第68話 行方不明者の捜索
「ここで何者かに拉致されたようだ……」
俺は二人の男の足跡が、急に途絶えているのを発見した。
「え? 人間の仕業なの?」
「どうやら、そのようだな」
俺もマコン・サーイラの密林に来るのは初めてだった。
多くの沼があり、そこにリザードマンが住んでいるという事しか知らない。
もしかしたら、俺の知らない部族がこの密林にいるのかも。
「複数人の足跡がある。こいつらが誘拐犯だろう。この足跡をトラッキングするぞ」
俺はアリスとノエミを連れて、行方不明者の捜索に来ていた。
とある錬金素材屋が【高潔なる導き手】に薬草採取の依頼をしたが、期限を過ぎても帰ってこず。
仕方ないので、別のギルド【マジカル・ファイターズ】に依頼するも、これも行方不明に。
俺達がちょうど他の簡単な依頼に出発しようとしていたところ、【マジカル・ファイターズ】のギルド長が駆け込んで来た。
俺は簡単な方をエクレア達に任せ、緊急性を要するこちらの依頼を優先させた。
「――地面がぬかるんでいて、足跡が残りやすい。これは助かる」
トラッキング自体は簡単だ。
ただ、行方不明者を連れ戻すのは、そうもいかないかもしれない。
「この複数の足跡、明らかに指揮官とそれに追従する者の動きだ」
「組織的に誘拐したって事?」
「おそらくな……」
何のために拉致しているのだろうか?
俺は収容所の事を思い出し、思わずぞっとする。
「――この辺りは頻繁に通っているようだな」
ある程度密林の中を進むと、二人を拉致した者達の足跡以外にも、複数の足跡が見受けられるようになった。
「このまま拉致した者達を追ってもいいのだが、この一番新しい足跡、非常に気なる。――恐らく、まだ30分も経っていない」
「じゃあ、今からでも追いつけるかもしれないね」
「ああ。そしたら捕まえて、色々と聞いてみよう。――そういうのは得意だからな」
俺は潜入先で情報を得るために、拷問、尋問スキルを会得している。
情報は戦いの要だ。俺の所持スキルで最も役に立つものだろう。
「レイ君、怖いよー」
ノエミが苦笑いする。
彼女の前では当然使えない。やる時は席を外してもらう。
「では、この新しい足跡をトラッキングするぞ」
人数は四人。内一名はかなり小柄だ。恐らく子供だろう。
俺は辺りを注意しながら、慎重に進む。
この足跡の主たちも警戒し始めているのだ。
「――俺のトラッキングに気付いたか?」
追跡者が俺だけであれば気付かれる事はないだろうが、今はアリスとノエミもいる。
特にノエミは、隠密スキルが皆無と言っていい。気付かれてもおかしくはない。
「アリス、ノエミ、ここから先は俺だけで――」
「――いやああああああ!」
密林の奥から子供の悲鳴が聞こえてきた。
「レイ君!」
「ああ! 行くぞ!」
俺達は声のした方へ全速力で駆ける。
「襲われてるのかな!? 襲ってるのかな!?」
「――分からん! とりあえず敵の姿が見えたら、お前は隠れていろ!」
「わかったよ! でもアンデッドだったら、援護するね!」
「ああ、頼む!」
さらに走る事数分。ついに足跡の主を発見した。
「これはまずいぞ!」
すでに二名が殺されており、少女がリザードマンに食われかけていた。
褐色の肌の女戦士が何とか助け出そうとしているが、相手は三体。かなり苦戦している。
「そこの女戦士、助太刀する! シッ――」
俺は三一体の剣にMPを送り、冷気の力を発動させてから斬りつけた。
シャキッ! シャリシャリシャリ! バリーン!
斬りつけた所から瞬時に凍り付き、リザードマンはバラバラになった。
こいつらは冷気に弱いので、簡単に凍らせる事ができる。
「――二匹目!」
少女を咥えていたリザードマンの首を狙う。
鱗が固く、撥ね飛ばす事はできない。しかし、冷気で殺せるので問題は無い。
「最後!」
残ったリザードマンの腹部を突く。いくらか刃が刺さった。
リザードマンは斬撃よりも刺突攻撃の方が有効だ。だから女戦士達も槍を持っているのだろう。
シャキッ! シャリシャリシャリ! バリーン!
「これで全部だな。――ノエミ、治療だ!」
少女は腹部を損傷しており、すでに死にかけている。
あと一分ももたないだろう。
ノエミが急いで駆けつけてくる。
「これは即回復させないとダメだね……! <即時治癒>」
少女の傷が一瞬で回復した。
回復魔法は級が上がると、回復速度が上昇する。
上級回復魔法の<即時治癒>であれば、どんな傷でも瞬時に回復できる。――もちろん消費MPもべらぼうに高くなるのだが。
「<魔力付与>――ノエミ、あいつも治療してやってくれ」
俺が指差した先には、腹部から血を流してうずくまる女戦士の姿があった。