第1話 惨めなヒーロー
「――早くMP回復しなさいよ、このグズ!」
「すまん。今すぐやる――<魔力付与>」
すぐさま焔の魔女エクレアに、俺のMPを分け与える。
俺達四人は、ヘトラ山山頂でレッサードラゴンと死闘を繰り広げていた。
「遅いのよノロマ!――<獄炎>」
エクレアの杖から放たれた地獄の炎が、レッサードラゴンを襲う。
しかし下等ドラゴンとはいえ、一応はドラゴン族である。
高い炎耐性を持っているので、エクレアの<獄炎>を食らっても、ピンピンしている。
「エクレア! レッサードラゴンは高い炎耐性を持つ! 攻撃はディリオンに任せて、お前は補助魔法に徹しろ!」
「うっさいわね! ゴミの分際でアタシに指図しないでくれる!?」
レッサードラゴンが首をもたげた。
狙いはディリオンと雷神ヴァルフレードだ。
「まずい! ヴァルフレード! <雷撃>で牽制しろ!」
「誰がお前みたいなゴミクズの指図を受けるかよ!」
ヴァルフレードは俺の指示を無視し、回避行動に入ろうとしている。
だが、間に合わないのは明白だ。
「クソ……! ――俺を狙え、ドラゴン!」
ガンガンガン!
バックパックに吊るしてある鍋を棒で叩き、レッサードラゴンの顔をこちらに向けさせる。
「ちょっと! アタシまで巻き添え食らうじゃない!」
「よし、俺を標的にしたな! <魔力の盾>」
俺はエクレアの手をつかむ。
こうすれば、彼女にも<魔力の盾>の効果が伝わるのだ。
レッサードラゴンが口を大きく開いた。
俺とエクレアは、レッサードラゴンの炎のブレスに包まれる。
だが魔力の防護膜で防いでいるので無傷だ。MP9999ある俺の<魔力の盾>は、そう簡単には破られない。
「気持ち悪いわね! 触んじゃないわよ!」
バチンッ! 俺はビンタされる。
命を助けたのにこの仕打ち。思わず殴り返したくなる。
「エクレア、そんな気持ち悪い男は放っておいて、僕と手をつなごう! 君の力を貸してほしい!」
「はーい、ディリオン様!」
エクレアは目をハートマークにさせながら、氷の貴公子ディリオンと手をつなぐ。
二人が手をつないだのは合成魔法を使用する為だ。もっともエクレアに関しては、イチャつきたいのもあるのだろうが。
「<絶対零度>」「<魔力収束>」
ディリオンの杖から放出された強烈な冷気は、拡散せずに光線となり、レッサードラゴンを貫いた。
腹に穴が開いたドラゴンは地面に墜落する。
「やりましたね、ディリオン様!」
「うしゃしゃ、さすがだなディリオン!」
「ふふ、まかせてくれたまえ――」
ディリオンは美しい金髪をサラリとかきあげる。
――レッサードラゴンが首をもたげた。
「まだ生きてるぞ! <魔力の盾>」
炎のブレスから守ろうと、三人の前に大の字になって立つ。
しかし、<魔力の盾>は自分にしか効果がない。全ての炎を防ぐ事はできなかった。
「きゃああああ!」「うわああああ!」「ぐわああああ!」
三人は炎に焼かれ、その場にくずれ落ちる。
今すぐ治療しないとまずい。だが、レッサードラゴンが再び首をもたげたのが見えた。
「治療している間にブレスを吐かれる! 先にドラゴンを倒さねば……!」
しかし、俺が使える魔法は<魔力付与>と<魔力の盾>のみ。レッサードラゴンを一撃で倒す魔法など持っていない。
ではどうするか?
「うおおおおおお!」
俺はレッサードラゴンにまっすぐ突っ込み、ブレスを吐けないように口を押さえ込みながら、奴を抱え上げた。
<魔力の盾>にほぼ全ての重さがかかるので、俺はかなりの重量を持ち上げる事ができる。
数百以上の莫大なMPを消費するので、他の魔術師にはできない芸当だ。
だが、その事に敬意が払われる事はない。それどころか、荷物持ちくらいにしか役に立たないと馬鹿にされている。
「でやあ!」
俺はレッサードラゴンを崖から投げ落とした。
深手を負っているから、空は飛べないはずだ。
崖から下をのぞき、レッサードラゴンが落下死している事を確認すると、俺はすぐさま三人の元へ駆けて行き、傷薬で治療をおこなう。
彼等は重度のやけどを負い、意識が混濁していた。治療がもう少し遅れていたら、助からなかっただろう。
「――レイ! てめえ! 何ですぐに治療しなかった!?」
雷神ヴァルフレードに顔面をぶん殴られる。
<魔力の盾>を使っていなかったので、鼻血が噴き出した。
「うぐ……先にレッサードラゴンを始末しないと、ブレスでお前達が焼き殺されてしまうだろ!」
「何を言ってるんだ君は!? まさか自分が倒したとでも言うのかい!?」
「そうだ、俺が崖から投げ落としたんだ……」
三人は大笑いした後、激しい憎悪を抱いた表情を俺に向ける。
「アンタ、殺すわよ……? ドラゴンを倒したのはディリオン様でしょ? 人様の手柄を横取りしようってワケ?」
「いや、本当なんだ! そこの崖からのぞいてみてくれ!」
「単に弱って崖から落ちただけだろうが! てめえ、本当どうしようもねえクズだな!」
「ろくな魔法が使えず、手柄を立てられないからといって、盗人のような真似をするとはね……この事はギルド長に報告させてもらう!」
「手柄なんてどうでもいい! 俺はお前達の命を救いたかっただけだ!」
「何が救うよ!? ゴミの分際で、上から目線でムカつくわ! 何か、やたらアタシと手をつなごうとするし! 気持ち悪いったらありゃしない!」
「そうしないと、お前が死ぬからだ! 俺だって好きでやってる訳じゃない!」
「戦闘中もあれこれ指図しやがって! クズのくせに偉そうにしてんじゃねーぞ、ああん!?」
「そんなつもりじゃない! ただ、みんなを無事に帰したいだけなんだ……!」
「君は僕等のMPを回復する事と、荷物を運びさえすれば、それでいいんだ! 出しゃばらないでいただきたい!」
「そうしないと、お前達は全滅しているんだ! どうして、それを分かってくれない!?」
三人は大笑いする。
「ははは! まるで自分のおかげで、うまくいっているとでも言うような口ぶりだね」
「ヒーローに憧れちゃう年頃ってか? 妄想は夢の中だけにしておけよ! このゴミが!」
「いるのよねー、こういう何もできない癖に『私、仕事してます』アピールだけはしっかりしてる奴」
いつもこうだ。
みんなの為を思って行動しても、褒められないどころか、むしろけなされてしまう。
俺は二つの初級魔法しか使えない底辺魔術師だから、まともに評価をしてもらえないのだ。
才能の無い人間というのは、ここまで惨めに生きなくてはいけないのだろうか?
(――駄目だ、弱気になるなレイ……! めげずに努力し続ければ、きっといつかは認めてくれるはずだ!)
――そんな俺の想いは、翌日すぐに裏切られた。
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