最後の公演6
「ヴィオには心があるんだ!」
少年は叫んだ。
村人たちは静かに見つめていた。
「こいつはただの機械なんかじゃない! ちゃんと考えて、俺と話して、……歌ってくれるんだ!」
彼は何度もヴィオのことを説明した。
言葉の端々に、ヴィオがただのロボットではないことを伝えようとした。
しかし――
「それが本当だと思うか?」
村の長老が冷ややかに言い放った。
「機械は、どれだけ人間らしい動きをしても、それは『人間の真似』をしているだけだ。」
「そんなものに情を持つのが愚かなのだ。」
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「じゃあ、どうすればいいんだよ……!」
少年は拳を握りしめた。
「どうすれば、ヴィオが心を持ってるって証明できるんだよ!」
必死に言葉を探す。
ヴィオは今まで何度も少年の言葉に反応した。
冗談を言ったり、言葉を濁したり、機嫌を取るようなこともあった。
まるで、人間みたいに。
でも、それは結局プログラムされた応答に過ぎないのか?
「ヴィオ……お前は、本当に俺のことを友達だと思ってるのか?」
少年の問いに、ヴィオはゆっくりと瞬きをした。
「……君は、僕の……大切な、観客。」
「それは……お前の意志なのか?」
「……わからない。」
答えは、曖昧だった。
しかし、少年はそれでも信じたかった。
「俺はお前を友達だと思ってるよ。」
そう言ったとき、ヴィオの目の奥で微かに光が揺らいだ。
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「もういい。」
長老が静かに言った。
「ロボットに心があるかどうかなど、どうでもいい。」
「こいつは危険だ。過去の二の舞を踏む訳にはいかない」
「――処分する。」
一斉に、男たちがヴィオに襲いかかった。
「やめろ!!!」
少年は必死に止めようとしたが、大人たちの力には敵わない。
鉄の棒が振り下ろされ、ヴィオの身体に深く食い込んだ。
硬い外殻が砕け、中の精密機器が露出する。
「ヴィオ!!!」
村人たちは容赦なく攻撃を続けた。
腕が折れ、足が砕かれ、ヴィオはボロボロになっていく。
それでも、ヴィオは逃げなかった。
ただ、目の前にいる少年を見つめ続けていた。
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意識が薄れゆく中、ヴィオはふと、記憶の奥底からひとつの言葉を引き出した。
「もし私が死んだら、ずっと一番近くで聞いていたあなたが、私の代わりに歌ってね。」
それは、かつて彼が仕えていた歌姫の言葉。
……そうか。
彼女の代わりに。
僕は――
「……舞台に、立たなくちゃ。」
ヴィオは自己診断を走らせ残された機能を確認し、震える身体を動かした。
崩れた足を引きずりながら、少年の目の前に立つ。
そして、かすれた声で、歌い始めた。
それは、音楽隊だった頃に何度も演奏した、懐かしい旋律。
かつて、この歌を聴いていた人々はもういない。
でも、目の前に、ひとりだけ、観客がいる。
「ヴィオ……」
少年の頬を、涙が伝った。
「もういい……やめろよ……」
やめてくれ。
無理しないでくれ。
「……ヴィオ……!」
ヴィオは、最後の力を振り絞って、歌い続けた。
それが、心なのか、ただのバグなのか――誰にもわからない。
それでも、彼は歌った。
そして、静かに、動かなくなった。
あれ?完結してしまった