最後の公演4
少年が街へ通うようになって、どれくらい経っただろうか。
最初は気まぐれだった。だが、ヴィオと過ごす時間が増えるにつれ、少年は毎日のように森を抜け出すようになった。
それが、村の老人たちに怪しまれるのに時間はかからなかった。
「最近、あの子はどこへ行っている?」
「森の外へ出ているのではないか?」
何度問いただしても、少年は適当にはぐらかした。
だが、ある日、老人のひとりがこっそり後をつけることにした。
老人は、慎重に森を進んだ。
少年がどこへ行くのかを確かめるために。
やがて森を抜けた老人は、廃墟となった街の中へと足を踏み入れた。
そこにいたのは――
ロボット。
少年が、そのロボットと話しているのが見えた。
しかし、老人はすぐに身を引いた。
ロボットに気づかれるのを恐れたわけではない。
ただ、見たくなかった。
それ以上、知りたくなかった。
少年が村に戻ると、すぐに老人たちに囲まれた。
「どこへ行っていた?」
少年はいつものように誤魔化そうとした。
「ちょっと散歩してただけだよ。」
「嘘をつくな。」
鋭い声が飛んだ。
「お前、ロボットと接触していたな?」
少年の心臓が跳ねた。
「……なんのこと?」
「しらばっくれるな!」
老人の顔には怒りと、何か別の感情が混ざっていた。恐怖か、嫌悪か。
「お前、あれが何なのか分かっているのか?」
少年は迷った。
ヴィオのことを話すべきか。
いや、話しても理解してもらえないだろう。
「……ただの機械だろ?」
老人は拳を握りしめた。
「お前に、あの時代のことを話してこなかったのは理由がある。」
「それじゃわかんないよ!」
少年は言い返した。
「何が起きたのか、なんでロボットが嫌われてるのか! なんでみんな何も言わないんだよ!」
沈黙。
老人たちは顔を見合わせた。
そして、ひとりが低く言った。
「……ロボットは、人を滅ぼした。」
少年は息を呑んだ。
「お前は、そんなものに関わっているんだぞ。」
少年は思わず言い返した。
「でもヴィオは……!」
老人の表情が険しくなる。
「……ヴィオ?」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
「お前、名前までつけているのか……!」
老人の目が恐怖に染まる。
少年は、村の空気が一変するのを感じた。
彼の中の「知りたい」という好奇心は、いつの間にか「禁忌」へと足を踏み入れていたのかもしれない。
少年は、気づいてしまった。
「知ること」は、「受け入れられないこと」なのかもしれないと――。