを負かしている男です。おやめになった方がよろしいかと」
女王はふっと笑う。
「何だ? ミリヤ・ミリナともあろう者が、男一人を恐れるというのか?」
「い、いえ……そういう訳ではないのですが」
「お前もそろそろ子が欲しかろう。あの男なら、お前に見合うかもしれん。――さすがに専属という訳にはいかぬが、優先的には回してやろう。――どうだ?」
「男とまぐわうなど、気色悪くてできません。――いえ陛下、そういう事ではないのです。実は昨晩、ニユネビがあの男に媚薬入りのワインを飲ませたそうなのです」
「何だと? ふはは、ニユネビの奴先走ったな。――それで?」
「はい、あの男の子種がどうしても欲しかったそうで……。しかし、あの男にはまったく効かなかったそうです。もしかしたら、毒に耐性があるかもしれません」
「――そうか。では睡眠薬が効かなかったら殺せ。この国の存在が外に漏れだしては困るのだ」
「……それはさらに危険かと。あの男は陛下の話を聞いている時、素直に話を聞くか、それとも我等を皆殺しにして男達を解放するかを、思案している眼をしていました」
女王は大笑いする。
「一人でアマゾネス三百人の戦士を殺せるというのか? どうしたのだ、ミリヤ・ミリナ。今日のお前は、いつもの堅物ぶりが嘘のように面白いではないか!」
ミリヤ・ミリナは押し黙る。
確かに女王の言う通りだ。インドラですら、一度に相手にできる相手は四人。
あの男がそれより上だとしても、せいぜい六人ほどだろう。
だがあの眼は、皆殺しにできるという確信を持っている眼だった。
――ガラッ!
浴室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の戦士が浴室に駈け込んで来た。
「何事か!? 陛下の御前だぞ!?」
「た、大変でございます!! 我がアテホ・ネイジにリザードマンの大軍が!!」
「何だと!?」
私の新作
死に戻りのオールラウンダー、100回目の勇者パーティー追放で最強に至る。 ~魔王が闇堕ちすると人類滅亡! 魔族語マスターしている俺が、彼女をデレさせ闇堕ちを防ぐ!~
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